クソゲー2 第9話 楽器屋デート

平日の行動は『部活』が選ばれた。

なので、毎回放課後には部室に寄る必要がある。

ちなみに放課後を迎えた段階で、部室に行かずに帰ったり、別の場所へ遊びに行ったりすることも可能だ。

だが、そういった『違反行為』を繰り返すとヒロイン好感度は下がるし、最悪退部に追い込まれたりと、メリットは全くない。

ユーザーもそこは理解しているらしく、毎日部室に顔を出させてくれた。


そして迎えた金曜日の夕方。

一つのイベントが起きた。



ーーーーーーーー

ーーーー



金曜の午後5時。

オレは空き部屋で課題曲の練習をしていた。

下手さ加減を人に聞かれないのは良いが、話す人が居ないのも退屈だ。

さらに言えば、渡されたこの譜面。

その選曲にも不満があった、



「なんでアニソンなんだよ。しかも鬱アニメじゃねぇか」



別に特定ジャンルを悪く言うつもりはない。

この作品に限り、オレも好きで良く見てたし。

でもこの状況下では勘弁してほしい。

たどたどしい指使いのせいで、何度も同じフレーズを弾かなきゃいけなくなる。


その度にヒロインの悲劇やら、クソモラハラ主人公を思い出してしまう。

その陰鬱な作業にウンザリしかけていた。

だから頻繁に窓の外を見ては、サッカー部の熱気やらに耳を傾けている。


いいなぁ、部活って。

みんな楽しそうだなウフフ。



「どう。練習の方は?」



しばらくたそがれていると、ルイズが様子を見にやってきた。

両手には湯気のたった焼きいもが握られている。



「どうもこうもあるかよ。曲を変えてくれ」


「あら、難しかったかしら?」


「難易度もだけど、曲調が辛い。もっと楽しげなヤツにしてくれよ」


「そうよねぇ。やっぱり借り物の楽器じゃあ弾いても楽しくないわよね。自前のギターを手にしてようやく気持ちが高まるものね」


「話聞いてる? 課題曲変えてくれって言ってんの」


「どう。今度楽器屋さんに言ってみない?」


「聞けよオイ」



コイツ……人の要望には答えず、無理矢理話を進めようとしてやがる。

面倒臭がりなのか、それとも病的なマイペースなのか。

この際どっちでも大差ないが。

さらにここで、オレの気持ちを無視した選択肢が表示された。



【彼女の言葉になんと答えますか?】

 ・親父の楽器借りるからいいよ。

→・良いね、ちょうど金持ってるし(必須条件…所持金2万以上)

 ・そんな事よりおっぱい揉ませて



無難に選択肢2が選ばれた。

良かった、3じゃなくて……。



「じゃあ買いにいくか。お前も付き合ってくれるんだよな?」


「もちろん。週末ならいつでも良いから連絡ちょうだい」


「分かった、週末だな……!?」


「どうかしたの?」


「いや、何でもない……」



ここでオレは思い出した。

金曜はすでに『デート』が選ばれている。

まるで先読みしたかのような無駄の無さだ。


たった一周プレイしただけで、ここまで的確に動けるんだろうか。

いや、それはない。

何せ一周目は全ヒロインからフラれた『絶望エンド』だったのだから。

だから自力でたどり着いた考えじゃないだろう。

となると、攻略サイトを見ながら動いているのかもしれない。

一番効率の良いプレーとか調べながら……。


そんな事を考えていると、ルイズが退室しようとした。



「私あっちに戻ってるから、なにかあったら言ってね」


「お、おう」



結局その後は練習に身が入らなかった。

課題曲の変更も忘れたし。

そんなザマでもパラメータには練習一回分が加算されるんだから、理不尽な気がしなくもない。


パラメータ変更あり。

体力15(ー5)

学力14(ー2)

雑学35(+5)

ルイズ好感度30(+5、+5)


部活分と選択肢分が追加された。

ちなみに初期好感度はミナコが50、他は20だったかな。

まぁいいか。



そして迎えた週末、初めてのデート日。

駅前商店街の入口でルイズと待ち合わせだ。

駅方面から私服のルイズが早歩きでやってきた。



「お待たせ、随分早いのね」


「よう。早いって言っても、数分前に着いたはかりだ」



時刻は約束の5分前。

だからルイズが遅刻した訳じゃない。

こういう面だけお姉さんぽいキャラになるのな。


さて、今日はデートとあって、相手の装いから僅かな気合いが感じられた。


長い髪で細い三つ編みを作り、後ろで立体造形を作りつつ、余りを垂らしている。

さなり手が込んでるから、セットに時間かかっただろうな。

服装も春らしく、爽やかな格好だ。

ライトブルーのデニムジャケット、レースで縁取った純白のインナーシャツ、チェック柄のミニスカート。

見た目はかなり可愛らしいとは思う。


その反面オレはというと、無惨なコーディネートだった。

脂染みの付いた無地でヨレヨレな茶色のシャツ、首元がデロンデロンに伸びきったインナーシャツ。

極めつけのズボンはウッカリ穿いてきた中学時代のジャージ。

尻ポケットに縫い付けられた『リンタロー』の名前が痛々しい。

インナーも柄が致命的で、正面にでかでかと『victory』とプリントされている。

しかも一文字ずつ色味が違うから目立つ目立つ。

全然勝っちゃあいない。

さすがセンス値20はクリティカルなミスチョイスをしてくれる。



「どうかしら。今日の格好は?」


「良いと思うぞ、春っぽいし。制服姿とは雰囲気違うよな」


「リンタローもね。学校での印象とは別人みたいよ」


「自業自得だけどさ、今のは皮肉にしか聞こえねぇわ」


「それじゃあ向かうとしましょう」


「お、おう」



微妙に噛み合わない心地のなか、目的の店へと向かった。

『アシッドブラウンサワ楽器店』である。

このアシッドブラウンサワ楽器店とは音楽をやる人間なら必ず一度は訪れるお店で、アマチュアからプロまでお世話になる楽器店だ。

ちなみに店の名前が長すぎるので、大抵は『アシブラ』とか『アシサワさん』なんて呼んだりする。

買い物じゃなくて冷やかしに行くときは、アシブラブラなんて言うらしい。



「いらっしゃーせー」



入店すると、奥のカウンターから店員が挨拶をした。

だが微妙に言葉を拾いきれない。

爆音で鳴らされているアメリカンロックな曲が邪魔をしているからだ。


店内はかなり広いが、壁に飾られる楽器の数々がすさまじかった。

その圧迫感から、ついつい通路の中央を歩いてしまう。

だいたいの値段が所持金オーバーの代物のせいだろう。

仮に触ることがあっても傷つけないようにしないとな。



「んーー、この辺は高いわね。最初はもっと安いものが良いでしょう?」


「そうだな。一万円前後がお手頃かな」


「そうなると、これなんか良いかしらね」



ルイズが指差したのは、彼女と同じガットギターだった。

たぶん品質は別物なんだろうなとは思うが。

ちなみに目の前のギターはお値段15000円也。

まぁ買えるっちゃあ買える。



「お店に頼めば試し弾きできるけど?」


「いいよ。どうせ良し悪しは分かんねぇし」


「そう。じゃあどうする? 買うの?」



【彼女への返事を選んでください】

→・買うぞ、これに決めた。(-15,000円)

 ・やっぱり店員に選んでもらう。

 ・スカートめくっても良いか?



選択肢は1が選ばれた。

つうか毎度3番は何なんだよ、鬼門になってないか?


それから会計処理がなされ、所持品にギターが追加された。

これよりアイテムボックスから楽器を取り出すことが可能となる。



「買えたのね。早速装備してみてよ」


「なんだよそれ、RPGゲームかよ」


「いいからいいから。ストラップを肩に通して……と」



ルイズがオレにギターを『装備』させた。

クッチャクチャの服装に楽器ってスゲェな。何となく世捨て人になった気分だ。



「うんうん。似合ってるわよ」


「オレとしちゃあ楽器代でマトモな服を買いたかったがな」


「それじゃあお茶でもする?」


「ちょっとくらいオレの言葉に反応してくんねぇかな」


「向こうの裏路地に素敵なカフェがあるの。行ってみましょう」


「聞けっつの」



このあと喫茶店により、若干空虚な一時間を過ごした。

所持金からは紅茶代マイナス500円也。


そして帰宅。

自室で今日一日の総決算となる。



パラメータ

 変動無し

所持金 7500円(-15500円)

ルイズの好感度 40(+10)

所持品 ギター×1



そこそこ無難に初デートが終わった。

出費は大きかったが、結果を見れば良い方だろう。

少なくとも、アイツが店内の楽器を壊し回るような事を仕出かさなくて、とりあえずひと安心だ。


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