第45話 花咲かG
原因はタンクの錆によるものだった。
「この前のヒートエクスチェンジャーもそうじゃったが、機械はまこと正直よのう。すまんかったのぉ……」
と爺ちゃんはしゅんとして私と、そしてポルシェに詫びた。
別に爺ちゃんのせいじゃないのに…… 両箇所共に懸念を抱きながらも次回回しにした事を随分後悔してる様。
タンクの錆は、もともとタンクガソリン内を舞っていたものに加え推測だが'樂園'往復時のあの凸凹険道での振動衝撃なんかで長年固着していた堆積錆が一気に剥がれ落ちシェイカー状態で細かく、更に給油時にも攪拌されたであろう事もあって、なんとペットボトルの2/3くらい吐き出されEG手前のフィルターのところから詰まってしまっていた。折角バラしたばかりのウェーバー…たった数回の走行でこんな?
また新たな箇所に手を入れられる事に喜びはあったけど、正直驚いた。
タンクはスペアタイアを抱く形で、フロントボンネット内に底部露出するカタチで設置されている。ホースを外しそして燃料ゲージの筒を抜いて分解すると、ビッシリと錆が付着していた。挟んでた紙(?)みたいなシールパッキン材も完全劣化して朽ちており、いっぱいに給油した時とかに特にガソリン臭が室内に漏れてきていた元凶で併せて交換する事にした。
可能な限りガソリンを抜いて、なんとかタンクを外したら穴に目バリしてお湯を入れ女子には超重くて抱えられないので台車に載せてゆっさゆっさ一生懸命揺らしてバケツの中に出してやると茶褐色の残ったガソリン混じりの水と錆が溢れ出た。その量は先述の通り相当量なものだったので驚いた!後はひたすら水道のホースから水を通し洗えるだけ洗い流すのだ。
爺ちゃんはこの後、特殊なケミカルで処置するって言ってたから、下準備終わったよっと報告しに行った。
で、
一体どんな凄い薬剤がお目見えするのかと思いきや? 登場したのはナンとも拍子抜けなラベルの貼られた四角いポリ容器、その名も!
'花咲かG'
「バイク用のケミカルじゃが、こいつぁはよ〜う効きよる」
マジか? なんかぱっと見そんな凄みは微塵も感じさせないところが逆に隠蔽意図的に劇薬だったりするのか? 訝しさ満点のその名の通り'花咲か爺さん'の脱力系イラストのラベルの印象もなにか随分弱っちい感じだが、爺ちゃんがそう言うのだからそうなのだろう。 兎に角、指示通りに少し温めてからタンクにフルで充し再び目バリ処置、暫く……揮発分補充しつつ日にち単位で放置する事になるらしい。
フロントボンネットを開けた侭ぽっかり地面まで空いた穴が寂しいポルシェ。
幾ら好きだとはいえ旧い車を維持し付き合って行くには、相応の覚悟と随分とお金が掛かるなぁ……と、その空いた穴を眺めながら改めて才子はそう思った。もしこれが全て有償だったらどうなるんだろう?そう言った環境にある事を感謝せねばならないのと同時に、ちょっと先のことなんかに想いを巡らせてもみた。
……
その日の晩、
いつもの様にTVつけっ放しの夕食のテーブルで、相変わらず垂れ流されているくだらない
爺ちゃんは『そうじゃったか……』と別段ヒートアップすることもなく一つ深い溜め息をついてから少し思案した。暫し虚しいTVの笑い声の雑音だけの時間……
そののち、ちょっと予想もしなかった二人の間の事なんかを交え話し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます