新たな仲間達


 任務は条件付きだが、フレッドとアンドレの二人を加入者に加え、ヒューゴはとりあえず一安心している。

 今日はパブロ村長からの紹介者と会い、ヒューゴ自身はラダールでバスケットへ戻る予定だ。フレッド等を含めた加入者は、馬での移動になるから一日か二日か遅れてバスケットへ到着するだろう。


 彼らが到着する前に、セレリアとパリスと合流しこれからの隊について話し合う必要がある。

 まだ十名未満だから宿を用意すれば良いけれど、今後十名を越えて増えるだろうことを思えば、宿舎や訓練場の準備も考えなければならない。酔いどれ通りに用意するのか、それとも別の場所に用意するのか、そういうことも相談し、今から資金の準備なども決めておく必要があるだろう。


 ――自分だけじゃなく、まとまった集団で動くとなれば、いろいろ考えなければならないよなぁ。


 正直なところ、ヒューゴはこの手の作業は苦手で面倒だと感じている。渋々というほどではないけれど、自分がやるしかないのだと受け入れている。ヒューゴよりもパリスのほうが嫌がるだろうし、イルハムにはフレッド等の訓練などで役割を受け持ってもらいたい。やはりヒューゴがやるしかないと考えていた。


 パブロ村長の家へ行くと、村長と二人の男性が待っていた。

 一人はケーディア、二十五歳で剣と槍がかなり達者とのこと。魔法は使えないが、馬に乗っての戦いなら村でも五本の指に入る腕前という。もう一人はダニーロ、三十歳で武器を使った戦いは不得意だが、二つ牙紋章の持ち主で、火系と氷系の魔法がかなり得意なベテラン。


「お二人も宜しいんですか?」


 村の防衛を考えると、一人紹介してくれれば十分だとヒューゴは考えていた。それが二人も紹介してくれて得意分野がはっきりとしている方。特に、魔法が得意なダニーロはとても有り難かった。

 二つ紋以上を持つ者はそう多くはない。だが、軍隊が相手となると、小隊に一人は二つ紋所持者がいる。

 こちらに魔法を使える者が居ると、敵はその対処で二つ紋所持者を使わざるを得ない。

 つまり、剣や弓で攻撃している味方が魔法で襲われる危険が減る。

 ヒューゴとパリスなら、二つ紋程度の魔法であれば避けながら戦うことも難しくない。しかし他の隊員はと考えると、一人は魔法が得意な味方が欲しいと思っていたのだ。


 申し訳ないという気持ちと有り難いという気持ちがヒューゴにはあった。


「いえ、もっと紹介できればいいのですけど、村が大きくなり、逆に、守備に必要な人員が増えてしまって、申し訳ないと思っています」

「そんな、こちらの都合に合わせていただいたのに、恐縮してしまいます」


 パブロ村長に、ウルム村の危機には必ず救援に来ると約束し、ヒューゴはケーディア達と共にフレッド達と合流するため村の門へ向かった。ヒューゴは徒歩だが、ケーディア達は馬を引きながら。


 門のそばに、フレッド達がそれぞれ荷物を載せた馬の手綱を持って待っていた。合流して門の外へ出て、ヒューゴは四人へ指示を出す。


「皆さんは、バスケットへ向かってください。下山するまでは、僕がラダールと共に周辺を警戒しながら付いていきます。下山後、僕は先にバスケットへ向かうので、皆さんは二日後までを目処にゆっくり向かってください。では宜しいですか?」


 下山後、バスケットまでは、馬でおよそ一日かかる。途中で食事や睡眠で休憩をとることを考え、二日後とした。早駆けしなくても時間には余裕があるだろう。

 ヒューゴの指示に四人は頷く。


「では、道中会話しながらお互いのことを知るようにしてください。僕もバスケットで合流後には皆さんのことを知る努力しますので」


 そしてヒューゴは指笛を鳴らし、ラダールを呼ぶ。

 舞い降りたラダールの背に、荷物を背負ってヒョイと跨がり号令をかけた。


「出発です!」


 その声と共にバサァッと翼を広げたラダールが舞い上がる。

 馬上のフレッド達は、その様子に驚き、そしてあれが噂の……と納得し、それぞれ馬を走らせた。


・・・・・

・・・


 道の勾配などに気をつけて、フレッド達は軽い早足で下っている。

 その上空にはヒューゴを乗せたラダールがゆっくりと周囲を警戒しながら旋回しつつ、フレッド達に付いてきていた。

 地を駆けるタタンタタンという馬の足音が響く中、フレッドはケーディアとダニーロに挨拶をする。


「俺はフレッド、こっちは弟のアンドレ。これから宜しくな」

「ああ、俺はケーディア。宜しく頼む」

「私はダニーロ。魔法は得意だが、剣や弓は苦手なので、集団の前にはなかなか立たないので宜しく頼む」


 挨拶を終えると、上空を見ていたアンドレが年が近そうなケーディアに話しかける。


「あの鷲凄いでかいよなぁ。強そうだし……俺でも飼えるかな?」

「多分無理だろう。あれはドラグニ・イーグルだからな。ヒューゴさんの他にアレを飼った人間を知らない」

「……私も聞いたことがないな」


 ケーディアと並んで駆けているダニーロもボソッと答えた。


「そうかぁ。あれがドラグニ・イーグルかぁ、話で聞いたことはあるけど、見るのは初めてだ」

「まぁな。ドラグニ山にしか居ないから、俺も五年前にヒューゴさんが連れて来たのを見たのが初めてだった」

「ケーディアさんもそうなのか。ベネト村の人でもヒューゴさんだけなのかな?」

「ああ、多分そうだ。それと、俺のことはケーディアでいいぞ。俺もアンドレと呼ぶ」

「私もダニーロでいい。これから共に戦う仲間なのだし、命を守り合う仲間に年齢なんか関係ないからな」


 四人全てがダニーロに頷き、お互いを呼び捨てすることに決まる。


「俺と弟は、兄貴や元の村の仲間の敵討ちしたくてヒューゴさんと一緒に行くと決めた。ケーディアとダニーロは、村長に言われたからかい?」

「俺は村長から声かけられたのも理由の一つだが、五年前の恩を返したくてな」


「恩?」

「ああ、そうだ。ウルム村は五年前に大勢の賊に襲われた。数日間、毎日攻めてきて、多分、ダニーロも同じだと思うけど、俺は疲れ果てていた。みんなは疲れていて、あのままなら村は侵略されていたと思う。そんなとき、ベネト村からヒューゴさん達が助けにきてくれて、たった一日で百名以上いた賊を蹴散らしてしまったんだ。ほんと助かったって心底感謝したよ」

「私もそうだ。ヒューゴさん達が来た時には、私の魔法力は切れかけていて、あと一日も保たない状態だった」


 馬の足を抑えることもなく、金髪を揺らす風も気持ちよさそうにケーディアは話を続けた。


「凄かったぜぇ。敵を一カ所におびき寄せて、周囲から一斉攻撃さ。敵の数がみるみると減っていって、ついに逃げ出したときには歓声をあげたよ。疲れ果ててたのに、あの時は無意識に身体が動いたな。あのドラグニ・イーグルも賊を追い立てていたよ。その上、その戦いで味方の被害はほとんど無かったんだ。信じられるか?」

「被害はなかった?」

「ああ、多少の切り傷を負った者は居たかもしれないが、たいした怪我じゃない。まぁ、あとで聞いた話では、ベネト村から救援に来てくれた人が一人亡くなったらしいが……」

「それでも一人なのか……」

「ああ、あの場に居た村人はみんな、ベネト村が大変な時は何があっても助けに行くと誓ったよ。その他に、もっと強くなると誓ったな」

「私も似たようなものだな」


 ケーディアとダニーロは、五年前を思い出したのか、瞳に力がこもっていた。


「そうかぁ。ヒューゴさん、剣の腕が恐ろしいほどだったけど、それだけじゃなさそうだな」

「腕試ししたのか?」

「ああ、兄さんも俺も、全然敵わなかった。弓ほどじゃなくてもそこそこは自信あったんだ。でも、かすりもしなかった」

「ヒューゴさんの身のこなしは化物だな」

「へぇ、そんなに強いのかぁ。さすが隊長というところか」


 アンドレもフレッドも、やや残念そうな口ぶり、ケーディアは感心し、そして納得している様子。


「鍛えてくれるということだし、これから頑張るさ」


 フレッドの言葉にアンドレとケーディアが頷く。

 

「後方からの支援は任せてくれ。とにかく腕をあげていかなきゃ、ヒューゴさんの持ってくる任務はこなせないかもしれないからな」


 ダニーロに、皆頷く。上空のラダールの旋回を眺めつつ、それぞれの胸に期すものがあった。


 もうじき山を下り終える。

 その後食事をとり、少し休憩を挟んでバスケットを目指す。

 空を流れる雲、そよぐ風、全てが心地良い中、四人の駆る馬が軽やかに先を目指していった。

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