第29話 色々あって

月面基地での任務だが、当初は単純な話だった。

遡ること半月。

基地の外側に設置された通信機器が不具合を起こしており、向こう側からの通信が途絶えてしまう。

そのため基地内の調査および、現状の回復がオレたちに託されたのだ。

なのでプランとしては、現地の責任者に話を聞いて、設備を修復して終わるはずだった。


……だが、実情は大きく異なる。


今回の出来事の本質は研究者たちによる一斉蜂起だったのだ。

その反乱は某大国が裏で支援している本腰を入れたものであり、敵方の準備は万全。

オレたちはそれを鎮圧するどころか、拠点のひとつを守るので精一杯となる。


それからも苦難は終わらない。

研究者たちの卑劣な罠、チーム内からの裏切りにより、あわや全滅の危機を迎えてしまうのだ。



「クソッ。連中の攻撃が激しいな。マリスケ、扉はまだか!」


「今プロテクトを解除中! もう少しだけ待つでござるよ!」


「ちくしょう。この扉さえ開けば宇宙船があって、そこから脱出できるのに!」


「……! 開いたでござる!」


「でかした! 隊長、早く行こう!」


「ダメだ! オレまでここを離れたら、宇宙船が総攻撃を受けてしまう。それだけは避けねばならん!」



通路の向こう側からの攻撃は激しさを増すばかりだった。

月面基地の内情や、ここで秘密裏に開発されていた『地球殲滅爆弾』の情報が持ち出されるのを阻止するためだ。

オレたちの口を封じることで。



「ここはオレに任せて先に行けェ!」


「隊長! アンタここに残る気か! そのつもりならオレも戦う! 3人で地球に帰ろうって約束したじゃねえかよ!」


「バカ野郎、上官命令だ! さっさと船に乗り込め!」


「リンタロウ。隊長の言う通りでござる。急がないと増援がやってきて、逃げる事すら叶わずに全滅するでござるよ」


「クソッ! クソォーーッ!」



攻撃が止んだ瞬間を見計らって、オレたちは走った。

後ろから敵の光線弾が飛んでくるが、やがてそれも止まる。

隊長が敵の気を引いてくれたからだ。



「この『宇宙烏賊(そらいか)』の異名を持つオレを無視するとはいい度胸だな! 貴様ら全員撃ち殺してやる!」



腕が何本も生えているようだ、と称されるほどの早撃ちが敵部隊に襲いかかる。

オレは走りながら肩越しに振り返り、彼の最後の勇姿を目に焼き付けた。

そして、乗船。

マリスケの操作によって航行設定がセットされ、そして。


オレたちは再び宇宙へと発った。


追っ手の船が来る気配はない。

オレらが乗っているのは小型の高速艇だ。

このまま行けば追撃を受ける事なく、地球へと戻れるだろう。



「隊長、イサブロウ、デニス、クライ、レミー、ローディ、ハナエ……みんな死んじまったな」


「……そうでござるな。拙者らに出来ることは、政府に基地での事を報告するだけでござる」


「人って、こんなに辛い気持ちを抱えても、生きていかなきゃならないんだな」


「哀しみは消えず。それでも、癒える日は来るでござる。彼らの分も拙者たちは生きて……立派に生き抜くべきでござろう!」


「マリスケ……」



戦友(とも)の顔を見る。

一切の曇りがない、その真っ直ぐな瞳を。



「そもそもお前がヘマしなきゃ、こんな気持ちを味わう事も無かったのにな」


「君子リンタロウ! それは言わぬ約束でごわす!」



それからオレたちは無事に帰還。

色々あってエルイーザ人形もどうにか確保。

もちろん再会した折には、大量の油を吐きかけられるというイベント付きで。



さて、エルイーザと合流を果たしたので、これまでのようにサーバを経由して別の穴へ。

だが次も、その次もハズレだった。



SFの次の舞台は南国の島だった。

人も文明も無い絶海の孤島でサバイバルライフを強いられる事に。



「はぁ……腹減ったでござる」


「マリスケ。トンボを捕まえてきたぞ。焼いて食おう」


「はぁ……ハンバーガーが恋しいでござるよぉ」


「贅沢言うな。餓死しないで済むだけありがたいと思えよ」



夜露を舐め、虫や魚を食べる日々。

食っちゃいけねえ系のキノコに手を出した日もあった。

幸いRPGの世界でレベル99になっていたため、腹痛だけで済んだ。

普通の高校生だったら即死だったかもしれない。

素人は真似すんなよ。


それからはイルカと友達になったりと色々あって、無人島を脱出できた。



無人島の次は外国のスラム街にやってきた。

今回のゲームはサクセスストーリーものだ。

貧困と凶悪犯罪が蔓延する街で、ミュージシャンとして成り上がるというコンセプトとのこと。


そして序盤は完全なる金欠。

だからライブ会場を押さえる事が出来ないので、大通りで歌うしかないのだが。



「♪わんちゃんとぉーー、クマさんがぁーー♪」


「よろしくでござる。未来のシンガーであるリンタロウをよろしくでござる。詳細はこちらのビラで知って欲しいでごなす!」



道行く人たちの無関心さ、無神経さが酷く突き刺さる。

他人ってのはどこまでも冷徹になれるもんだと痛感した。


無人島は肉体的に、スラム街は精神的に辛かった。

どっちがしんどいかと言えば後者だ。

なにせ歌は聴いてくれないし延々笑われるし、もちろんビラなんか受け取っちゃくれない。

目の前で破られたり、投げ捨てて踏まれたりという事がしょっちゅうあった。

オレたちは必死に頑張っているのに酷いもんだと思う。


それからは色々あって大成功して、デビュー曲からいきなりトリプルミリオンを達成。

歌謡祭には毎年出演、ビッグタイトルは粗方受賞、最終的にはオリンピックのBGMとして使用され、ゲームクリア。


そして、サーバへと帰還。

その頃にはさすがに疲れ果てて、オレたちは揃ってへたりこんでしまう。

心も体も限界を迎えていたのだ。



「……なぁ、ちょっと休まねえか?」


「賛成でござる。いい加減しんどいでごわす」



かれこれリアル時間で12時間が経過。

これ以上のタイムロスは避けるべきだ……と頭では解っているが、体がいう事をきかない。

サーバのひんやりとした壁に背中を預けつつ、わずかな休息を貪るのだった。

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