第2話 トキタマーゴ城 到着
産業道路を馬車でトラックと並走し、福井を抜けたあたりで、トンカツたちは軽トラックに乗り換えた。
まるで銀行強盗の逃走ルートのような乗り換えにトンカツは「城に行くのよね?」と腑に落ちない気分になった。
そして、トキタマーゴ王国へとやって来たトンカツであった。
「こちらが、トキタマーゴ城でございます」
トンカツは城を見上げた。高すぎて、頂上を見たら、後ろにひっくり返ってしまった。
そんくらいデカいお城であった。
「今日から、私はここで暮らすのね。選ばれた者として」
トンカツは姿勢を正した。
ここから先は、凡人の住む世界じゃないわ。バケモノだけが入ることを許される領域よ。
「もう、王様と王女様がお待ちです」
「え! 早速なの!」
「当たり前です。もう、広間に婚約者候補の方が集まっておりますよ」
そんな……ちょっと待ってよ。トンカツは己の服装を見下ろしたら、ブラジャーはしていたものの。
王様に会うと聞いたせいで、旦那の葬式用の学ランを着て来ちゃったわ!
「なんで、学ラン着てるんですか!」
「だって、冠婚葬祭の服だから、これしかなかったのよ!」
やっと学ランを着ていることに気づいた使いの男に怒られるトンカツ。確かに、これじゃあ田舎者、丸出しじゃない!
持っていた荷物も、鞄だと思ってよく見たら旦那のギターケースじゃない! 中にはソースが趣味で使っている組み立て式の散弾銃だけが入っていた。
「あんた、殺しに来たのか!」
「違う! 違うのよ! これは、急いでたから! 旦那の趣味なの!」
汗が止まらないトンカツ。
実際、全部、旦那の趣味である。トンカツの旦那には、熊と野鳥を撃ち殺すという趣味があった。
王に献上する高価なものが必要だとトンカツは勝手に判断し、時間がなくて、道具一式を持って来てしまったのである。
幸い、銃と一緒に入っていた、旦那の散弾銃の免許証を入り口で見せて、なんとか城の中には入れた。
「こ、こいつが……」
トンカツを、王子様の花嫁候補だと知った入り口の警備員は、学ラン姿のトンカツを唖然とした顔で見ていた。
「なによっ!」
ヤケクソのトンカツは、何か言いたげな警備員を睨み返した。「いい歳こいて、葬式に学ランで出るなよ」という文句が小声で聞こえて来た。
トンカツはそれを聞いて悔しくて、拳を握りしめた。
「私のことはどれだけ馬鹿にしてもいいわ。でも、旦那のことを馬鹿にするなんて、許せない!」
心無い貴族たちの庶民への侮辱を初めて受けたトンカツであった。「そいつをぶん殴って来たのは誰だよ?」と使いの二人は、本気で泣いている学ラン女を見て思った。
「悔しいけど。これじゃあ、印象最悪じゃない! 頑張れ、トンカツ! 王子様と結婚して、見返してやるのよ!」
散弾銃には弾が入っていなかったが、幸い学ランのポケットにクマ用の麻酔弾が入っていた。
「いざとなったら、ライバルをこれで撃つしかない」
鷹狩りは立派な、貴族の趣味よ! と、人殺しすらも厭わない覚悟を決め、お城へ入るトンカツであった。
さすが城の中。
あたりから優雅なBGMが聞こえてくる。地面に絨毯も、とても優雅だわ。
ドキドキ。私の人生が変わる瞬間……
「王のご命令により、王子の婚約者候補、トンカツ様をお連れした」
使いが扉の前の兵に言うと、広間のドアが開いた。
すでに城中の使用人、役人が整列し、トンカツが来るのを待っていたようだ。
そして、玉座には王様と王女様……トンカツは今までの人生とは違う煌びやかな世界に圧倒された。
ここで、私、やっていけるのかしら……ううん、弱気になっちゃダメ! 絶対に、絶対にお嫁さんになるのよ!
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