第9話 トンカツ、死す
カーン!
最終、第3ラウンドが始まった。
「女は人生で二度美しくなる……」
一歩、一歩、鶏肉姫、いや、うざいポエムと共に勝利へと歩み寄るトンカツ。
シャッ!
ん?
その時、さっきまで聞いたことのなかった金属音を聞いた。
「あなたの言葉を聞いて、目が覚めましたわ。トンカツ様」
そういった鶏肉姫、その手にはさっきまで無かった剣。しかも二刀流。
「え? ちょっとアンタ! ずるいわよ!」
「私物は問題ありませんわ。この城で剣術を習った時に使ったものです」
鶏肉姫が剣をトンカツに振りかざす。
「きったねぇ!」
ギリギリでかわすトンカツ。
「だから金持ちって嫌いだわ!」
剣では油も関係ない。鋭角に刃を入れられたら、一溜まりもない。
「やめなさい! 痛いから! 切れたら痛いでしょ!」
なんやかんやで振り回す二刀流を器用にかわすトンカツ。山で熊の振り下ろした腕を三度交わした女の異名は伊達では無かった。
が、
サクッ!
「あんぎゃああああああ!」
トンカツの先っちょをついに鶏肉姫の剣が捉えた。さっき油で揚げたばかりの体はサクッといい音を立てた。
「痛い! 痛い! 痛い! 痛い!」
痛さで地面をのたうち回るトンカツ。
「いけええ!」「決めろ!」「鶏肉姫がお嫁さんだああ!」
観客のボルテージも、この大逆転が見たかった! と言わんばかりに盛り上がる。
とーりにく! とーりにく! とーりにく!
「遊びはなしです。終わらせていただきます。王子の嫁はやはり私ですわね」
「く、くそぉ!」
慈悲を捨てた目でトンカツを見下ろす姫。
サクッ! サクッ! サクッ! サクッ!
姫によって切り刻まれたトンカツの肉片が地面にバラバラと落ちた。殺人現場には肉汁がジワーッと広がっていく。
「やった」「勝った!」「悪魔が死んだぞ!」
観客から今日一番の歓声が上がった。声が地響きとなる。
「とーりにく! とーりにく! とーりにく!」
ついに、鶏肉姫が念願の王子様のお嫁さんの座を射止め、そして、悪の化身、トンカツは死んだのであった。
ふふふふふふふふふふふふふふふふ。
「え?」
会場が一瞬で静まり返った。なんか、嫌な笑い声がした?
ハーハハハハハハッハッハ!
「この程度で勝ったと思っているなら、所詮、貴族の絵空事。甘いとしか言いようがないわね!」
この声は! と、トンカツ!
地面のバラバラに切り刻まれたはずのトンカツの切れ端が動いて、宙に浮かんでいる。
「な! なんで! 生きているの?」
「私がこの程度で、死ぬとでも思っているのかしら?」
悪夢であった。バラバラに切り刻まれたはずのトンカツは、バラバラのままで自由に空中を移動し、顔のパーツのある肉片は勝ち誇った顔で鶏肉姫を見下ろしていた。
「ば、バカな……」
鶏肉姫は体が震え、手に持っていた剣を地面に落とした。
「覚えておきなさい。トンカツわね、一口サイズに切るほど、美味しく食べられるのよ!」
フワーッハハッハッッハッハ! フワーッハッハッハハハ!
勝ち誇った高笑いをまた浮かべるトンカツ。
「化け物だ」「悪夢だ」「誰だ、あんなの連れて来た奴」
あんなのに勝てるわけがない。
絶望的な状況に観客は頭を抱えてしまい、歓声はロウソクの炎が吹き消されたように、消えた。
「くっ!」
鶏肉姫が最後の勇気を持って、剣を振りかざした。
「フハハハハ! 無駄だわ!」
体がバラバラになったトンカツは、これをいとも容易くかわしてしまう。
もはや鶏肉姫に勝つすべは残っていなかった。
バラバラの状態で攻撃をかわし、鶏肉姫の後ろで合体。攻撃。そして、鶏肉姫が反撃しようとすると
「オープンザ、ゲッ!」
と、どっかの古いアニメみたいにまたバラバラに戻ってしまう。
「ま、参りました」
ついに、鶏肉姫は戦意を喪失させた。それほどまでの力の差であった。悪魔と人間では勝負にならなかった。
フハハハハハッははハッハ! アーーーッッははははハハハハハッハハハ!
「しょ、勝者……と、トンカツ……」
トンカツは晴れて王子様と結婚することとなったのであった。
フハハハハハハハハ! アーッハッハッッハハッハ!
その晩、トキタマーゴ城は一晩中、悪魔の勝利の高笑いが響いていたという。
「あれは、南米の鳥だな」
トンカツの笑い声を聞いた、どっかのお爺さんはそう思った。
隠して、トンカツの結婚式は翌日に行われることとなった。
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