クソゲー2 第26話 正解はいずこに
穴を抜けた先は行き止まりだった。
その代わり、左右が通り道にでもなっているのか、壁らしきものは無さそうだ。
遠くまで見通せないのは灯りが無いためだろう。
「マリスケ。ここはどこなんだ?」
「ここは、サーバの中でござる。自社製ゲームのデータは全てこの中にありんす」
「自社製の?」
「つまり、別作品のデータにも繋がっているでござる」
「何か凄そうだな……ミナコたちはどこに居るんだ?」
「データ修正所に集められているようでござる。それで、今はその座標を探しているんでござるが……」
マリスケが手元の人形を撫でた。
エルイーザ人形は両目をチカチカと点滅させ、口から電子音を垂れ流している。
「検索中……検索中……絞リコミ完了。検出結果ハ7件デス」
「おお、素晴らしい! さすがはエルイーザたん!」
「おい、その7件がどうしたよ?」
「修正所とおぼしき場所の数でござるよ。そのうち正解は1つだけで、残りはハズレでござるが」
「うーん。精度が甘くないか?」
「検索対象の母数は3万を超える膨大なもの。それを7にまで減らしたのだから、十分過ぎるほどの成果でござろう?」
「3……マジかよ」
それは頑張ったと言わざるを得ない。
オレは軽く人形に向かって頭を下げた。
すると、そいつの口からペッと油のようなものが吐きだされた。
何だそのムダ機能!
「んで、どうするよ。その7件をどうやって調べるんだ?」
「手当たり次第に行くしか無いでごわす。判断材料無きがゆえに」
マリスケはそう言うと、人形を両手に抱いて暗い道を歩き始めた。
オレもすかさず後に続く。
ここを一言で表すなら、巨大なトンネルだ。
光源はなく、一切の物音もしない。
その無明の闇のなかを、エルイーザの光だけで進む。
両目がサーチライトのようになっているんだが、多機能すぎると思った。
「なぁマリスケ。さっきから脇道みてぇな穴があるが、どこに繋がってるんだ?」
「様々でござるよ。別ゲーのキャラデータ部屋とか、βテスト用の世界とか。用途によって、穴の向こうの広さもバラバラでござる」
「そうなのか。迷ったら大変だろうな……」
暗すぎて全容が見えないが、ここは相当に広く、複雑な構造をしていそうだ。
歩き続けている間も数えきれないほどの横道を見つけ、そして素通りしていった。
今はマリスケの人形だけが頼り。
暗闇の提灯そのものだと言えた。
「着いたでござる。この道の先が、候補場所の1つでござるよ」
マリスケが穴の前で言った。
中は暗闇そのもので、外からは一切の様子が窺えない。
実際に入らない限りは正解ルートかどうか判りそうもなかった。
「じゃあ……とりあえず、行くか」
「そうそう。中は足場が無いでござる。落下して侵入する感じなので、衝撃に備えるでござるよ」
「それはもっと早く言えよぉー……」
忠告は一歩分遅かった。
体が暗闇に引きずり込まれ、落ちていく。
高さによっちゃあ大ケガ、最悪死ぬんじゃないか……。
という心配はムダだった。
次の瞬間にはケツから着地。
被害はせいぜい、痛みが背骨を走って鼻がツピィンとしたくらいだ。
「いてて……ここは?」
「リンタロウ、平気でござるか?」
「まぁな。つうか忠告は早めにくれよ」
「お主が向こう見ずなだけでござるよ」
改めて周りを確認してみる。
石畳で舗装された道、立ち並ぶレンガ造りの家々、剣や甲冑の看板。
更には街を行く人たちだが、剣や槍で武装している上に、犬耳やら猫耳を生やした姿をしている。
この空気感はもしかすると……。
「ここはファンタジーの世界か?」
「そのようでござる。製作元は何本かファンタジーものをリリースしていたはず……」
その時、快晴だった空に突然暗雲がたちこめた。
ズドン、ズドンと雷鳴が鳴り響く。
人々は逃げ惑うが、雨宿りという雰囲気ではない。
猛獣か何かから逃げようとしているような必死の形相だ。
「おい、オレたちも避難した方が……」
「フハーッハッハ! よくぞ甦ったな、伝説の勇者よ!」
一人の男が突然宙に現れた。
は虫類の様なザラついた肌、恐竜のような立派な角、そして大ワシのような逞しい羽。
子供が想像する悪魔。
そんな言葉がピッタリの姿をしている。
人々が『邪神だ、邪神が攻めてきたぞ!』と叫ぶ。
「姫はこの通り預かった。助けたくば我が邪神城まで来るのだ」
「助けてぇー、勇者様ぁー!」
「なぁマリスケ。勇者ってのはもしかして?」
「我々のどちらか、でござろうな。他に誰も居ないのだし」
「つう事は外れの穴か。とっとと戻ろうぜ」
「承知した……んん!?」
「どうしたよ、変な声だして」
「居ない! エルイーザたんが居ないでござる! これじゃあサーバに戻れない!」
「はぁ!? 何やってんだよ!」
こんなタイミングで無くすとかドジッ子か。
付近を見回すがどこにも無い。
あんな異物感満載のアイテムが見つからないハズはないんだが。
「リンタロウ! アイツの角を見るでござるよ!」
「あ! 何だってあんな所に!」
「フフフ。姫を拐われるとあって慌てているようだな」
「助けてぇー! 最初はクソみたいに弱いけど最終的には最強になる勇者様ぁー!」
「待て! その口の悪い女はどうでもいいが、人形は置いていけ!」
「いにしえの言葉通り、見事私を倒してみせよ。さらばだ!」
「待てぇーー!」
その姿は揺らぎ、そして消えた。
オレらの頼みの綱であるエルイーザ人形と共に。
「マリスケ、ともかく追うぞ!」
「もちろんでござる! エルイーザたんの貞操の危機、拙者が救ってみせるでござるよ!」
「それはたぶん大丈夫だと思うが……急ぐぞ」
「応、でござる!」
こうしてオレは大冒険の旅に出た。
学園恋愛コメディから、剣と魔法の世界に大転換だ。
ちなみに、ゲームの電源は切られていない。
ずっとずーっとオンのままだ。
つまり、さっきのサーバ内の移動も、突然のファンタジー展開も全て見られている事になる。
ユーザーの反応が気になったが、ゲームを止めない当たり楽しんでものと判断し、考えるのをやめた。
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