クソゲー2 第3話 部活勧誘

導入の授業が終わると、徐々に主要メンバーと顔を合わせていくことになる。

数々のお役立ち情報を与えてくれるマリスケ。

そして部活巡りをすることで、ミナコの友人であるアスカとも出会う。


アスカというキャラは一つ下の高校2年生で、カーリング部の頼れるエースだ。

本来は女子サッカーにおける名プレイヤーとして登場するハズだったが、急遽扱いが変更された。

リメイク版の制作会議で何があったのやら。

前作を知る人はこの変更には驚いたことだろう。

それはアスカ本人も同様で、その皺寄せっぷりが間も無く明らかになる。



ーーーーーーーー

ーーーー



「はぁー。授業終わったぁ。部活に行かなくっちゃ!」



ミナコが背伸びをしつつ言う。

例の『消えるチョーク』事件を早くも忘れたような様子だった。



「そう言えばリンタロー、部活はやらないの?」


「まぁな。縁がなかったし、つうか面倒くさい」


「ええー、勿体ないよ。友達増えるし楽しいよ?」



かく言うミナコは軟式テニス部所属だ。

シナリオ通りであれば試合も近い。

なのでコーチも付きっきりで、かなりハードな練習をするという描写がある。

この相当にドジな女がどこまで再現できるのか。

ちょっとばかり見てみたい気分になる。



「今からでも大歓迎だよ。良かったら遊びに来てね!」


「行くよ、気が向いたらな」



下校で賑わう廊下をミナコが駆けていく。

数歩進む度に誰かとぶつかってはペコペコと謝っている。

あれは走らない方がよっぽど早く進めそうだと思う。



「おんやぁ。そこにおわすは君子リンタロー!」



体にまとわりつく湿気のように不快な声がかけられた。

顔を見なくとも分かる。

隣のクラスのマリスケだ。



「なんだよマリスケ。何か用か?」


「ムホッ。つれないでおじゃるぅ。戦友を無下に扱うと痛い目を見るでござるよ!」



マリスケはまぁ、この通り病的なオタクだ。

日常会話ですら標準語でやり取りが叶わない。

ちなみに見た目はそこそこ良いので、意外とモテる。

手足はスラリと長く、顔は面長で目鼻立ちくっきり、ノーメイクなのに睫毛もフッサフサ。

それらの利点を一切を活かすどころか、殺しにかかっているのがマリスケという男なのだ。



「オレはこれから用事がある。何もないなら行くぞ」


「いやいやいや、ここで立ち去っては一生後悔するでござるよ。まずは拙者の話を聞くでありんす」


「はぁ……。分かったよ」


「今日は君子リンタローにとっておきの情報を持ってきたでごわす」



マリスケがポケットをまさぐって、スマホを取り出した。

本来であれば、ここでミナコやアスカの詳細情報が聞けるんだが……。



「見るでござる。この動画は昨晩放送されたアニメ『酩酊魔法少女 エルイーザ』のピックアップ集でござる!」


「おい情報屋。ここはミナコやアスカの有益な話を持ちかける場面だろうが!」


「申し訳ない。それがしは立体の女子に興味を持てぬでござる。リアル女子は全て土偶に見える故」


「想像以上に手遅れなんだな、お前って」


「それよりも見ないでござるか? 眠気に負けずに作った動画でごわすが」


「見ねぇよ。どうでもいいし」


「パンちらシーン総集編でも?」


「それ先に言えよ」


「話が分かるでござる」



こうしてオレは柱の陰に隠れつつ、動画を堪能させてもらった。

まさに心が洗われる想いだ。

トータル5分程度の長さだったから、3回同じものを視聴させてもらった。

極めて有意義で、実りある15分だったと思う。



「さて、そろそろ部活巡りに行くか」



マリスケとは熱い握手を交わしたあとに別れ、校庭の方へ向かった。

放課後だからアチコチで活気がみなぎっている。

野球部員がキャッチボールで肩を慣らし、サッカー部員がコーンを立ててドリブルをしたり。


目的の軟式テニスはというと、コートの中で既にラリー練習を始めていた。

その中にミナコの姿もある。

特に声をかけたりせず、遠くから眺めた。



「ミナコ、行くよー!」


「うん。いつでもいいよー」



モブ部員がサーブを放つ。

強めに打たれたボールは相手のコートでワンバウンド。

それをミナコがラケットで打ち返そうとするが、見事に空を切る。

ボールはそのまま止まる事なく顔面に直撃。

あれは結構痛いやつだ。



「結構本気で打ったのにな。ミナコには通用しないかー。私も上手くなりたいなー」


「いてて……私なんか全然だよ、何もスゴく無いってば!」



ミナコがパートナーの言葉をすぐに否定する。

それにはオレも同感だ。

全然スゴくねぇし、むしろ素人の方がいくらか上手いだろう。

そんな行く宛のないツッコミを呟いていると、あちらの状況が変わった。



「ミナコ、体は暖まったか? 今日はオレが直々に特訓をするぞ!」


「はい、大丈夫です。よろしくお願いします!」



ガッチリ体型の短パン男が現れた。

顧問であるモブ教師だ。

シナリオ上ではトスを受けて、ひたすらスマッシュのフォームチェックをするのだが、果たしてどうなるやら。



「じゃあいくぞ。まずは好きに打ってみろ!」


「はい!」



ーーポイッ。

ーースカッ!

ーーポイッ。

ーースカッ!


はい予想通り。

テンテンと寂しげに転がっていくボール。

掠りもしないラケット。

わざとやってるとしか思えないほど、酷い有り様だった。



「ミナコ、よく聞け。お前は優しすぎる。勝負に最も必要な闘争心に欠けてるんだ。だからお前のスマッシュは今一つ冴えない」


「闘争心……ですか?」


「相手に遠慮なんか要らない。むしろ遠慮する方がよっぽど失礼だ。だから思いっきりやれ!」


「はい、わかりました!」



違う、そういうんじゃない。

精神論とかじゃなくて、もっと根本的な指導をした方がいい。

ボールとラケットが50センチくらい離れてるんたから。


ーーポイッ。

ーースカッ!

ーーポイッ。

ーースカッ!



「いいぞいいぞ、その調子だ!」


「ハイッ!」



どの調子だよオイ。

的はずれなアドバイスにしても、見当違いな合いの手にしても、これらは全て元々ある台詞だ。

打てる前提で話を進めるモブと、全く出来ないミナコがタッグを組むと、こんな大惨事になるのか。



「じゃあな、ミナコ。がんばって打てるようになれよ。じゃないと、いつまでも家に帰れないぞ」



成功判定が出るまでは、特訓から解放されないだろう。

彼女の前途を祈りつつ、オレは体育館の方へと向かった。


体育館の隣には小さなアイススケート場がある。

その近くをうろついていると、部員から声をかけられる予定となっているが。

とりあえずする事も無いので、体育館脇の水道で水を飲んでみる。

すると、元気な女の子の声が聞こえた。



「あ! リンタロさん、こんちわーッス!」



そこにはジャージ姿の小柄な女の子がいた。

背丈はオレの肩くらいまでしかないが、鍛えた体からは華奢な印象を受けない。

頬にかかる長さの髪を手グシで整えつつ、アスカは話を続けた。



「こんな所で会うなんて珍しいッスねぇ。ミナコちゃんは一緒じゃないんスか?」


「アイツは特訓中だ。オレはうろついてるだけ。なんか良い部活はないかなーって」


「それだったらウチ見てってくださいよ! アタシもサッカー辞めちゃうくらいハマッてるんスから!」


「お、おい。引っ張るなよ!」



アスカは返事を聞きもせず、強引に引っ張っていった。

連れてこられた先はもちろん練習場だ。



「ようこそ、麗しきカーリング部へ!」


「結構立派な造りしてんなぁ。初めて中に入ったぞ」


「ですよねー。学校も金かけてますよねー」


「ところで、カーリングって良く知らないんだが。ルールすら知らんぞ」


「アハハー、それアタシもなんスよ」


「おい正規部員!」


「まぁまぁ。ともかくこれから実演するんで、座って見ててくださいッス」


「うーん。じゃあ見てるよ」



アスカがリンクに降り立ち、ストーンの側に立つ。

あれを的の近くまで滑らせるんだっけか。

それくらいは判るが、細かいルールとなると全く知らんな。



「リンタロさん! 始めるッスねー!」


「おう。バシッと頼むぞ」


「張り切って行くッスよ。うなれ、鋼鉄の右足ィ!」


「おい、足って言ったか!?」



アスカのポーズが明らかにおかしい。

あれはサッカーのフリーキックで見かける動きだ。



「いけぇ、トルネードシュートッ!」



ーードゴォン!


ストーンが細い足で蹴りあげられる。

めちゃくちゃ重たいだろうそれは、天井間際まで飛ばされた。

まるでサッカーで言うセンタリングのようだ。

そして、事態はそこで終わらない。



「うおおおおーッ!」



アスカがストーンよりも一段高い位置までジャンプ。

しかもコマのようにキリ揉み回転しながらだ。

その動きによる遠心力を十全に活用して。



「死ねぇぇえ!」



ーーズドォン!


ストーンが蹴り落とされた。

リンクに書かれた円のど真ん中に向けて。

その精度はかなり精密で、見事中点を穿った。

そして、あらかじめ置かれていた別のストーンは、全てが粉々に粉砕された。



「どうッスか、リンタロさん。やってみたいでしょー?」


「あれをやれと? ふざけんな」


「さて、お菓子タイムやんなきゃ」


「それは義務なのか?」


「カーリングは知的なスポーツなんで、エネルギー補給しないとダメなんスよ」


「頭より体の方をよっぽど使ってたじゃねぇか」



アスカがポケットをまさぐって取り出したのは丸ハムだ。

包装されたままの丸々一本だ。

いや何でだよ。


当の本人は慣れた手つきで包みを剥がし、端っこからかぶりつく。



「うまっ。でも喉乾きそう」


「初めて見た。ハム一本をお菓子呼ばわりして食うヤツ」


「リンタロさんも食います? 旨いッスよ」



こっちに回ってきた。

しかも歯形が付いてる方を向けやがる。

『これじゃあ間接キスになっちゃうぅ』ってうるせぇよ。



「いらねぇ、腹減ってねぇし」


「まぁまぁ。若いもんが遠慮せんで」


「へムッ」



無理矢理口にねじこまれた。

濃いめの味付けと柔らかな歯応えが絶妙だ。

これはもう一口もらいたくなる。

ここが食卓だったらな。



「どうッスか。これがカーリングの魅力ッス」


「絶対違う。怒られるぞお前」


「次はリンタロさんもやってみます?」


「だからやらねぇって!」


「まぁまぁ、良いじゃないッスか。減るもんじゃないし」


「減るだろ、健康な骨が!」



その時、チャイムに助けられた。

部活止めて帰れの合図だ。



「あちゃー。良いところだったのにぃ」


「残念だったな。オレは帰るぞ」


「じゃあ一緒に帰るッスよ、着替えてくるんで待っててくださいー!」


「じゃあ校門に居るから、早くしろ」


「りょーかいッス!」



外はすっかり夕暮れになっていて、生徒たちも下校を始めていた。

その中にはミナコの姿もあった。

どうやら特訓を終えることが出来たらしい。

そんな事を思っていると、背中がポンッと叩かれる。



「お待たせしやした。帰るッスよー」


「おうよ。あそこにミナコも居るぞ」


「ほんとだ! ミナコちゃーん!」



アスカが駆けていく。

だいぶお疲れのミナコの元へ。

超絶ドジッ子とハム女のツーショットだ。

一日の終わりにも関わらず、二人ははしゃいで手を取り合っていた。



「これでまだ序盤なんだよな……」



早くも綻(ほころ)びだらけになった物語に嫌気が差し始めた。

さらに言えば、まだ3人しか主要キャラに出会って居ない事実が、オレを強く苛(さいな)む。

残りのメンツの顔を思い浮かべてみる。

するとやっぱり、深い溜め息が溢れるのだった。

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