第7話 これは嘘、嘘だから

 ゴングが鳴ったと同時に、トンカツは早速散弾銃を鶏肉姫に向けた。理屈は抜きだ、撃ち殺す。

 鶏肉姫に照準を合わせる。じりじりと間を詰めていく。


 鶏肉姫は、表情一つ変えずに女のK−1選手が着てるような服装で構えを崩さない。


 エロい、エロいじゃないのよ。不覚にも、女なのにムラムラしちゃったわ。でも残念ね、銃弾の前ではエロさは無力……


 その時、突然、鶏肉姫がトンカツめがけて距離を詰めてきた。意表を突かれたトンカツは焦って、一瞬、引き金を引くのを躊躇った。


「あ! やっちゃった!」


 次の瞬間には、鶏肉姫はトンカツの懐にまで接近していた。


「やばっ!」


 とっさに後ろに下がるトンカツ、が、鶏肉姫は、まだ追いかけてくる。


「ええい、面倒臭い!」

 

 どうせ散弾するし、とトンカツはテキトーに鶏肉姫に引き金を引いた。


 パァン!


「あんたあああああああああああ!」


 ん? 

 なんか、今、聞き覚えのある悲鳴がしたけど?


「トンカツ様!」

「なによ! 試合中よ!」

「上! 上!」


 と、チンが指差す方を見ると、あれ? 王女様の隣のオッさんが血を流して倒れ……って、あれ王様じゃねぇぇぇか!


「あんたああああああああああ!」


 トンカツの放った散弾銃はあさっての方向に飛んでいき、ちょうど上で見ていた王様に直撃したのであった。


「マジかあ!」


 さすがにこれはヤバいと王様に駆け寄る、トンカツ。


「王様ぁぁ!」


 駆け寄ってきたトンカツの声に、王女様が怒り顔で振り返る。


「貴様! やっぱり、忍び込んだテロリストだったのね!」

「違う、違うの! 嘘、今のは嘘だから! ねっ!」

「嘘って、モロに撃たれてんでしょうが!」


 王女様が指差す。王は、完全に弾が直撃し、安らかな顔を浮かべていた。すぐに治療班が王様を連れて行った。


「だから嘘だから! 嘘、嘘。落ち着いてって」

「ひっとらえろぉぉ!」


 王女様が兵に命令するが、「嘘だから」の一辺倒でトンカツはその場を逃げきって、リングに戻った。


 なにが嘘なのか、場内の誰にもサッパリ解らなかった。


「いやぁ、危なかったわぁ」


 トンカツはひたいの汗をぬぐい、「嘘でよかった〜」とまるで一仕事終えてきた素ぶりで戻ってきた。


「よろしいでしょうか?」


 ドキッ!

 トンカツが声の方を見ると、鶏肉姫がまた構え直した。


「そろそろ、再開させていただきます」


 やばい。王様のせいで、もう弾が残ってない。が、威嚇のため、散弾銃をもう一回、構えるトンカツ。


「弾がない銃では意味がないと言ったハズですが」


 と、一瞬で、トンカツは学ランを捕まれて、地面に倒された。


「うおおおおおお!」


 鶏肉姫の攻勢に観客が湧く。


「いけー!」「反逆者を殺せー!」「やれー!」


 応援の期待通り、馬乗りにされ、ボコボコに殴られるトンカツであった。


「審判! 審判!」


 たまらず、審判を呼ぶ、トンカツ。


「ギブ?」

「ギブじゃない。助けて、お願い! 出世させてあげるから!」


 審判は助けもせずトンカツの元から離れていった。


「ぎゃああああ!」


 それからは見るも無残な、一方的なボコボコ劇であった。そして、


 カンカンカン!  (はいっ)


 第一ラウンドのゴングが鳴って、王様の治療も兼ねて、十五分の休憩に入った。




 チンとカンに担がれて控え室に戻らされるトンカツ。もはや、ボコボコにされて顔の形が変わってしまっていた。


「ボバベバ ボブボッボ ババビブ バブバベ(お前ら もうちょっと 優しく扱え)」

「え? 何ですって」

「ばばば! (だから!)」


 ボコボコ弁を使い出したトンカツは何を言ってるのかが解らなかった。口を冷やしたら、少しまともになった。


「あの女、ボコボコにしやがって」

 口調が戻ったトンカツ。

「いやぁ、殴られましたなぁ!」

「なんで、嬉しそうなのよ」


 ニヤニヤ笑いながら言ったチンの頭をひっぱたいた。


「あと、カン!」

「なんすか?」

「何すか、じゃないわよ! ゴングが鳴るたびに返事するの止めなさい!」

「いや、カンッて鳴るから、呼ばれたと思って」

「ゴングで試合中に呼ぶわけないでしょ! バカかお前は! 気が散るのよ!」


 しかし、文句もここまでだった。鶏肉姫の圧倒的強さに全く手も足も出なかった。


「しかも、王様、撃っちゃいましたし、負けたら処刑かもしれませんよ」

「だから、いいのよ。あれは嘘なんだから。しつこいわね」

「だから、嘘って何なんすか?」

「恋愛を面白くする、スパイスよ」


 急になに言い出してんだ、コイツ。と、その場のみんなが思った。

 国民のほとんどが現場を見ているのに、この一点張りで逃げ切るつもりなのか?


「でも、このままだと、次のラウンドで処刑されますよ。鶏肉姫に」


 チンの言葉に珍しくトンカツも、無言で考えた。


「カン! カン! ……カン!」

「何すか?」

「あと何分?」

「十分」


 それを聞いて「よし!」とトンカツは拳を叩いた。


「最後の手段よ。いい? 大きなフライパンと熱々の油を二分以内に持ってきてちょうだい!」

「な、何をされるおつもりで?」

「あまり、使いたくないけど、しょうがないわ!」


 トンカツの命令で、二人は指定したものを控え室に運び込んだ。


 トンカツはまるでゴルファーが風を読むように、脇毛を一本抜いてお風呂のような油の中へ入れた。


 パリパリ、といい音がする。


「剃れよ」

「カン、黙れ!」

「何をされるんですか?」


 チンが心配そうに聞いた。


「いい? 女はね、人生で二度、美人になるのよ。一度目は初めてのキス。そして、二度目は、初めての夜」


 そう言って、トンカツは油の中へ飛び込んだ。


 『二度揚げ』

 それは一度あげたトンカツをより高温であげることで、もっとサクサクした仕上がりにするトンカツの最終形態であった。


 しかし……


「あんぎゃあああああああああああああああああああ!」


 熱々の油の風呂の中で、トンカツの悲鳴とカラッと揚がる音が交互に控え室に響いた。

 揚げるときの超高温、トンカツにとってそれは、歯医者で歯を麻酔抜きで全部抜かれるほどの地獄に匹敵した。


「トンカツさん、第二ラウンド開始します!」


 スタッフが呼びにきた。

 

 次の瞬間、静まり返った油の風呂の中から、気泡が立ち、中から化け物が現れた。


「女は二度、美人になる。一度目は初めてのキス。そして、二度目は初めての夜」


 化け物は、まだ言っていた。

 決め台詞っぽいが、そう言いながら、トンカツは一人でリングに歩いて行った。


 第二ラウンドが始まるが、トンカツの言葉の意味は全くわからなかった。














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