調理編
第5話 試合開始十分前!
広間を出ると、使いの二人がトンカツを迎えに来た。二人とも、ボクシングのセコンドみたいなTシャツに着替えていた。首にタオルもかけて、いよいよ戦闘が始まるという感じだ。
「我々がセコンドにつくことになりました」
この二人、背のひく歳をとった方が『チン』、もう一人の背の高い若いのが『カン』という名前であった。トンカツと合わせて、トンチンカンである。
トンカツが花嫁になれば、この二人も出世できるのだ。
どうせ、馬小屋のウンコの掃除とかしてるんでしょうね、この二人。私が出世させてあげるわ。
控え室に案内される間、トンカツはそういう決意を内に秘めたのである。天性の姉御肌、トンカツである。
「こちらです」
チンに案内された部屋に入る。ロッカーとかベンチもあり、いかにも戦う前の控え室といった感じの部屋だ。
トンカツは戦闘モードに入った。
まずは、鶏肉姫の情報が欲しい。あの、殺気、只者ではない。温室育ちの女が纏えるオーラではない。
「鶏肉姫は幼い頃より、武道も習い。達人の腕前でございます」
「んなことは、もう解ってるのよ。弱みよ、弱み。なんかあるでしょ? あれだけエロい身体して美人だったら」
「それが……ゼロです!」
なんとっ! チンの言葉にトンカツは驚いた。
「鶏肉姫は、幼い頃よりタマゴトージ王子を愛しておられました」
「なんとっ!」
そして、タマゴトージ王子の奥さんになるため、今日まで血の滲む努力をしてこられた。
そんな鶏肉姫には、国中から応援のお便りが鶏肉城に毎日のように届いたという。それを読んで、鶏肉姫はさらにトレーニングを頑張った。いい話である。
「いわば、鶏肉姫がタマゴトージ王子と結婚するのは王国中の悲願なのです」
トンカツは「くそっ」と吐き捨て、頭を抱えた。
美貌、気品、礼儀、姿勢、金、王子への愛。全てにおいて現時点でトンカツを上回っている。
そして、忘れちゃいけないのが、巨乳。
その鶏肉の豊満な胸肉には、イミダペプチドという物質が多く含まれ、疲労回復効果まであるというではないか。
王子を癒す夜の営みでもトンカツは敗北を喫したのである。ああ、カマキリ女の悲劇。
「考えてても仕方がないわ」
トンカツは学ランの中の麻酔弾を散弾銃に詰め込んで、戦いの準備を始めた。
「勝負は一瞬よ。この一発で全部、決めてやるわ!」
豚victory……絶対に勝ってやるんだから!
トンカツは腹を決め、残り時間は、負けた時のために部屋の中の金目のものを風呂敷に集めておくことに時間を費やした。
「その風呂敷、リングの下に隠しておいて。負けたら、それ持って逃げるわよ」
こういう状況でも冷静な判断を失わないこの女を、普通に怖いと思うチンとカンであった。
そして、
「十分前です。入場の準備をしてください!」
ついに戦いのため、スタッフがトンカツを呼びに来た。
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