クソゲー2 第20話 65536匹
10月。
ゲームは折り返しを過ぎ、後半に向けて動き出している。
能力値はというと……。
学力70
体力15
雑学65
センス9
好感度は上から。
リリカ 80
ルイズ 65
ミナコ 62
メル 57
アスカ 51
という所だ。
ちなみに好感度90がカップル成立ラインだ。
もちろん好感度以外の能力も必要になるが、イベント消化率はまだ55%だ。
誰かしらとは成立すんだろうなぁと、どこか他人事のように考えていた。
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10月。
校庭には4台の大型バスが停まっていた。
アイドリング中のために排気ガスがもうもうと立ち込め、軽く頭痛を覚える。
これから修学旅行のため、奈良へと向かう為の観光バスだった。
そんな中で、オレは校門の前で立ち止まっていた。
モブ生徒たちは三々五々と登校し、整然とバスに乗り込んでいく。
……中々やってこないな。まさか病欠ってことはないよな?
そんな事を考えていると、オレの待ち人は背後から現れた。
ポンと軽く肩が叩かれる。
「おはよう、リンタロウ君!」
「おはようエミル。今日は晴れて良かったな。絶好の修学旅行日和で!」
「先行くね、またねー」
「おう。またな……」
1組のバス。
そこへエミルが乗り込んでいった。
その後ろ姿を眺めてから、オレも同じバスへ向かった。
中に入ると、大体の席が埋まっていた。
席順をベースに決められているので、埋まり具合も不規則だった。
「リンタロー、遅いよー!」
「おうミナコ。朝っぱらから元気だな」
「リンタローはイマイチだね。何か嫌なことでもあったの?」
「んな事ねぇよ。なんつうか、昨日の夜は眠れなくてな」
「わっかるぅ! もう楽しみで楽しみで仕方ないよね! 向こうでは一杯楽しもうね!」
ミナコはそう言ってバッグを漁りだした。
そして、パンパンに膨らんだスーパーの袋が取り出される。
どう詰め込んでもバッグに収まりそうにない、いわゆるLサイズのモノだ。
「眠たいときは甘いものだよ。お菓子食べて元気になってね」
「まだ出発もしてないんだぞ。もう開けるのかよ」
「へーきへーき。いっぱいあるからね! はいどうぞ」
差し出されたのは、100円アイスの袋だった。
つまんで手渡してきたんだが、妙に下の方が膨らんでる。
これはまさか……。
「お前、これ……やばくないか?」
「え、え、本当だ! 溶けてるぅぅーー!?」
「アイスを常温で持ち歩いてたのか? バッカじゃねえの?」
「ソーダも小豆もレモンもチョコミントもコーラも全部死んだァァァーー!!」
レジ袋の中全てがアイスだったらしい。
10月といってもそこそこ暑いのに、なんで対策ひとつ取ろうとしないのか。
悲しみの余りにそれらを抱きすくめるミナコ。
水を差すようで悪いが、それはアイスにとって死体蹴りも同然なんだぞ……。
「リンタローしゃん。一生のお願いでず……」
「お、おう。大きく出たな。なんだよ」
「お手元の美味しそうなガムを、一枚恵んでくだしゃい……」
「いいよこんくらい、全部やるよ。つうかお前の一生安すぎだろうが」
「ああああありがとう! 本当にリンタローは優しいね!」
美味しそうなガムと称され、手渡したのは眠気醒ましに買ったやつだ。
強烈ミントの辛いやつ。
ミナコはそれをパクリと噛みながら「辛い! でも甘い!」と涙目で騒いでいた。
こいつって見てて飽きねえよな、と一人で思う。
さて、場面は奈良の大きな公園へと移る。
当然だよな、途中までの道なんて全てデータがあるわけじゃ無い。
2〜3行の描写を挟んだだけで、風景は完全に鹿が支配する世界となる。
バスから降りたオレたちを、公園の覇者たちは一瞥だけして、普段の生活に戻っていく。
彼らにとって人間なんか愚鈍な生き物なんだろうな。
「うわぁ可愛い、鹿がいっぱいいるね! おセンベエあげようよ」
「えー。それは止めといた方が……。けっこう鹿っておっかないぞ?」
「すいませーん。鹿センベエくださーい」
「聞いちゃいねえよコイツ」
ミナコはここで両手いっぱいになる程に購入した。
コイツの『大は小を兼ねる』的な精神はどっかで矯正すべきだと思う。
「さぁ鹿さーん。お腹一杯にしてあげるからねー」
「おいミナコ。なんか揺れてないか?」
「え、え、地震かな?」
「違うぞ、これは……」
ーードドドドド!
鹿の群れだ。
鹿の大群がミナコのセンベエ目当てに集まってきてしまったのだ。
その数はなんと65536匹!
公園内の鹿全てが集まってきたのか、つうかそんな数いるわけないだろアホか!
「ふぇぇええ! どうしようリンタロー!」
「走れ! 寄ってたかって食いついて来るぞ!」
「そうだね、逃げよう……ヘムッ!?」
何もないところで転びやがって馬鹿野郎!
目前に迫る鹿の群れ。
こうなったら奥の手を使うしかない。
「マリスケ! 何とかしろぉ!」
その声に応えるように、地面から用務員らしきオッサンがニョキッと生えた。
手元のホウキで地面を掃きながら鹿を制していく。
「ほらほら、ダミだよぉ〜〜お客さん困らせちゃあ〜〜」
「ミュゥーーィ、メゥウイ」
「はいはい、散った散った。そろそろ晩ご飯にしてやっからよぉ〜」
「ミュゥウイ」
危機は去った。
何かを諦めたような鹿たちが、再び公園へと散っていく。
ありがとう本職のオッサン、おかげで微妙なトラウマ作らずに済んだぞ。
「ふぅ、助かったな……」
「危なかったねぇー。マリスケくんには感謝だね」
「んでよ。それどうすんの?」
大量の鹿センベエが、さっきまでと変わらずにミナコの手元にある。
返品を頼んでも良いもんなのか。
「これって、食べられるのかな?」
「おい止めとけ。腹壊すぞ!」
「でも、おせんべえでしょ? だったら食べちゃっても平気かなーって……」
「せんべえくらい買ってやるから、それは諦めろ!」
「本当!? 嬉しいなぁー」
ちゃっかりしてやがる。
アホの子のくせに意外と世渡りは上手いんだよな。
ちなみに、鹿せんべえはさっきの用務員が全部引き取ってくれた。
万能かよ。
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