第3話 二人だけの食卓
チ〜ン!
その日々のルーチンを終えた後、仏壇に手を合わせ少し盛った白米をお供えする。殆どの場合(余程の仕事がない限り)は日没とともに仕事を終える爺ちゃんは毎晩の台所に立つ。
「今日も一日、無事終えたわい……ありがとな」
と、いくつかの遺影に向かって手を合わせ目を瞑る。
「さて、才子、儂らも晩飯にするかの?」
だらしなく寝転んでテレビを眺めてた私は、のそのそと体を起こす。
「……うん」
学校のコートには照明灯がなかったから、日没に合わせるように日々の部活練習も終了、友人とくだらない話をしながら部室で着替えながら少しだらだらして、またお喋りしながら自転車で隊列をなして途中三々五々に別れ帰宅する。ずっとそんな生活だったから、腹を空かせて帰って来る才子を、いいにおいが工場の油の匂いに混じって……毎日丁度のタイミングで迎えてくれていた。
でも今はちょっとばかり、そんなタイミングも変わって授業が終わって直帰する自分、仕事をしてる爺ちゃんに対してロクに何もせずゴロゴロしてる自分が妙に後ろめたくバツが悪い。でもそんな芋虫の抜け殻みたいな私に爺ちゃんは何も言わない。
二人黙々とテレビを見ながら箸を動かす。焦点が合ってるのか合ってないのか?
別にバカバカしい番組に夢中になってる訳じゃないからよくわからない。
「そうじゃ! 才子。明日は土曜、儂は仕事じゃ。明後日の日曜は暇かの?」
爺ちゃんが唐突に切り出した。
「うん、別に家で勉強……してるだけだから特に何もないけど、なん?」
「ちょっと、晴れたら久しぶりにドライブにでも行くかの?」
ドライブ? まだ私がちっちゃな頃は時折り、修理の試運転がてら乗り出す時に偶々工場で遊んでた私をちょこんと横に乗っけてよく走り出したものであるが、テニスを始めてからそんな時間もなくなって。勉強してる……って言ったけど別に、特に身が入ってるわけでもなくだから、爺ちゃんの言う通り久し振りだし、少々の後ろめたさもあり断る筋合いもない。
「うん、いいよ」
爺ちゃんはにこり! として変わらず箸を進めた。
「ところで才子、今月誕生日じゃったの? 18か?」
「え? うん、そうだよ 高三だから18だ、爺ちゃん」
「そうかそうか、そうじゃったの」
と爺ちゃんは確認したかの様にもう一回にこり! とした。別に会話が途切れ停滞したり沈黙が気まずかったりするわけじゃないけど特に普段と変わりない夕食を終え、今度は私が洗い物に台所に立つ。そう、別段なんの変化もない日々の、そしてその1日の終わり。食器を洗っていると景子からラインが届いた。
『来週末のインコー、そろそろ準備すっか?』
定期戦を実施してる聖マリアンヌ附属女子高校と、例年恒例の3年生の送別交流戦=引退交流戦、略してインコーが行われるのである。親睦で別に勝敗云々はあまり重要じゃないけど6月の最後の試合以来ラケット握ってないからちょっとリハビリ兼ねて今は2年生中心となったコートで練習を……と言うわけ。
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