第4話血まみれのヴァージンロード!
両手を広げて抱きつこうとするわたしを、彼は驚きのまなざしで見ている。
信じられないって顔。だけど、その傍らでわたしは思っていた。
決めた! 王子様はわたしが守る!
「キミ、頭打ったのか?」
真剣な表情に、思わずピースサインを出してへらっと笑い返す。
「打ちました……確かに」
デコを少々。
「心配だ。病院へ行こう」
魔族なのに?
「乗って」
王子様はへたりこんでいるわたしを、抱えあげて後部座席に横たえた。
ありゃりゃ。こんなことされても……わたし、魔族だし。りゃ~~?
「でも、うれしい……」
「は?」
これでターゲットと接近できたし! うふっ。
「頭を動かさないように」
「はーい。はいはーい」
「ハイは一回でよろしい」
「はーい」
ルンルン気分で、同じ空気を吸うのを満喫していたら、えらく几帳面な返しがきて、なんだかくすぐったくも妙な気持ちになった。
うん、ここでわたし、彼を食べる気、なくなっちゃった。だって食べたらなくなっちゃうでしょ? それよりもさ? 一緒にいて、同じ空気を吸って、なごんだりなんかしちゃったりして! その方が、すごく楽で、罪悪感もなくって、ゆりかごみたい。
そしてちょっぴり涙が出るの。お腹が減ってるのは変わらないけれど、いつものこと! 気持ちいいのが一番!
「ここから行くと、近いのはけい*うか」
「は? なにそれ」
わたし、言われた通り頭を動かさず、横になったまんま、腕を枕にして尋ねた。
「脳神経外科のある救急病院」
がーん!
「えーっ! いらないいらない! わたし、魔物だよ!? いや、こんなとこでとっつかまった日には、解剖実験なんかされちゃったりなんかして……あーん、おうちへ帰してえ。これでもわたし、一家の稼ぎ頭なの。死んだ母の位牌をとりに行かせてえ」
あせって起き上がったわたしを、ミラー越しににらんでくる。まるでわたし……とにかくその瞳がいい感じなの~~。すてき。お胸がキュンキュンしちゃうの~~。いつか見た、ワイルドな感じがそのまんま。あ~~もうだめ、お嫁さんにしてえ!
「キミ、頭はね、こわいんだよ」
あ、今わかった。この人のこの目は、他の誰でもない、わたしを心配してくれてる目なんだ。だからキュンキュンするの。いいわあ。
「安静にして。打ったところは痛むかい?」
「痛みませーん! うふっ」
心配はかけない。わたしっていい子!
「キミがバックミラーから急に見えなくなった時はハラハラした。あつかましいようだけど、ボクはキミを心配させてもらうよ!」
というと、ますます厳しい目つきをしてハンドルを切った。
へえ、人のために(人じゃないけど)そんな顔するなんて。ますます興味が出た。おいしそう。なにって魂が。
「ボクは病院は詳しくないんだ、イラッとさせないで!」
あん、正直。
だけど、どこであれ、病院と名のつくところはちょっとね~~。
悪い、パース! へへん。
「じゃあ、イラッと来る原因は退散さ。また逢おうね。慰謝料なんて請求しないから、安心するのね」
「え? 慰謝料? キミが勝手に電柱にぶつかったんだろう?」
「そうよ、なのになんであんたが医者に連れてこうなんてしてるの?」
「そりゃあ……何故なんだろうな。多分、放っておけないからじゃないか。キミが雨に傘をさしかけてくれたように」
あん、つまんない理由。
「申し訳ない。下心が満載だったりする……」
「へえ? どんな下心で顔面ぶつけるの?」
「まあ、それは……その。雰囲気ってやつよ」
「馬鹿な……おい、キミ!」
前方から派手なクラクションを鳴らして、でっかいトラックが行き過ぎた。わたしはそのすきをついて窓から出たよ。だって大概、性格きついもん、こいつ。なーにが雨に傘。ハッ! きっかけにちょうどよかっただけじゃん? それを雨にびしょ濡れになってまで、わたしを拾う理由にするなんて……なんだかそんなの、そんなのって、ない。どこの王子様なの? って、ああ……わたしの、か……。都合よすぎておえっときた。
「なんか、ほんとうに……帰ろっかなあ」
一人でいると、腕がすうすうしてくる。って、あ! マントがない! どこ? どこで脱いできたの!? うう~~ッ、困るう!
「こら! 雨、止め~~!」
雨空に腕を突き上げたけど、そんな声は届かなかった。レディを雨ざらしにするなんて、今日の天気、ろくなもんじゃないんだから!
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