クソゲー2 第13話 文化的な祭りとは
ゲーム序盤の一代イベントである文化祭が始まった。
この時期ばかりは、築うん十年のくたびれた校舎も華やかになる。
保護者らしき来場客も押し寄せており、校門から昇降口の間には数えきれないほどの人で溢れ返っていた。
「すげぇ人混み。教室まで行くのが大変だなっと」
校門には期間限定のゲートが設置されている。
色とりどりの風船が付いた、何とも楽しげな造りだ。
そこを潜ると、数々の置き看板やらポスターやらが出迎えてくれる。
手作り感が全面に押し出されていて、期待が膨らんでいく。
ここから正面に進むと本校舎。
左手は校庭で、巨大モニュメントや展示物が立ち並ぶ。
ちなみにウチのクラス3年1組は迷路をやっているので、校庭の一画に出展している。
「さて、どうしようかな。部室に行くか、それとも迷路の方に……」
「あっ! リンタロさーん!」
校舎の2階の窓から一人の女子が、オレの目の前に飛び降りた。
それが誰なのかは顔を見るまでもない。
「アスカ。相変わらず元気だな」
「おはよーッス! 先輩、ウチの出し物見てってくださいッスよ」
「わざわざそんな事を言いに来たのか。そのうち寄るよ」
「ダメダメ! それは来ないパターンじゃないッスか! 案内するんで行きましょ」
「おい、離せって」
アスカはオレの腕にしがみつき、強引に連れて行こうとした。
ブレザー越しではあるものの、ほのかに二の腕に体温が伝わって来る。
この感じは何だっけ。
レンガに寄りかかった時と同じ感じだな。
女の子の胸ってやわっこいねーとか、そういうのねぇから。
「いらっしゃいやせーー! 2年2組の遊技場へようこそ!」
連行された先は、かなり殺風景な場所だった。
端に寄せて積み上げられた椅子と机。
教室の中央には長テーブル。
飾り気は全くなく、ミーティングの後のような光景だ。
ただ気になるものと言えば、プラスチックのケースに詰め込まれた懐かしのオモチャだろう。
「ここではアタシと勝負するんス。チャレンジに100円要るけど、ゲームでアタシを倒せたら1000円進呈するッス!」
「マジで? じゃあ一発で勝てたらボロ儲けじゃん」
「アッハッハ。もちろん簡単には負けないッスよ。どうします?」
「やるやる。はい100円」
「まいどありー。勝負はベーゴマとかどうッスか?」
「いいぞ。昔結構遊んだからな」
ちなみにここで扱うものは、リメイクされたカラフルでオシャレな方じゃない。
昔からある、昭和の薫りただよう、真鍮製のものだ。
遊ぶためには自力で紐を巻きつけなくちゃならんが、準備の良いことに巻き終わりのものが多数用意されていた。
これなら連コインにも耐えうるだろう。
「じゃあテーブルに来てくださいッス。始めるッスよ」
「おい、なんで靴下脱いだんだ?」
「あー。これはッスね。手でやるより足でやった方が上手くいくんでー」
「足で放るってのか。お前スカートじゃん」
「平気ッスよ。中にスパッツ履いてますし」
そう言って乱雑にスカートを捲り上げ、オレを扇ぐようにバッサバッサとなびかせた。
『それはそれでご褒美なんだぞ』と思うが、口に出すつもりはない。
「さぁて、やりますか!」
「よしよし。悪いが勝ちに行くぞ……」
ここで世界が動きを止めた。
ユーザーには選択肢が提示される。
【この後にとる行動を選んでください】
・全力で勝負に挑む。
・ここはアスカに華を持たせる。
→・右側に全力で跳ぶ。
・お前のスパッツを言い値で買おう。
相当に迷いながらも、3番が選ばれる。
1と2はまぁ分かるが……跳ぶってどういう事だ?
まぁ選ばれてしまったので、オレに拒否権はない。
すぐに真横へと飛んだ。
アスカも足で投げるタイミングだったので、しかも彼女の利き足の方に飛んだので、その綺麗な開脚を覗き込むような形になってしまった。
オレはど変態かよ。
そう自嘲しかけたが、この選択肢の意図は別のところにあった。
ーーギュォオン!
まるでレーシング会場のような音が耳を掠めていった。
頬もジンワリと熱くなる。
これは……失血?
手を当てて確かめようとしたところ。
ーービシリッ!
背後の黒板がかつて聞いた事の無い音を立てた。
いつの間にか巨大な亀裂が走っていて、その傷の真ん中にベーゴマが突き刺さっていた。
「何だ、これ。さっきまで何もなかったよな?」
「あーーぁ、避けられたッスかぁ。絶対討ち取ったと思ったのにぃ」
「テメェの仕業か! 危ねえだろ!」
「いやいや、アタシを倒したら賞金ゲットですけど、それはアタシに倒される覚悟も……」
「倒すって物理的にかよ!?」
「じゃあ仕切り直しって事で。次は両足を地面から離しちゃいけないってルールにしましょうッス」
「次とかねえよ。やってられっか!」
ベーゴマは人に向けて飛ばすんじゃねえぞ。
危ねえからな!
それからは2階から3階へ向かった。
1組はほとんど人は居ないが、マリスケの居る2組は人の出入りがあった。
映画館っぽい事やってるようだが。
せっかくなので寄っていく事にした。
『入り口』と看板の掛かっているドアから入室する。
中は暗幕で仕切られていて、受付より向こう側は見えない。
目の前には椅子に腰掛けながら金勘定をしているマリスケの姿がある。
「おや、君子リンタロー。見ていくでござるか?」
「映画館って聞いてるけど、何を上映してんだ?」
「拙者イチオシのアニメでござる。ワンコインで入れ替えなし、500円でありんす」
「へえ。見放題だと考えたら安上がり……」
向こう側と隔てているのが布一枚なせいか、上映中の作品の音がだだ漏れだった。
ーー監督。どうかオレに、ワイヤレス打法を教えてください!
ーーふむ……。確かにお前は素質十分。だが、生半可な練習では体得できぬ。過酷という言葉すら生ぬるいぞ?
ーー覚悟してます。オレはどうしても、どうしても甲子園に行かなくちゃならないんです!
ーーその覚悟や良し。では、練習用のブラジャーをつけてマウンドへ……。
ガラガラッ、ピシャ。
オレは何も告げずに教室を出た。
2組はお休みだったらしいな残念だな。
脇目も振らずに足は3組へ。
ここではリリカが軽食屋をやっている。
教室内でも食えるし、持ち帰りもオッケーらしい。
スナックの食べ歩きっていうのも悪くないな。
通路側の窓が外されていて、そこで注文や会計をやっている。
オレはとりあえず列の最後尾に並んだ。
壁のメニューでも眺めつつ順番を待っては見たが……。
「何だこれ。書き間違いとかじゃないよな?」
メニュー自体はとてもシンプルだ。
商品は3つしかない。
ダンボール製の大きな看板に書かれていた商品は。
・たこ焼き風 200円
・お好み焼き風 400円
・ソフトドリンク 100円
謎ラインナップ。
なんだよお好み焼き「風」って。
広島風お好み焼きとか、そういうのはよく聞くが、風の当たる位置がおかしい。
看板担当が致命的なミスをした……とかじゃないよな?
首を捻って頭を回しても答えが見えてこない。
期待と恐怖が混じった気持ちで待っていると、とうとうオレの番が回ってきた。
「いらっしゃい……あら、あなたは1組の」
「リンタローだ。ずいぶん変なメニューだな」
「もしかして冷やかし? だったら邪魔しないで貰いたいわね」
「い、いや。買うよ。たこ焼きの方」
机に200円を置いた。
するとリリカは、しかめっ面を瞬時にスマイルに変えて応対してくれた。
「お買い上げどうも。冷めないうちに召し上がれ」
透明なプラスチックの容器が渡された。
つまり中が丸見えだ。
材料をケチってるのか、中身の形がバッチリ見えている。
それはぶつ切りのタコなんかじゃない。
この概形は間違いない。
「テメェ! なんつうもん売り出してんだよ!」
「失礼な。見た目は悪くても意外と美味しいのよ」
「食品衛生法、食品えーせーほう! 言ってみろ!」
「衛生面の話? 平気でしょう。この世界の住民は腹痛は起こさないみたいだし」
「言葉のチョイスに気をつけろよこの野郎!」
パック越しとは言え、熱で殺菌されているとはいえ、持っているのは嫌だった。
小麦粉でコーティングされていようが、虫は虫だ。
等価交換とは程遠いアイテムの処分に困っていると、世界が動きを止めた。
選択肢のためだ。
【リリカからのアイテムをどう扱いますか?】
・壁に叩きつける。
・最寄りのゴミ箱にダンクシュート。
→・これ、オレからの差し入れだから。
「ほら。これは自分用じゃねえ。お前に差し入れだから」
「え……。本当に?」
「もちろんだ。手の空いた時にでも食ってくれ」
「いいの!? 今更冗談なんて言わないわよね?」
「言わねえって。ここに置いとくから。じゃあな」
不用品を押し付ける事に成功した。
そのまま逃げるようにして立ち去った。
ちなみに、この一件でリリカの好感度が爆上げとなるのだが、さすがにチョロすぎると思う。
子供よりもお菓子で釣られるんじゃないだろうか。
「……ふう。最後は4組か」
ここはメルのクラスだ・
それだけでもう不安に襲われてしまう。
噂の厄介さんはというと、4組の廊下に机と椅子を出して座っていた。
たぶん受付役なんだろうな。
「こんにちわ、リンタロウさん。あなたも試してはみませんか?」
「何だよここ。なにさせる積りだよ?」
「ここは『常識度チェック』ができます。ご自分が常識的な人かどうか、無料で判断できますよ」
「……そうかい。割とマトモな出し物だな」
「試されるならコチラをどうぞ。そして教室の後ろから入ってくださいね」
メルが手渡してきたのは、一枚の紙だった。
設問番号や解答欄が10問印字されている。
なんだか小テストみたいな感じだな。
ーーガラガラッ。
ひとまず入室してみる。
中は殺風景で、パネルに大きな紙が貼り付けられているだけだった。
そこに問題が書かれている。
テーマが真面目なためか、全てが飾りっ気の無いレイアウトだ。
これなら公共機関の張り紙の方がよっぽど華やかだろうな。
「第一問は選択問題か。ええと、下の図からハルバートを選びなさい……」
設問文の下には4枚のイラストが描かれている。
槍状のものばかりだが、刃先が赤く塗られてるのは意味があるのか。
というか、アイツは常識問題とか言ってなかったか。
「第二問 袈裟(けさ)斬りのメリットとデメリットを書きなさい」
うん、もういいや。
10問全部にミミズを書いてから教室を出た。
メルが片手を差し出しつつ話しかけてきた。
「お疲れさまでした。お預かりします」
「別に見てもらう必要ないぞ」
「あなたの常識度は……E判定ですね。これまで何を学んできたんですか?」
「お前こそどんな人生を送ってきやがったんですか? 何でいちいち血生臭いんだよ」
「非常識なあなたにはコチラを差し上げます。これでしっかり学んでください」
「学内で一番狂ってるお前が常識を語るのか」
渡されたのはA4サイズの紙の束だった。
その冒頭読んだだけでも判る禍々しさ。
オレは目を通すことなく、そのままアイテムボックスに突っ込んだ。
謎の虫さんの隣にイン。
早くもゴミ箱みたいになってて、少しだけ悲しくなった。
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