第29話 VWポルシェのアイドル降臨!
ドドドドドドドドド……
その日の遅い午後。彼方の方からもの凄い騒音を撒き散らしながら、一台の平べったいオレンジ色の車を先頭に何台ものポルシェが大挙してやって来た!
「うぬぅ?……また、アイツら性懲りも無く
爺ちゃんはチッ!と舌打ちして、つかつかと表まで出ると手を腰の処に当て、
「こりゃっ!此処には何台も停められんし、ご近所迷惑じゃから散れ!散れ〜!シゲルコちゃんも、この前言うたじゃろ? 引き連れて
真新しいツナギ姿の才子も何事か?っと後を追った。その先頭の車の左ドアが開いて小柄な女の子がひょっこりと降りてくる。
「あ〜ん、
まるでコンサートのステージから観客に呼びかける様な仕草で後続のポルシェ軍団に、若干鼻に掛かった甘ったるい声は散開を促した。が、軍団は窓越しやら降りてきたり勝手なことを口々にし出す。
「え〜シゲルコちゃん本当に一人で大丈夫?おじさん心配だよ〜」
「ぼったくられない様に付いててあげるし、値切ってあげるから!」
「シゲルコちゃ〜ん!」
と言う具合いで収集つかずで喧々諤々。……な、なんだこの
遂にキレた爺ちゃんはそのええ歳こいた中年男達に向かって怒鳴った!
「お前ら、ええ加減にせぇ〜!誰がぼったぐるって?儂かぁ〜?この儂がかぁ〜?」
小さい地方工場ながらも全国にその名も轟く老舗整備工場、流石にマズイと思ったのか?ポルシェ軍団は蜘蛛の子を散らす様に工場の前から立ち去った。「あ!」最後尾のグレーの一台のドライバーと目があう、バツの悪い表情...キザったらしい帽子のツバをおろし表情を隠す中年男。「ど、土井さん?ま、マジか?」こそこそ走り去るその後ろ姿、勇ましいウィングのなんと小さく見えた事か。
聞けば、ネットの'みんカラ'と言うコミュニティーの空冷ポルシェ・サークルで近県中心に活動するエ
高田繁子、シゲルコちゃんと呼ばれた少女は18歳 隣市の商業高校三年生。この高校は珍しく曾て商家の家業手伝い奨励の伝統もあってか現在でも免許取得を校則で縛っておらず、故に本来の目的とは聊か異なりはするが憚られる事もなく'みんカラ'や'インスタ'、'ツイッター'なんかをオープンに駆使して、そのアイドル然とした容姿と天性の男を誑かす小悪魔的な物腰で、そのポルシェ・サークルでもご覧の通りの存在であるらしい。
そして國松自動車整備工場にとっては遅い午後からのオイル交換の予約者(車)。
'72年式 VW-PORSCHE 914 はポルシェ社とフォルクスワーゲン社が共同開発/販売したモノコックシャーシ/低重心のボディにミッド搭載したエンジン(VW製1.7リッター79hpの
「あれぇ?
ツナギ姿の才子が同じ高三の孫娘であることを知ったシゲルコはふぅん?そうなんだ……と、オイル交換の間お喋りに誘った。ヒートエクスチェンジャーとマフラーの分解から爺ちゃんに課せられたミッションを遂行したかったが、まぁお客さんだし、同い年で…でも多分、同じクラスであったとしてもきっと友達にはならなかったろうタイプのコだけど、さっきのおじさま達を従えたカリスマアイドル的な立ち振る舞いにも多少なりとも興味あったし、何より同じ高校生で同じ古い空冷エンジン車に乗っている……と言うまこと稀有な存在・同類意識もあり、そうすることにした。
才子は普段より濃い目に淹れたインスタントのコーヒーにミルクを熱し少し泡立てて……
工場の端っこに設置されている簡素な小さなテーブル。二人の高校生は唯一の共通項たる互いのクルマのことなんかをよそよそしく話し始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます