春、それぞれの飛翔の最終章

第47話 チーム國松ポルシェレーシング

 まだ薄暗い冬の早朝六時少し前、國松自動車整備工場。



 白い息を切らしキュ!っと滑り込んで来た自転車と、そして既にアイドリング状態の才子のポルシェ。



 その数日前のこと、


 LINEグループ 'チーム國松ポルシェレーシング'……


 最初は女子3人で行くつもりだったんだけど、学校で森にポルシェディーラー走行会の事ちょっと話したら、どうしても混ぜてくれ!って懇願され放課後に三校(巨頭)間遠隔LINE会議の議題に載せた。


『え〜知らない男子も行くのぉ?』


 真っ先に……なシゲルコが反応、怪訝な返信を寄越し続いて菜々緒は


『森?それ誰?』


 一度会ってる癖にまったく記憶にない様だったから、ほら秋口の峠駐で!と、シゲルコには 咄嗟な思いつきで、ほら!写真撮ってくれる人要るでしょ!っと、何とか説き伏せ了承を得て晴れて森もメンバーに加わる事が赦された次第。



 更に遡ればこんな遣り取りもあったんだ!


 当日の服装に関する私の問題提起から菜々緒、シゲルコの順で討議・応酬は展開されこちらも喧々囂々(?)の議論の末、私の意見は却下され菜々緒案が議決・採択された。


『何着てったらいいん?』


『あなたはツナギでいいんじゃない?』


『あはは(╹◡╹)ヤンキー姐さん再登場〜』


『……』


『せっかくだから制服で乗り込もうか?』


『それいい〜賛成〜』


『ウチ駄目!菜々Pトコも駄目やろ?』


『いいのよ、どうせもうすぐ卒業だし』


『ウンウン』(頷くスタンプ)


『マズイし恥ずいよ』


『何言ってんの?だからあなたは……なのよ!第一あの日私を焚き付けたのはあなたでしょ?制服着て車乗れるのこの時期しかないって!』


 と、菜々緒の長文。そうだ……あの夏の日の市営コート、引退交流戦の後のことだった。ああ、あれからもう随分経った様な気がするな?まだたった5ヶ月くらいしか経ってないのにね。



『ハイ多数決、2対1で本案は可決しましたぁ〜』


 と言うわけで、民主主義の原則と多数決の原理によって'チーム國松ポルシェレーシング'のユニフォームは其々の学校の制服でと決まった。



 ……


 息を切らした森が自転車のスタンドをガチャン!と立てて足早に才子のポルシェに駆け寄って「おはよう!」とまるで遠足前の小学生な表情で左側の窓から中を覗き込んで会釈した。


「え?……国松?なんで制服着てんだ?」


 いまだ不本意な私はブスッとして首をクイッとして森を助手席に促した。冷たい冬の朝の空気とともに森が乗り込んでくると残念ながら民主主義の基本原理と多数決の法則とやらによって制服で行く事に決まったと答えた。


「なんだそれ?意味わからん」


 私もわからんよ。少数派の意見も尊重すべきなのよ!と理由わけを話すと、せめてもの反抗に私服のコート羽織って隠してやる!って持って来た後席を前に倒し畳みフラットなスペースに置かれたそのコートを指して息巻いたが、森は呑気にじゃあ自分も制服にすべきじゃないか?と訳の分からん事を抜かす。もう揃いも揃ってばっかじゃないの?見つかったらこの期に及んで校則違反で入試前なのに厳罰だよ? そんな不毛な会話をしていると、


 早朝の薄靄の中を颯爽とシゲルコのオレンジ色の914、菜々緒の真っ赤なボクスタースパイダーが相次いで軒先のスペースに入ってくる。ポルシェを降りて初対面の森を紹介する。何か露骨に無愛想なシゲルコだった……が、例の如く森は目をキラキラさせながら溢れ出づる膨大な知識・蘊蓄と共に914を大礼賛すると、その態度も一変して「森くん、よろしくねぇ♡今日はいいお写真たくさん撮ってくださいね〜」といつもの猫なで声に変貌した。


 菜々緒は菜々緒で


「あら、あなたお久しぶりね?相変わらず才のお尻追いかけてんのね?……まぁいいわ、今日は参加許可するわ」


 もう私も反応すらせずスルーしたが相変わらず随分高飛車な態度で一撃入れた後、自分が今日のリーダーでスパイダーにだけナビがあるから片道約200kmを途中高速を含め先導するからちゃんとついて来てよ?ETCは大丈夫?とブリーフィングを始めた。


「3台分、一応プリントアウトしといたから……あ、森くん助手席のファイル取って配布して頂戴」


 いまだにあの時、笑われたのを根に持ってる所以なのか?森を随分ぞんざいに扱ったが、森は森でスパイダーの右ドアを開け資料を取ると、決して悪気があるわけじゃないのだろうしそんな意図もないのだろうが、前回気付かなかった事「あ、軽量化でオプションのエアコンついてるんだ?」と要らぬ一言を零し、それをあたかも"え?ストイックな印象のあるスパイダーにわざわざ重量物を装着したの?ぷふっ"的ニュアンスで貶めるかの発言と捉えた菜々緒の神経を逆撫でした。眉間に皺を寄せた菜々緒は「私のスパイダーはラグジュアリー仕様なのよ!」と反撃する。森は何故自分にキレられてるのか判らない表情、この二人は何だか見ててオモシロイ。


 兎に角、受け入れられた森は私のポルシェの助手席に収まりいざ出撃だ!


 隣県の端っこのサーキット場までの嘗て経験のない、私にとっての最長不倒距離となる片道大凡200km行。あの錆々禍から大凡1ヶ月、'花咲かG' を漬け置くこと数日、防錆処置を施し再装着したタンク、フィルターも交換しキャブもまたまた清掃施し試走もOK!準備は万端だ。……しかし、そこは50年近く前の旧車の事である。いつまた何処か予想だにしなかった箇所が壊れるかは神のみぞ知るところ。そん時はもうそん時だ!前回の'お不動さん'でどうやらそんな肝も座った様。でもそれはいつでも爺ちゃんが来てくれるって安心感の為せる技なんだけどね。



 ……あ、このLINEグループの仰々しいネーミングは最後に加わったその森が命名したもの。整備工場のウチが主宰する'60年代'70年代から現在まで新旧ポルシェを擁する架空のワークスという設定らしい。



 3人の女子高生の駆るポルシェは朝焼けの中を一路サーキットを目指す!


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