第6話 トンカツ VS 鶏肉姫

 決戦を前に、トンカツは通用口に案内された。そこからリングが遠くに見えた。

 コロシアムのような形をした会場はすでに満員。中央の闘技場は整備員たちがトンボをかけて、砂を均している。

 リングが無いと聞かされ、風呂敷は控え室に置いてくる事になった。「負けたらダッシュよ」と、自分に言い聞かせるトンカツ。


「なんか、私の方の砂だけボコボコしてない?」

「鶏肉姫に勝たせようとしてるのでは?」と、チンが言った。


 やっぱり。


 来たわね、アウェーの洗礼! まぁ、やればいいわ。勝利の美酒は憎しみで美味しくなるのよ。


 学ラン姿に散弾銃を構え、トンカツはその場で十字を切った。もう、ブラジルの格闘家の魂が憑依していた。


「トンカツ様。我々が用意した鎧は本当に着なくていいのですか? 学ランよりは、防御ができますが」

「チン、口を慎みなさい」


 突然、トンカツが真面目な口調で、チンを叱咤した。


「この学ランはね。ただの学ランじゃないの。私の旦那のソースが大事なときにしか着なかった一張羅よ。これを着ていると、あの人が私を応援しているような気がするのよ。それが、今の私には、最高の武器なのよ」


 トンカツは瞳を潤ませながら言った。


 そこまで買っていた人間に、なんで回し蹴りができるんだ? と、チンとカンは不思議な気持ちになった。


「きっと、今頃、あの人も、私が王子様の花嫁になることを願っているはずよ」


 どこまでも自分中心の世界を生きている女であった。



 そして、時間となり、場内が暗くなった。スポットライトが中央のリングアナを照らす。


「赤コーナー、キングオブクイーン 鶏肉姫ぇぇぇ」


 名前がコールし、鶏肉姫が入場してくるや、客席は総立ち、歓声の雪崩がトンカツの前に押し寄せてきた。


 すごい! これがアウェーの洗礼なのね!


 トンカツは、学ランの第二ボタンを握りしめた。


「アナタ……私に力を貸して」


 その言葉を聞いて、カンは「ぶっ!」と吹いてしまった。どのツラ下げて願っているのか。




 一方、その頃、福井の農村では。

 朝っぱらからトンカツに出て行かれて暇だったソースは、近所の浮気相手の焼きそばババァとヨロシクやっていたという。


 トンカツの思い、届かず。





「青コーナー 福井が産んだ、人間東尋坊ぉ! トンカツゥゥゥ!」


 入場と共に『ウィーウィーロッキュー』が会場にかかり、トンカツが入ってきた。

 ロックなBGMとセコンドを従えて入ってくるトンカツ。歓声と相まって、なんだかんだでカッコよかった。


「ウォォォォォ!」


 と、ほぼゼロだと思っていたら、それなりに歓声が上がっている。


「なに? 私、結構、人気あるじゃない」

「福井からとんでもない奴が来た、って王国でも話題になってましたから」


 わずか二時間で、トンカツの噂は国中に伝わっていた。

 リング中央に来た瞬間に、ちょっとカッコをつけてシャドーボクシングを見せてみた。


「ウォォォォォ!」


 それと同時に歓声が沸いた。うおっ、気持ちいい!


「ヤッバイ、これテンション上がるわ」


 すっかりやる気になってしまったトンカツ。


 相手の鶏肉姫と中央で睨み合う。


 学ラン VS 格闘家。

 凡人 VS お姫様。

 福井の爆笑王 VS 才色兼備。


 この戦いの二人を別ける言葉はあまりにも多すぎる。


 そして、シーンと静まり返ったコロシアムにゴングが響き渡った。


 カンッ!   (はいっ)









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