第23話闇に消ゆ! サ・ガーンの拳

 サ・ガーンとレ・スパダールは倒した。


 ま、こんなもんよね~~わたし、つおい! わたし、サイコー! うん、えらい!


 こんなに偉いわたしなのだから、うわばみさんの飛散したあたりの散策までしちゃう。


 細胞一つ、残っていればいいのだ。エリクサーにちょいちょいっとつけて……おっと、これ以上は企業秘密。


「うわばみさーん! どこー?」


 湿気を帯びた風が吹く。髪の毛がぱさぱさになっちゃったよう。


 わたし、なんだか寂しくなっちゃった。


 一仕事終えたんだから、お酒、飲もう? 一緒にエセ方言操って、いい気分でほろ酔い。


 それがわたしたちなんだからさ!


「うわばみさーん!」


 どこに隠れてるの?


「ここよ……ミリシャ様」


 爆破されて黒焦げになった白い柱の影から、白い顔半分出して……ジローさん!


「タローさんは!?」


「あらん。アタシだってうわばみさんよ?」


 ぎり。


 わたしは知らぬ間に歯を食いしばっていた。


 わたしと実の兄であるうわばみタローさんを裏切った……この男を、許すまじ!


 向かっていこうと身構えたとたん、ジローさんが言った。


「おっと。裏切ったのはそちらの方が先だわよ。ねえ、お兄ちゃん?」


「うわばみさん! どこ!?」


「おちついて」


 手を突き出して制しようとするジローさんだったが、そんなものに目をくれている暇はない!


「うわばみさんを返して!」


 頭を反らせて、見下すポーズのジローさん。


「あわてちゃ、だめ。そうね、これから、どんでん返しを見せてあげるところなのだから」


 どんでん、返し……?


「いでよ、アンデッドモンスター!」


 一瞬息を飲んだ。


「アンデッドですって?」


「そう。今までにあなたが、ミリシャ様が嬲り殺してきた、モンスターを、ね」


 今までに!?


「ヨルムガーン! レ・スパダール、サ・ガーン! 竜骨戦士となって我が前に現れなさい!」


 恐ろしい縦揺れがして、コスモクロック21は倒壊した。


「だれも乗ってなくってよかった……」


「あら、偶然だとでも思ってるの?」


「?」


「あなた様が、思う存分暴れられるように、あたしが貸し切っておいたの。そこのとこ、ヨロシクう」


 変な方向に目線をむけるから、何かと思ったら、崩れた物陰に設置された端末で。


「あたしって親切でしょ。いっさいがっさい、動画でみなみな様に配信してさしあげるの!」


「そんなことして、どうなるっていうの!」


 それより、うわばみさんは!?


「見てるわよ、観てるわ。みんッなが見てる! あなたの言ったこと全部。したことも全部、ね……」


 目玉をえぐり出されたヨルムガーンと、胸を裂かれたレ・スパダール。魔界樹に魔力を吸いつくされたサ・ガーンたちが立ちふさがった。


「いいわねえ、ヒーロー。みんなが見てるわ。もう、影の存在じゃなくなるのね。すばらしいいいい!」


 えへらえへらと唾液を垂らし、愉悦に浸るジローさん。


 もう、知らん。


 生き返ってこないってことは、うわばみさんは生きてる。だろう。きっと。


 ――だから。


「こんどこそ、永遠に眠らせてあげる!」


 サ・ガーンがまっさきに拳を突き上げてかかって来た。


「あの世に逝きなあ!」


 と、不良マンガみたいなかけ声かけてくるから、参っちゃった。


 くるん、とのけぞって拳をかわす。


 サ・ガーンはほとんど魔力を使ってこない。なら、全魔力の総量としては、わたしのほうが上だ。


「《ハウリング・リボルト》響け、魔風の音」


「がうっ!?」


 魔風っていうのはね、魔界に吹いてる風の事。なんでも腐らせちゃうんだ。魔物の魔物たるゆえん、複数の心臓も!


 苦しみ悶えるサ・ガーンたち。生き返ったばかりなのに、悪いね? 死んだ時より力が劣るんじゃ、生き返らせたところで雑魚以下だよ。


「はっはーん」


 だらだらとよだれを流しつつ、端末をこちらへ向けるジローさん。


「全員、肉塊が落ちて骨だらけ。いいのかしらあん? 呪文が効きづらくなるわよお?」


「全員が骨まで丈夫だとは限らない!」


 蹴り! 蹴り! 蹴り!


 頭と、胴と、股関節!


 思った通り、レ・スパダールは粉々に砕けた。


 じゃあ、ヨルムガーンだって!


 パンチ、パンチ、パンチ!


 砕けたじゃない! やったじゃない! 残るは頑丈そうなサ・ガーンだけ!


「だあっ!」


 回し蹴り。を、しようと思った。けど、嫌な予感がして、蹴るのはやめた。


 ジローさんが素早く呪文を唱えた!


「集え、魔界四天王の魂。サ・ガーンよ、くるいみだれよ!」


「ガウアアアー!」


 とたん、サ・ガーンの中に青白い焔がいくつもまとわりつき、彼女の体にプロテクターとなって物質化した。


「ごてごて着飾って、踊りでもするわけ?」


 鼻で笑っちゃう。


 サ・ガーンのフットワークを殺すようなプロテクターは役立たずだ。


「グウウ!」


 振りかぶるサ・ガーンの拳を避けて、わたしは彼女の足元を狙った。


 思った通り、避けられもせず、体勢を崩し、思いっきり無様に転んだ。


「グアウ!」


「れ?」


 思いがけない動きで、体を巡らせ、再び拳を叩きこんできた。


「《カウンター・シールド》阻め、盾よ」


 危ないところだった。


「なに、その動き!?」


「骨だけになっちゃって……関節の一つひとつが魔力で駆動してるから、打撃は効かないわよ?」


 打撃が効かない!? 


「だったらなんで、プロテクターなんて着せたのよ?」


「ファッション」


 くだらない!


「《ハウリング・リボルト》砕けよ、頭蓋!」


 頭に集中して呪文を放った。サ・ガーンの肉体はボロボロ。要はそこに魔力が詰まっているのだとしたら……。


「あらあら……」


 ジローさんが小指を立てて唇を抑え、溜息。


 とたんに、白い焔が飛び出して、サ・ガーンの体から離れた。妙なプロテクターも消えた。サ・ガーンは恥じらい隠すようにして、コスモクロック21の影に溶けこんだ。

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