クソゲー2 第15話  燃えるような赤点

文化祭でまずまずの成功を修めて、迎えた7月。

間もなく期末テストがある。

夏前とは言えど受験生なのだから、勉学も励まなくちゃならない。

そもそも学力が低すぎると、ヒロインの誰とも結ばれない可能性があるのだ。

プレイヤーもその辺を意識しているハズなんだが……。


ちなみに平日は休養、週末はバイトに明け暮れたので、10万近い金と限界値近い体力がある。

その代わり学力は最低値の1。

果たしてどうなることやら。



ーーーーーーーー

ーーーー



「来週から期末テストだからな、しっかり勉強しておけよー」



HRの終了間際にモブ教師がそう言い残し、教室を後にした。

部活も休みなので、今日はこれにてお終いだ。

生徒たちもガヤガヤと騒がしく帰り支度を始める。

そんな中、一際早く動いたミナコが、オレに話しかけてきた。



「ねぇリンタロー。今日時間ある?」


「あるけど、何か用か?」


「これから自習室に行ってさ、一緒に勉強しない?」



ここで選択肢が表示される。


【ミナコの誘いを受けますか?】

→・良いね、行くか

 ・断る

 ・コートジボワール



「良いね、一緒にやっか」


「やったね。じゃあすぐに行こう。席埋まっちゃうよ」



こうしてオレたちは、本校舎1階にある自習室へと向かった。

さすがにテスト前のせいか、普段はガラガラの室内も、そこそこ人が入っていた。

それでも真剣に勉強するヤツは少なく、参考書片手に雑談する姿が多く見られた。



「さて、リンタロー。最近成績が良くないよね?」


「そうだな。下手したら、学校サボってる不良よりも悪いかもしれん」


「だから今日は私が勉強を見てあげるね。一緒にがんばろっか」



これは元からある台詞だ。

試験前に一定以上の学力を割っていると、お助けイベントとしてミナコの特別授業を受けることができる。

本来なら有り難い話なのだが、2週目のコイツに言われると腹立つな。



「じゃあね、まずは教科書開いてー」


「待てよ。何の教科をやるんだ……」


「全教科やるよ。そうだ、まずは理解度チェックからやろうか」


「それって、重要語句やら公式やらを知ってるかどうか?」


「そんな感じかな。じゃあいくよ。鎌倉時代の武士によって初めて生まれた三平方の定理を使って、三角柱の体積と摩擦係数を求めてみて」


「……はぁ!?」


「解らない? 今のはちょっと難しかったかなぁ」


「そうだな。問題も理解できないなんて、勉強以前の話だなボケが」


「じゃあ次はもっと簡単なのからいくね」


「せめて解読できる内容で頼むぞ」



オレの願いも虚しく、似たような出題は続いた。



「無セキツイ動物の集合Xのグラフを積分し、その定数から一意に定まる、いとおかしき作者は誰?」


「お前は10秒前の会話も覚えてらんねぇのか?」


「えーっとね、じゃあもっと簡単なやつね。大気中の粒子の大半を占める幕末志士が、因数分解して始めた貿易を、3つ以上の季語で答えて」


「わかったバカなんだろ、バーカバーカ」


「もう! ちょっとは真剣にやってよ!」


「お前だよこの野郎! そのミックス例題は何なんだ!」


「だって、私の方が頭良い感じで教えなきゃいけないイベントでしょ? それに全科目やんなきゃいけないし。だから……」


「舞台袖がチラチラ見えてんぞ」


「全部同時進行させちゃえって思って」


「やっぱりバカじゃねぇか」



結局ミナコは役に立たなかった。

無視して勉強を始めようとしたが、そうしたら今度は邪魔をする始末。

やれ可愛い文房具買っただの、この動画が面白いだの、逐一話しかけてきやがる。

せめてノートくらい開けよって話だ。


ちなみにステータスはこのように変化した。

・体力75(ー15)

・学力2(+1)

地雷イベントかよ。


それからは帰宅。

平日の行動に『勉強』が選択される。

今はテスト期間中なので普段とは違い、より詳細な行動を選ぶことが出来る。


【どのように勉強しますか?】

 ・無理せず頑張る

 ・親父の栄養ドリンクもらって頑張る

→・高級栄養ドリンク飲んで追い込む(必要条件:所持金10000円)


オレは薬局に向かい、一番高い栄養ドリンクを買ってきた。

それを一息で空ける。

すると、焼けた鉄の塊でも飲み込んだかのような、熱く重たいものが胃を直撃した。



「き、き、効いてきたァーーッ!」



それからオレはろくな睡眠も取らず、延々と自習した。

ステータスはこう変化する。

・体力65(ー10)

・学力12(+10)

・所持金65000円(ー10000円)



平日は毎日同じことを繰り返した。



「き、き、効いてきたァーー!」



高額紙幣を小瓶に化けさせ、一気に消費する日々を。



「き、き、効いてきたァーー!」



土日は泥のように眠るだけ。

そして一週間が過ぎた頃、ステータスはこうなっていた。

・体力25

・学力52

・所持金25000円


そこそこの数字だと言える。

問題なくテストをパスできるラインは、学力30だからだ。

実際期末テストを受けたところ、トップ50位内に入っていた。

学力最低値からは想像も出来ない大躍進だった。



「リンタロー、頑張ったね! 50位内に入ってる!」


「ありがとうよ。頑張った甲斐があったもんだ」



ちなみにミナコだが、その名前は載ってない。

1位はもちろん10位内にも。

上位どころか端から端のどこにも。


なぜなら、試験当日は病欠をしたからだ。

どうやら前日の日曜日に、あちこちでかき氷を食いまくったらしい。

確信犯だろ。


もちろん代わりのテストを受けることになるが、それは本編で語られない部分だ。

今は改編モードでシナリオ修正が出来るから、ミナコが劣悪な成績をとっても詰むことは無い。


アイツの結果がどうだったかは敢えて語るまい。

ただひとつだけ言うとしたら『学校一の才女』という肩書きが自称になった、とだけ。

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