クソゲー2 第16話  夏の盛り

テストが終われば夏休み。

一ヶ月以上の黄金時間、公式で許された大休暇だ。


ーーいいなぁ学生は。


親父は物凄く沈んだ顔で呟き、出社していった。

将来が不安になるような背中を見せるんじゃないよ。



「おっと、そうだ。もうすぐ時間だ」


「あら。ずいぶん早起きだと思ったら……お出掛け?」


「そうなんだよ。今日は遊園地に行ってくる」


「それは完全にデートね。息子も大人になっちゃってまぁ……。母さんは寂しいよ」


「はいはい。帰りは夕方くらいだから」


「いってらっしゃーい。避妊はしっかりねー」



最高にデリカシーの無い言葉を受け、家を後にした。

そのまま電車に乗り、待ち合わせ場所まで。



「まだ来てないか。早すぎたかな」



まだ約束には早い頃合いだ。

改札側で相手を待つ。

スマホでも弄ろうと思っていると、待ち人が背後から現れた。

てっきり次の電車で来ると思ってたのに。



「ずいぶん早いのね。待たせたかしら?」


「いや、さっき着いたところだ」



今日のお相手はリリカ。

実はコイツの好感度は、ヒロイン中トップの70だ。

文化祭の差し入れが大きかったようだが、そんなんで靡くなよ、とも思う。



「じゃあ早速向かうか」


「ええ。参りましょう」



遊園地まで最寄り駅から歩いて5分。

雑談するには程よい距離だ。

だから、今気になってる事を訊いてみた。



「あのさ、何で制服着てんだ? 部活は……やってないしな」


「ああ、これ? ワタクシは今現在、学校の制服しか持ち合わせてないの。だから毎日着ているわ」


「はぁ? なんでだよ!」


「何故って、高額だもの。元を取るためにも三年間毎日使わないと」


「十分過ぎるほど活用してんじゃん。洗濯とかどうしてんだよ」


「それは平気。この世界は、何故か制服は一切汚れないから」


「発言には気を付けろぉ!」



舞台裏発言はさておき。

オレの格好も、人の服装に口出しできるほど整っている訳ではない。


本日のオレのお召し物。

アニメ調の犬のイラストがバカでかくプリントされたTシャツ。

その上に羽織ったストライプ柄のシャツには、出掛けに食らった鳥の糞が肩に鎮座。

しかも両肩。

ズボンはピッチピチの素材のショートパンツ。

そして履き物はビーチサンダル。


なんというか、不審者だな。

これならオレも制服で来るべきだったと思わなくもない。



「さて、もうじき着くな。チケット販売所は……」


「何をしているの。こっちよ」


「どこ行くんだよ。入り口は向こうだぞ」


「良いから。着いてきてもらえる?」



リリカがオレの手を引き、明らかに反対方向へと歩いていく。

遊園地の外周をぐるりと回り、やって来たのは園外の公園だ。

それから高台のスペースまで歩き、設置されたベンチに座って、ようやくリリカは落ち着いた。

そして長めの深呼吸。

存分に息を吐くと、清々しい顔で言った。



「やっぱり、遊園地は楽しいわね」


「え……目的地ここ!? 中に入らないのか?」


「お金かかるじゃない」


「そうだけどさ。入園料くらいならオレが立て替えてやるぞ?」


「あのね、ワタクシは物乞いではないの。それに、一度贅沢の味を覚えたら……」


「これからの日々が大変、なんだろ」


「なによ。わかってるじゃない」



リリカは憤然とした。

オレもこの仕打ちには怒りを覚える。

二人の想いが通じたな。



「それよりも見て。ジェットコースター! 凄い角度よね」


「おうそうだな」


「こっちは観覧車ね。素敵だわ。どこまでも見渡せそうで」


「おう、そう……だな」


「どうしたの、泣き出したりして?」


「いや、何でもない」



自然と目頭が熱くなった。

これは何に対しての涙なのか。

とりあえず、将来子供が生まれたとしたら、思う存分アトラクションに乗せてやろう。

そんな思いを抱くのだった。



「突然泣き出すなんて、お腹が空いたのね。分かるわ、空腹って何よりも耐え難いもの」


「……それは?」


「お弁当を作ってきたわ。まだ早いけど、お昼にしましょうか」



リリカはそう言って、タッパーを取り出した。

その中には小石、ツツジ、バッタがある。

少年かよ!



「悪い予感はしてたけど、やっぱりか!」


「大声を出さないで貰える? 人に見られて恥ずかしいから」


「人目を気にするならもっと気を遣え! それから小石はなんだよ、それも食うのか!?」


「そんな訳ないでしょう。頭は大丈夫かしら?」


「ああ問題ないぞ。少なくともお前よりはな!」



リリカは小石をつまみ、それでツツジをすりつぶしだした。

花本来の水分と花びらで直ぐにグチャグチャになる。



「小石はこうやって使うの。蜜だけじゃお腹が膨れないでしょう? でもこうやると甘いご馳走の出来上がり……」


「もうやめてくれ! どっか食いに行こう、飯代ならオレが出すから!」


「あなたも分からない人ね。ワタクシは贅沢をしたくないし、物乞いではないのよ」


「何だよもぉぉ! さっきから心が痛いんだよぉぉお!」



これは一種の拷問じゃないだろうか。

やりたくもないDVを、無理矢理やらされているような気分になる。

しかも当の本人はケロリとしてやがるから、尚更不条理さを感じる。



「安心して。男性がこんな食事じゃ満足出来ないことは、予め承知の上よ」


「やめろ……これ以上は捌ききれん」


「はいどうぞ。大きいのが獲れたのよ」


「お前それ、キイロ・スズメバチじゃねえか! 危ねえだろ!」


「平気よ。もう死んでるし……あら?」


「おいちょっと動いたぞ! まだ生きてんじゃねえか!」


「リンタロー、後ろ後ろ!」


「え……? うわあぁぁぁーー」



オレは高台から綺麗に落下した。

幸い怪我は大したこと無かったが、体力がー30となった。

つまりは、再び自宅療養となる。


ちなみに何度かリリカが見舞いに来ようとしたが、全力でお断りした。

手土産として、どんな虫を持ってこられるか分かったもんじゃないからな!

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