クソゲー2 第8話 本格始動

今後の本格的なプレイを見越して、シナリオ改編にまで着手を決めた。

この決定にはみんな不安顔だ。

提案したオレでさえ例外じゃない。

どんな荒唐無稽な話になってしまうか、それとも想像以上に綺麗な物語になるのか。

ほとんど賭けのようなものだ。

だけど、進行不能になってしまうよりは、遥かにマシだろう。


さて、ゲームの方はというと、今後はユーザーの意思が介入されていく。

具体的には、今後はユーザーが日々の行動を選び、思う様に学生生活を堪能できるようになる。

二者択一を迫られたり、敢えて反感を買うような事をしたり、まぁそれぞれだろう。


不安を色濃く残す2週目のプレイ。

それが今、幕を開けた。



ーーーーーーーー

ーーーー



小火(ぼや)騒ぎの翌日。

時刻は12時の昼休みだ。

隣ではミナコが華やかな弁当各種を展開し、オレは武骨な箱をかきこむ様にして食っている。

そんなオレたちの耳に校内放送が聞こえてきた。



『えー、こちら放送部。今日もお昼の時間を豊かにすべく、すんばらしい曲を用意してきたでござるよ』



マリスケの声だ。

お昼休みになると、放送部が音楽をかける事がある。

のっけから行動するなんてやる気に満ちてるじゃないか。



「まずは一曲目。アニメ『ろり子魔女り娘(こ)』より。『妹はオサワリ厳禁』を聞くでござる」


「ゲッフゥ!」



スピーカーからハイトーンな声が掠れ気味に飛び出してきた。

出力ボリュームが厳しいんだ。

音割れ手前の限界まで出されているせいか耳に痛い。

そして声質や曲調だけでなく、歌詞の内容もオープニングからフルスロットルである。



『お兄ちゃん(きゅんきゅん)

 おにーちゃん(ドキドキ)

 おニィちゃん おにぃちゃん

 お兄ちゃん(ワッショォーイ!)』



きつい。

イントロだけでも相当に辛い。

こういう曲は公の場で聞くもんじゃないと痛感する。

教室内の空気は言うなれば『家族と一緒に見る、ドラマのエロシーン』そのものだった。

そんな気まずさの中、ミナコが首をかしげつつ言った。



「5人ともお兄ちゃんって言ってるのね。これは全員が妹、なの?」


「ミナコ。悪いことは言わん。すべてを忘れろ」


「えっ、どうして?」


「浮き世に戻ってこれなくなるぞ。忘れるんだ」


「……うん。わかったよ」



不満顔のママだが、納得してくれたみたいだ。

万がいち萌えアニメになんかハマられたら大問題だ。

これ以上厄介な属性を増やされては堪ったもんじゃない。

再び興味を持っていかれないように、オレは追撃気味に話題を差し替えた。



「あー、部活どうすっかなぁ」


「そういえばアチコチ巡ってたよね。どうするの?」



ミナコの問いかけで、画面が一時停止する。

ユーザーに選択を迫る状態になったからだ。

ゲーム画面ではシステムメッセージで、問いかけが為されている。


【入部する部活を選んでください】

【テニス部 カーリング部 文芸部 →ジャズバンド部 帰宅部】


ユーザーはルイズの居るジャズバンド部を選んだ。

まぁ、悪くない。

少なくとも、メルの居る文芸部よりは遥かにマシだと思う。

選択肢が選ばれると、再び世界が動き始めた。



「オレ、ジャズバンド部にする」


「そうなんだ。楽器弾けるもんね。お父さんの影響だっけ?」


「弾けるって言っても大したことないぞ。親父に無理矢理やらされただけだ」


「そっかぁ。頑張ってね。出来れば一緒にダブルスとか組みたかったけどなぁ」


「それはマトモにボールを打てるようになってから言えよ」


「ウグッ。たまになら当たるもん!」


「試合の応援くらいなら行ってやるから、頑張れ」


「うん。ありがとう。私もリンタローのライブ行くからね!」



そう、ジャズバンド部を選んだことで、今後はライブを催す機会が訪れる。

全部で3種あり、文化祭やコンクール、卒業記念ライブがある。

もちろん参加しない選択も出来る。

その代わりルイズの攻略は絶望的に難しくなるが。



さて場面は変わり、自宅となる。

毎週月曜に平日の行動を、金曜には週末の行動予定を決めるのだ。


行動の選択肢には休息・勉強・部活・遊ぶなどがあり、その結果自分のパラメータが変化する。

パラメータは体力・学力・雑学・センスなど種類は多岐にわたり、初期数値は一律20で最大値は99だ。

それらの数値は女性攻略はもちろん、数々のイベントやデートの成否にも影響を与える。



「さて、平日は何をしようかな」


【平日にやりたい事を選んでください】

【…… 部活  →動画視聴 ……】



「週末はどうしようかな」


【週末にやりたいことを選んでください】

【部活  デート  →アルバイト 休息】



行動が選ばれた。

平日は動画漁りで、土日はバイト。

……うん。

ユーザーは恋愛する気は無いのかもしれない。

あの導入シーンを見たら無理もないか。


こうしてオレのパラメータと所持金は変化し、次のようになった。

学力18(ー2)

雑学25(+5)

所持金13000円(+10000円)


この一週間はイベント無し。

詰んだり死んだりする危険がないのは素晴らしいな。

続けて翌週の選択肢が求められた。



【平日にやりたい事を選んでください】

【…… 部活 →動画視聴 ……】


【週末にやりたい事を選んでください】

【部活  デート  →アルバイト 休息】



また同じ選択肢だ。

動画見てバイトしてって、随分質素な高校ライフだな。

パラメータの変化量は変わらず加減された。

学力16(ー2)

雑学30(+5)

所持金23000円(+10000円)



このまま繰り返し続けるのかと思ったが、次は違った。

平日が部活。

週末がデートと選択されたのだ。


オレはこの時点では気づいていない。

このユーザーがかなりゲーム慣れしていて、相当に効率良く動けていることに。

それは即ち『ハーレムエンド』を狙っている行動であることを、後々に知ることになる。

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