第46話 Saravah!夢想の樂園
'
911Tをお引き取りに'樂園'を訪れたその帰りがけ、宮田さんが爺ちゃんに掛けた言葉。
El Paraíso = '樂園'は自動車趣味者の理想の場を提供する、そこまでは聞いた。なんと!宮田さんは爺ちゃんを次の
ちょっとカタチの変わった私的趣味老人ホームの拡大版?そんなニュアンスなんかしら?
事業で一財を成された宮田さん、征馨から聞く限りに過ぎないが頑なで家族とは余り関係が良いとは言えなさそう。どう言った理由かは窺い知る由も無いが、しかし疎まれて尚、家族の反対に聞く耳も持たず、謂わば自分で自分の'終の住処'を建設してしまう事が老後の……終焉に向かっての一つの前向きな楽しみと捉えればそうなのだろうけど、果たしてそれは幸せなことなのかな?ふと思ってしまった。
しかし宮田さんのことはさておき、爺ちゃんがそんな事を打診されてて、ましてや検討迄してるなんて知る由もなかった。数年前と聞いていた'樂園'の開業、開発着手前そして恐らくそれ以前の計画・構想段階から相談がされていたのは間違いないだろう。それはあの後私を引き取って、暫く経ったくらいの事だった筈。いや、それ以前もっと前だった可能性も? もしかして真剣にそっち方向で自分の最後の人生設計、好きな仕事を緩やかなペースに落としてでも続けていける理想的な環境を考えていた? 私の大学進学独立を待って?もしかしたら元々独りだった = 私なんて居なかった爺ちゃんの日常、そして人生。'こっちの勝手な思い込み'は其の実、爺ちゃんの足枷になってしまってたのではないか??
そうなのか? 愕然となった。
久々に顔を覗かせたソイツも爪(あるんか?)を噛み汗を浮かべおし黙ってしまっている。おい!そこで黙るな!なんか突っ込め。
相変わらず雑音ふり撒いているだけのTV
「宮田さんの描いた、そんな夢みたいな最期。儂も賛同して想い描いてみはしたがの」
や、やっぱり! 私はさっき思い及んでしまった疑念に苛まれた始めたが、それを尋ね訊く勇気はない。もう怖くって……なにか自分のストレートな気持ちは子供じみた只の独り善がりだったんだと。
「そろそろ返事せにゃあならん思うてたとこじゃし、ええ機会かも知れんの?」
近々、宮田さん訪ね返答兼ねて征馨やご家族の意向も汲んで少し話してくる…と。勿論、お孫さんご本人が話した事は知らない
「じ、爺ちゃん!で、どうするんっ?」
「ん? なにをじゃ?」
「……その、宮田さんの要望で、整備工場あそこに移しちゃうの?」
ゴクリ
「移さんよ」
しれっと言ってのけた。あ! 眼っ!眼はっ?……慌てて確認するが泳いではない様だ。これは本音か!? もう一度確認する様に訊いた、
「ら、'楽園'行かんでもいいの? 」
「ん〜?あそこ僻地じゃし気軽にラーメンも食べに行けん。儂ゃあ才子と一緒がええ、クルマ弄りながら此処で一緒に暮らすんがええ。免許もこりゃダメだ思うたら引導渡しとくれ、そん時がクルマ引退時じゃ」
爺ちゃ〜ん!(涙腺完全崩壊)
……
数日後の夜、部屋で机に向かっていると征馨からラインが届いた。
『ありがとう』と。
経緯もなにがどうありがとうなのか不明ながらなんとなく察した。きっと、根本的解決にはなってはいないのかも知れないけど。兎に角、爺ちゃんの訪問後その一言の謝意に値する何かが宮田家にあったのだろう。
『今度あのオリジナル本見せて』と征馨は続け、そして『春、忘れないで!』と追伸し締めた。勿論!
間も無く冬休み。
年が明ければ入試はもうすぐそこ。ようし!こっから最後の追い込みだ!……と椅子に座ったまま背伸びしながら反りかえって気合を入れ直してたところに今度は菜々緒からのライン。何だ?人が折角やる気見せた所に
『今度、ポルシェディーラー主催の走行会あるんだけど才ので参加しない?』
と、悪魔のような誘いが舞い込んだ!
『こちとら受験生や〜!』
以前、誰かに打ったのと同じ返信を即座に入れたったがどこ吹く風。当然、菜々緒にそんな道理通じる筈もなく、1日くらいどうって事ないでしょ?と続けた。ディーラーで購入や整備を行ってるユーザー対象の催しらしく走行会には何やらオールドタイマーランってカテゴリーがあるみたいで要は古いポルシェだけでサーキット走行するのだそう。
『サーキット? 競争するん?』
『んな訳ないでしょ?
おい!? 共通終えて受験日本番まで1ヶ月切ってるぞ?
『息抜きよ』
マジか……
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