第8話 二度揚げトンカツ劇場

 フハハハハハハハハハハハハ! ファーッハッハッハッハハ!


 第二ラウンドのゴングが鳴る前から、二度揚げされた女の笑い声がコロシアムに響き渡っていた。

 何がそんなにおかしいのか、王様を撃っといて何でそんなに笑えるのか?


「ファイ!」


 カーン!


 第二ラウンドのゴングが鳴った。


 トンカツは微動だにせず、仁王立ちしている。すでに散弾銃を控え室に忘れていたが、そんなことはどうでも良さそうな自信を感じさせた。

 というか、学ランすら着ていない、おっ裸であった。


 鶏肉姫も、その奇妙な雰囲気に近寄れずにいた。


「女は人生で二度、美しくなる。一度目は初めてのキス。そして、二度目は初めての夜」


 また言っている。あれは一体、なんなんだ?


「女は人生で二度、美しくなる……」


 また言い出した。地獄の四度目か? と、誰もが思った瞬間、鶏肉姫が間合いを詰めた。

 そして、さっき同様、トンカツに掴み掛かり投げとばそうした。


 つるんっ!


 が、鶏肉姫の腕がトンカツの体の油で滑って抜けてしまった。


「フハハハハハハハハハハハハ! フハハハハハハハハハハハハ!」


 その後、鶏肉姫が蹴ったり、パンチしたりするが……


 つるん、つるん、つるん!


 何をやっても表面の油に滑って、トンカツの体をすり抜けてしまう。


「女は人生で二度、美しくなる……」


 また言い出したぞ! と、誰もが思ったその時、トンカツがその場に寝転んで、鶏肉姫に向かってゴロゴロと転がり出した。


 ゴロゴロゴロ〜。


「な、なにっ?」


 一瞬、躊躇した鶏肉姫、トンカツの表面の油に滑って地面に転んでしまう。


「ぐっ!」

 尻もちをついた鶏肉姫、そこに大きな影が差した。見上げると……


「女は人生で二度、美しくなる……初めてのキスそして……」


 しつこい悪魔が立っていた。


 トンカツが鶏肉姫に向かってジャンプ! ボディプレス!


「きゃあ!」


 トンカツの表面のカリカリのパン粉が鶏肉姫の体に足裏マッサージのマットのように激痛が走らせた。


「フハハハハ! とっとと試合を終わらせてあげますわ、お姫様」


 鶏肉姫は下から反撃するが、パンチは全て油でツルンと滑ってしまった。二度揚げの地獄から復活したトンカツは、もはや無敵であった。


 そして、鶏肉姫の上に乗ったトンカツのパン粉がどんどんと鶏肉姫の体に刺さっていく。


 この地味な激痛に鶏肉姫の顔が歪む。


「バケモノ! 鶏肉姫をはなせぇ!」


 と、客席から物が投げ込まれる。が、全部、ツルッと滑って全く効かない。


「残念だったわね。鶏肉姫様。あなたの純愛もここまでよ」

「ぐっ! あなたのような下品な女、王子の妻にふさわしくありませんわ」


 それを聞いたトンカツは、さらに大笑いを浮かべた。


「そうよ。私なんか一ミリも相応しくないでしょうね。だけど、それがどうしたのよ?」


 トンカツは、鬼すら泣きそうな目つきで鶏肉姫を見下ろした。


「いい、凡人がのし上がろうと思ったら、周りの顔色なんか伺ってる暇なんかないのよ」

「ぐっ!」


 トンカツの体にどんどん地面に押し付けられる鶏肉姫。この女、本気で転す気だ。シャレにならない。


「王子を誘惑するチャンスなんか、いくらでもあったんでしょ? それをノコノコ逃して、バカなんじゃないの? まぁ、あんたが甘ちゃんだから、こうやって私にチャンスが巡って来たんだけどね」


 トンカツはさらに絞め殺す力を強くした。


「何が王子にふさわしい女よ。庶民を舐めるんじゃないわよ。お姫様なら大砲でもなんでも使えばいいでしょ!」


 トンカツは鶏肉姫を持ち上げて投げ飛ばした。完全にヒールだ。


「私のウエディングドレス姿を見て、悔しがりなさい」


 トンカツは壁に一直線に走り、そこを踏み台にして天高く飛んだ。今度は超高度からのボディープレスだ。


「逃げてええええええええええ!」


 会場から鶏肉姫への応援が飛ぶが、トンカツは重力に引っ張られて落下を始めていた。


 バァン! とすごい音を立てて、トンカツは鶏肉姫に落下した。


 カンカンカン!


 が、ここで2ラウンド終了のゴング。


「ノーカウント! ノーカウント!」


 勝利目前で、トンカツのボディープレスは認められなかった。


「ふん。まぁいいわ」


 しかし、ポイントはノーカウントでも、直撃を受けた鶏肉姫のダメージは無効にはならない。

 1ラウンドと相反して、今度は鶏肉姫がセコンドに連れられ、控え室に戻っていく。


「命拾いしたことを後悔するがいいわ。3ラウンドはさらに地獄を見せてやるわよ」


 そして再び、高笑いを浮かべるトンカツ。


「こ、こえぇ」


 もはや、セコンドの二人はトンカツに近寄れなかった。


「次の最後のラウンドで、もっと地獄を見せてやるわ」


 フハハハハハッハハハハハ! 


 と、トンカツは高笑いを浮かべ、運命の最終ラウンドが始まった。















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