クソゲー2 第14話 足りない分はこの顔で
午後3時半。
あと一時間もすれば文化祭は終わりだ。
オレはライブを控えてるので感傷に浸っているゆとりはない。
むしろこれからが本番なのだ。
オレたちの他にも二組ほど出演する。
会場は体育館で、倉庫を臨時の控え室として使用している。
緊張で手が湿りだし、しきりに裾でぬぐい続けた。
周りのモブたちも『うまくいくかなぁ』『緊張するなぁ』と口々に言う。
感情の籠っていない言葉だが、状況も相まって尚更オレの心を不安定にした。
「はぁー。大丈夫かよ、マジで」
「リンタロー。不安なの?」
ルイズはいつも通りだ。
表で指慣らしにギターを弾き、即破壊して、存分においもさんを焼いたりした。
ホンワカ漂う甘い香りが、わずかに心を和らげてくれる。
「ふぅ。芋の匂い嗅いだら、ちょっと落ち着いた。ありがとな。……いや、要らん。食いたい訳じゃない。いらねぇって、無理矢理食わそうとすんな!」
オレたちがジャレている間も、先客のライブは始められた。
一組目は流行りの曲をコピーしたロックバンド。
勢いと音量で客を圧倒する。
二組目は女の子のフォークデュオ。
爽やかな曲調と可愛らしい歌声でホッコリ。
演奏を終えた彼らが、舞台袖から帰ってきたときに口を揃えていっていた。
ーー楽しかったね! またやりたいね!
良いな、その台詞。
オレも心から言えるよう、悔いの無い演奏をかましてやるか!
決意を固め、袖からステージへと向かう。
観客の入りはそこそこで、全校生徒の7割方と、多くの保護者が観ていた。
たぶん300人くらいか。
これは下手な失態は避けたいところだ。
「リンタロー、頑張ってねー!」
「リンタロさーん。既に格好良いッスよー!」
聴衆の前の方から、耳慣れた声援が飛んできた。
そうだ、コイツらに聞かせてると思えば良い。
あとの人間はオマケみたいなもんだ。
……と思っていたら、ふと心が軽くなった。
「リンタロー。もう始めていいかしら?」
「待たせたな。いつでも」
「それじゃあ……」
ルイズのコードとメロディが軽やかに、優しく奏でられた。
最初は全てがチグハグなリズムで、輪郭の見えない音が氾濫した。
たかそれも徐々に整いだし、やがて美しいハーモニーへと変貌する。
それを待ち受けていたベース、そして打楽器のカフォン。
一糸乱れない連携プレーは、シンクロナイズド・スイミングを思い起こさせる。
「そろそろオレも入らなきゃ……」
打ち合わせ通り、最後に自分が乱入した。
芯の無い不明瞭なメロディ、自信無く放たれ、珍妙にズレてしまうリズム。
弾いたオレが言うのもなんだが、酷すぎる。
これまでの上質な世界が、一気に3ランクほど格が下がってしまった。
美しいシンクロナイズド・スイミングの隣で、下手くそなバタ足を繰り返す場違い感。
自分だけがダッパンダッパンと、派手な水飛沫をたててるような恥さらし感。
自然と顔が熱くなっていくのを感じた。
「リンタローしっかり。もうすぐソロよ」
「わかってる、任せろよ」
8小節と短いながらも、自分にとっちゃ難関過ぎるソロプレイ。
その手前まで演奏が終わると、世界が止まった。
【大事なソロフレーズをどうしますか?】
・練習通り丁寧に弾く
→・顔で弾く(必要条件:動画視聴4回以上)
・最前列に座る女の子のパンツがシマシマだ
オレは懸命に顔で弾いた。
といっても歯で演奏とか、弦に頭突きするとか、そういう事じゃない。
音はそこそこに『顔』で、表情筋で演じるのだ。
怒りを、哀しみを、そして愛を!
この世にあまねく数えきれない絶望をッ!
こんな芸当も、日夜ライブ動画を漁りまくったおかげで身に付いた。
何せ毎晩エアギターだけは欠かさなかったからな。
指は動かなくとも、ストックはパンパンだぜ!
「リンタロー、かっこいいーッ!」
「リンタロさぁーーん!!」
客席がそこそこ湧いて拍手までしてもらえた。
素人演奏にしちゃ上出来だろう。
そのままボルテージは高めのままでライブ終了。
オレの初ステージは成功に終わったのだ。
「お疲れさま、リンタロー。あんなテクニックを持ってたのね」
「お疲れさん。あれはつい、やってみたくなってな」
「あれは半分禁じ手よ? 演奏もバッチリ弾ける人が没入したときに出る顔なんだから。あまり多用しないようにね」
「そ、そうか。気を付けるよ」
ライブは上手くいったけど、ルイズの評価は上がらなかった。
ちなみにミナコとアスカはそこそこ増、リリカは爆上げ。
そして気になるメルはというと、微減だった。
その結果にはオレもひと安心する。
攻略キャラの好感度が下がって嬉しいとか、不条理な気もするが、これも必然だと思った。
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