第10話 カツ丼とは、永遠の愛

 翌日。

 王子とトンカツの結婚式が執り行われた。


 前日、体を切り刻まれたトンカツは、とりあえずホッチキスで応急処置がされるという扱いの悪さであった。


 ドレスは、鶏肉姫が勝つモノだと思っていたため、鶏肉姫用しかなく、トンカツにはキツキツであった。


 苦肉の策として、トンカツのカツの順番をパズルみたく並び替え、鶏肉姫の体型に持っていくという荒技が使われることになった。


 端っこの細いカツを真ん中に持ってくることで、トンカツは念願のくびれを手に入れたが、それと引き換えに、ドレスの股の辺りに作られた呼吸と視界確保用の穴から顔を出すという、末代までの恥の状態で式を行うこととなったのだ。


「ハミチン姫だ!」

「うるさいわね!」


 男のズボンのチャックから顔を出しているようなその姿、カンから、ハミチン姫とバカにされたが、どうでも良い。

 地位も名誉、全てを手に入れたのだから。


 式で再会した憧れのタマゴトージ王子は、八頭身の超イケメン。

 しかも、ハミチン姫モードなので、トンカツの顔の目の前に王子の股間が来るというナイスな心意気である。


「きゃー! ダメダメ、目のやり場に困っちゃう!」


 神父の話も聞かずに、黄色い悲鳴をあげるトンカツに「黙れ! ハミチン!」と、また王女に怒られた。


「観衆の目がある中で人を下品に呼ぶなんて、ひどいわお母様!」


 後にこの国を傾ける事となる、ハミチンと王女の嫁姑問題、それはこの時、埋め込まれたのであった。


 その後、誓いのキスと言われ、王子の股間のファスナーをどさくさに紛れて開けるハミチンのセクハラに、チンとカンが飛んできた。


「あんた、何考えてんだよ!」

「王国の人が見てるんだぞ!」


 ハミチンは二人に本気で怒られた。

「本当に股間になってる気になっていたので、股間にキスをしようとした」とハミチンは言い訳した。

 言い訳すら最低であった。

「本当よ! 股間が憑依して来たのよ!」と悪びれる素振りもなくハミチンは語った。

「股間はチャックを開けねぇんだよ!」と、チンに怒鳴られた。


 よって、キスは中止になった。


 チャックを開けようとした時のトンカツの顔を「まるで陶芸の職人のようだった」と誰かは言ったという。


 その後の披露宴で、チンとカンがコントをやったのが面白かった。

 それ以外はつまんなかった。





 そして、いよいよ、初夜である。


「姫、こちらです!」


 式が終わったトンカツはお風呂に案内された。トキタマーゴ王国に伝わる初夜の伝統、卵とじの儀の習わしである。


 出汁の入ったお風呂であったまっているお姫様を王子が迎えに来て、そのまま白いご飯のベッドの上で愛し合うというものだ。


「あんた達、ちゃんと持ちなさいよ!」


 体がバラバラであったトンカツは、チンとカンに体を支えてもらってバランスをとっている状態。

 式後、ドレスを脱いで体をボンドで接着させたが、まだ完全にはくっついていない。

 そして、バラバラになると、あの魔王が姿を現してしまう。


 体がギャグ漫画の出前のざる蕎麦のようにグラグラ揺れる、トンカツ。なんとか浴槽の中に入る。

 タマネギが浮かんだ浴槽、砂糖、醤油、みりん、料理酒が入ったお風呂である。


「あぁ、たまらんわぁ」


 トンカツの湯加減の第一声はオッサンであった。体に美味しい味が染み込んで来て、とても気持ちよかった。


 ああ、最高。油とはえらい違いね。

 

 ガラガラガラ。


 その時、誰かが浴室に入って来た。

 振り返るとそこにはタマゴトージ王子がダーハカの、バスタオル一丁で立っていた。


「キャ!」


 トンカツは一糸まとわぬタマゴトージの姿に顔を赤らめた。


「迎えに来たよ、トンカツ姫」


 タマゴトージはそのまま、トンカツのいるお風呂の中に足を踏み入れた。見れば見るほど、トロトロのお肌をされているわ。


「ああ……だめ。幸せすぎて、体がとろけちゃいそうよ」


 恥ずかしがるトンカツはタマゴトージ王子に体を引き寄せられた。


「姫、さぁ、ご飯の上に行きましょう」

「王子様。私、幸せすぎて、夢なんじゃありませんか?」

「夢じゃないさ。トンカツ姫」


 ああ……。


 トンカツと王子はグツグツと煮えるタマネギ風呂の中で抱き合った。


 その後、お風呂の汁がしみた二人は、王子の案内で、ホカホカの白いご飯のベッドの上で愛し合ったという。


「王子、私、とても幸せよ」


 永遠に想いが届かないと思っていた憧れの王子と一夜を共にするトンカツ。


「全く、熱々で見てられないぜ!」


 二人の様子を見に来たチンとカン。

 あまりにもイチャイチャしているご飯の上の二人に、チンは「見てられない」と、蓋を被せた。


 蓋をされ、ご飯のどんぶりの中にはもう、トンカツと王子しかいない。二人だけの世界で、トンカツ姫は幸せなひと時を過ごしたという。


「よっ! お幸せに!」


 チンとカンが二人を囃し立てた。


 永遠の愛、それこそがカツ丼であった。














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