第3話 ライバル出現よ!

 広間の婚約者候補の数を見て、トンカツは唖然とした。所詮、二人、多くて三人と高を括って見てみれば、なんと、百人はいるではないか。


 しかも、全員、トンカツとは違い、ドレスを身にまとった貴族以上の身分を思わせる女ども。


「なに、あいつ」「学ラン着てるわよ?」「女じゃないの?」「女とか以前にバカじゃないの?」


 トンカツを馬鹿にする声がハエのように飛び回る。くっそぉ、貴族の苦労知らずがぁぁ!


「黙れ!」


 玉座から飛んだ王女の威厳ある一声で、一瞬にして広間の聞くに耐えない声は一掃された。


「かっこいい。いずれ、私もあそこに座って、ああなるのね」


 自信だけは一人前の学ラン女であった。


「何をしている。お前、さっさと並ばんか」

「は、はい!」


 王女の刺すような命令に、トンカツはビクッと寒気を感じた。こいつが義理の母親になるのは少し嫌だな。と、思うトンカツであった。



 遠くから見たら雰囲気で美人に見えていた候補者どもも、近くで見たらブスばっかりであった。トンカツも言えた義理ではなかったが。


「これなら、ワンチャン狙える」


 と、そう思った矢先。


 びくっ!


 トンカツの自分より綺麗なものを捉える女の防衛本能が左舷前方に強力な電波をキャッチした。


「なんだ、この気は……」


 視線の先、まるで水辺でたたずむ白鳥のようなお淑やかで優雅な佇まい。


 金髪。

 綺麗なうなじ。

 一際、高貴なドレス。

 そして、小さい顔。


 さらに拡大する。


 餅のように白くてプルンプルンの肌。

 クリッとしたまん丸な二重のお目目。

 耳くそゼロ。


 そしてさらに拡大。


 なんという偉大な家系が連なってできた血。

 そして、この塩基配列。『いい女になれ!』とクドイように人間に命令してくるDNA。そりゃ、美人にもなりますわ。


 なんだあいつは……。


「見て、鶏肉姫よ」


 ぬ? 


 周りのブスが騒ぎ出した。名前はトンカツでも聞いたことがあった。あれが鶏肉姫。


 確か、幼い頃から王子様と仲が良く、親子ぐるみの付き合いがあると聞いたことがある。

 クッソ、卑怯者め。小さい頃からゴマスリやがって。

 カワイイに人権なし、幼い頃から、ブスの群れを作り、カワイイものがいれば淘汰して来たトンカツ。


「了解、鶏肉姫、排除する」


 己の野生の本能から、重大任務を受け取るトンカツ。鶏肉姫、ぶっ転す。


「静粛に」


 王様の声。静まる広間。

 学ランのホックをはめるトンカツ。

「んなことしても、意味ないわよ」と周りの候補者が白い目で見て来たが、関係ない。アピールできることは一ミリでもアピールしてやるのよ。


「散弾銃しまえよ」


 妬みの声がしたが、うるさい。黙れ。散弾銃は王様に献上するのだ。必要なのだ。高貴な場所で「しまえよ」とはなんだ、「しまえよ」とは。


 全く、最近の貴族は口の利き方も習ってないのか。ライバルは鶏肉姫だけのようね。


「ええ、今から、タマゴトージ王子との結婚を決める方法と説明する。それは」


 一同は息を飲んだ。


「バトルロワイヤルで最後まで生き残ったものを王子の婚約者とする」


 よっしゃああああああああああ!


 高々と散弾銃を構えたトンカツの声が広間に響いた。「お前、うるさいぞ」と王女様、直々に怒られてしまった。


 それに反して、貴族どもの文句が次々と王様に向けて浴びせられた。


「なんでですか!」「せっかくお洒落して来たのに、死んだら意味ないじゃないですか!」


 黙れ!


 美しい怒鳴り声にトンカツもピクッとし、その他大勢も全員、黙った。


「あなたたち、ここへは何しに知らしたのかしら?」


 その声は鶏肉姫だった。


「王子様と結婚できないのなら、死んだ方がマシ。そういう覚悟もなく、この王室に足を踏み入れたのなら、とっとと帰ることね」


 鶏肉姫の声に他の貴族は顔を見合わせた。


「帰りなさい! ここはあなた達のような輩が来るところではないわ!」


 鶏肉姫の威圧で、続々と花嫁候補達は広間から退出し始めた。死んでまでお姫様になる覚悟のない軟弱な奴らの集まりだったのだ。


 鶏肉姫の一言で、あっという間に五十人程度にまで絞られたのであった。












 

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