クソゲー2 第7話 改編ルール
オレたちは今、多目的ルームに集まっている。
ユーザーが電源を切ってくれたお陰で自由に動くことができるからだ。
女性陣は誰もがメチャクチャ機嫌が良い。
アハハと笑い声まで聞こえる始末。
前回の重苦しい反省会の時とは別人のようだった。
「凄かったねぇ、みんなイキイキしてたねぇ」
「マジびびるッス。虫食っちゃうなんてヤバすぎッスわ」
「それくらいなんて事無いわ。1週目に散々無駄金を使わされたことに比べたらね」
「メルちゃんの演技も凄かったわねぇ。あの四足歩行とか。ウッカリ悲鳴をあげそうになったわぁ」
「気持ちを高めてたら出来ました。皆さんも試してみたらどうです?」
「良いね、今度みんなでやってみようよ!」
「賛成ッス。文化祭の出し物なんかでやらかしちゃるッス!」
「面白そうじゃない。全員並んで壁走りとか」
この場にいるのは文武完璧女、スポーツの神様、高飛車成金に文学少女、そして名ギタリストの卵。
それらの肩書き全てに『元』が付く。
2週目を始めた今はどうだろう。
致命的なドジ。
ハムゴリラ。
虫食い守銭奴。
マジキチ。
リアル放火魔。
一体何を取り違えたらこんな大惨事になるのか。
オレもコイツらの危険性は知っていたが、まさか全力で役に臨むとは想定外だ。
素の人格を出しつつも、多少は公式設定をなぞってくれる……そんな勝手な期待を持ってしまっていたのだ。
開始前に釘を刺さなかったオレにも落ち度はあるが、その分を勘定しても責める権利があるだろう。
後々の為にも、先んじてビシッと言わなくてはならない。
「お前らちゃんとやれよ!」
「何怒ってるの。お腹空いたの?」
「小腹がすいたなら偶然にもハムを……」
「違う、変な気を利かすな! あのな、これは疑似恋愛ゲームなんだよ、こっから淡い恋とか始められると思うか?」
「君となら虫すら食える」
「君に刺されて星になりたい」
「キャッチコピー捏造すんな! 無理だろ。恋だの青春だの言う前に、生命の危機と向き合わなくちゃならねぇだろうが!」
ちなみにルイズの小火(ぼや)騒ぎだが、実はあれが一番危なかった。
この世界では警察も消防も、概念はあるものの機能はしていない。
シナリオに絡まない物事なんか一々データまで用意してないからだ。
だから、うっかり火事でも起こせば打つ手ナシ。
すべてが燃え尽きるのを待つしかない。
「じゃあキャラクターを元に戻しますか? 導入であれだけ知らしめたのに、急に別人になれと言うのですか?」
「それは夢オチってやつかな。起きたら始業式の朝で『あぁ、夢で良かった』とかいう」
「うわぁ。それ最悪ッスね。そんなもん評価が地に落ちるッス」
「良いよ。今さら戻せとか言わねぇ。仮に公式キャラに戻ったとしても、それじゃ1週目と同じなんだから」
「じゃあこのままやり切って良いのね。特に遠慮も配慮もせずに」
「多少は手加減してくれよな。そして、オレが一番話をしたいのは別件だ」
「ふぅん。別件って?」
「シナリオ本体も、随時修正したい」
この提案には周りもザワついた。
無理もない。
常識外れのキャラ替えに加えて、メインストーリーまで手をつけてしまったら、もはや収拾がつかなくなるだろう。
夜の海を羅針盤無しで航海するようなもんだ。
「それはダメでしょう。起承転結すらない、無茶苦茶な展開になっちゃうわよ」
「何も全部差し替えようって話じゃない。どうしようもない部分だけ書き換えたいんだよ」
「例えばどういうの?」
「ミナコ。お前は開始早々詰みかけたよな。問題が解けなくてさ」
「うっ。それには触れないでもらえるかなぁ」
「あれは分かりにくいけどさ、バグと変わらんからな。テキスト送りしてただけで進行不能になってんだから」
「そりゃもう、はい。ごめんなさい」
「確かに冷や汗ものね。でも、ピンチは終わったのだから……」
「他にも一杯あるだろ。キャラ替えしたせいで出来た難関がよぉ」
ここで人数分の『?』が並ぶ。
具体例を挙げなきゃわからんってのか。
それなら分かりやすく説明するまでだ。
「例えば文化祭。リリカ、お前はクラスの為に私財をなげうって、立派な喫茶店を用意するよな。一日限りのイベントの為だけに大金出せるか?」
「冗談じゃない。むしろ労働に対してお給金をいただきたいくらいだわ」
「次に期末テスト。ミナコはぶっちぎりの学年一位を取るんだ。出来なきゃそこで物語は進行しなくなる。どうだ?」
「い、今から勉強を頑張るもん!」
「ちなみにミナコさんには裏で小テストを解かせてみました。正当率は20パーセントです」
「期待正当率は?」
「70ですね」
「これ無理だろ。努力して間に合う期間じゃない」
他にも色々ある。
アスカは不良にからまれたり、メルは学生文学大賞を受賞し、ルイズは有名クラフターにギターを作ってもらう。
分かっているだけでもこんなに詰みポイントがある。
細かいものを挙げればキリがなく、それこそキラ星のごとくってやつだ。
「でも、ストーリーを変えるってどうするんス? 危ないイベントを丸ごと無くしちゃうとか?」
「さすがにそれはダメだろう。そうなると中身がスカスカになっちまう。致命的な部分だけいじれれば良い」
「例えば?」
「期末試験でミナコが赤点を取ったとする。でもこれは極度の体調不良だったって事にすれば良い。帳尻あわせのテキストでフォローして、モブに必要なデータなりを繋いでやればオッケーだ」
「それはそうだけど、上手くいくかしら?」
「現状よりはマシだ。対策をしなきゃ必ず詰むぞ」
周りの反応は悪くない。
置かれている状況が飲み込めてきたのだろう。
みんなの顔色が徐々に真剣味を帯びていく中、メルが片手を挙げた。
「リンタロー。ひとつ気になったのですが」
「なんだ。疑問でもあるのか?」
「貴方の言いたいことは分かりました。確かに適宜改編は必要です。でも、それはある程度使用制限をつけるべきです」
「どういう事だ?」
「誰もが気軽にいじってしまうと、それこそ収拾がつかなくなります。複数人が同時に似たような編集をするとか、真逆の事をやってしまうとか」
「確かに、その心配もあるな」
「だからルールを設けましょう。実質一人が手を加えられるようにすべきです」
「それだと、作業をするヤツの負担が大きすぎないか?」
「言い換えます。専任性ではなく、改編できるのは常に一人だけ、というルールにしたいです」
悪くない案だと思う。
誰かに任せっきりというのも怖いし、そもそも負担が大きすぎるだろう。
「じゃあさ。放送室を編集場所にしようよ。んで、編集作業中なら、オンエアーって表示させるの」
「分かりやすくて良いじゃない。そうしましょ」
「確認するぞ。テキストやイベントの変更を出来るのは常に一人。つまり、誰かが作業している間は何も出来ないと。それでいいな?」
「オッケーです!」
「意義なしッス!」
「じゃあ決まりかな」
「君子リンタロー。拙者を放送部員にしていただけませんかな?」
「いいけどよ。どうしてだ?」
「頻繁に放送室に出入りするのも不自然でござる。よって、何かしらの繋がりを設けることで、その違和感も和らぐでござるよ」
「それはそうかもしれねぇが。良いのか? お前の負担がきっと多くなるぞ?」
「拙者は比較的暇なので、構わぬでありんす。あくまで脇に居るチョイ役でござるからな」
「じゃあ、部員ということにしよう。みんな、あまりマリスケに頼るなよ」
「そうね。頻繁にお願いしたら、ある日怒ってバグ化しちゃうかもしれないし」
「アッハッハ。怒りでバグ化? 面白い冗談でござるな」
「そうよね。あり得ないわよね。マリスケさんは優しい人だし」
こうして当面の対処法は決まった。
本格的なゲーム開始を前にして話がまとまったのはラッキーだった。
あとは、ゲームの再起動を待つばかりとなった。
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