04.良心が痛むってこういう事 ※新キャラ登場
「もうイヤ、帰る!」
「どこに帰るんだよ! この世界に帰る場所も、泊まれる場所もねぇだろ。お金もないし」
「じゃぁ、どうするってのよ。私このままでいるとか耐えられない、はやく…………お風呂入りたい」
ロッククラブの群れから何とか逃げ出したヤドルとカナは、森の少し開けた場所で休憩を取っていた。
いくら逃げ切れたと言っても、それは辛うじてであり、カナもヤドルも共に傷を負っていた……主に『心の傷』を、だが。
2人とも走って逃げてきたので息が中々整わないままであり、呼吸を整えるため少しの間無言でいた。
冷静になったヤドルは、カナの姿を見て、その『惨状』に……
「ふははっ、お前。ベットベトで、泥だらけじゃねぇか。その服もしかして溶けてんのか? ははっ……」
ヤドルの言う通り、カナは全身を泥だらけにしていた。せっかくの金髪ストレートは茶色く逆立ってしまっているし、服もズタボロで肌のあちこちが露出していた。
――泥のせいで、一切見えないんだがな! エロくない健全!!
カナが泥だらけじゃなければ、ヤドルもカナの姿を直視しなかったし、バカにする暇があれば恥ずかしがっていたのだが……
「だっせぇな、お前。ふははっ」
「ゆっ……許さないんだからぁぁぁ!」
膝蹴りをしようとしたカナであったが、全身がベトベトであり、すぐに足元を取られコケてしまった。
ロッククラブはカニと同じように泡を吐くのだが、その泡はロッククラブ同士の岩が互いに擦れてしまわないようにするための潤滑材となっている。
そのため、非常にヌルヌルのベットベトとなっているのだ。
コケたカナを笑うヤドルに、カナはイラっとし、物理的ではなく『言葉』で攻撃することにした。
「そういうあなたの『髪型』……とても、ぷっ、お似合いね、ふふっ」
「…………はっ?」
「えっもしかして、自分の髪型に気づいてない系男子なの? ふふふっ、ふふっ」
「おっおい、何がおかしいんだよ。どうなってんだよ、俺の髪型ぁ!」
カナは自分の懐から手鏡を取り出すと、ヤドル渡した。
ヤドルの髪型はロッククラブに切り刻まれたことによって、一部の髪を残して後のほとんどが坊主になっているような。某ザビエルみたいな髪型になってしまっていた。
「うっ……うっそだろぉぉ」
「ふふっ、ふぁぁぁっ、なっ何その髪型よ。自分で気づいていなかったとか、めちゃくちゃ笑えるっての何の」
「てんめぇ……」
2人は互いのことを笑いあっていたが、次第にその目から笑いが消えていった。
殺伐とした空気が漂う。
不穏な空気を悟ったのか、周囲の木々から鳥たちが飛び立った。
このままカナと睨みあっていても仕方ないと考えたヤドルは、次の作戦を立て始めた。
「なぁ、このまま洞窟に戻っても同じことの繰り返しになるだろ……」
――どこかにお金を借りて、装備を整えるのはどうか?
ヤドルがそう口にしようとした瞬間、バサリと木々が揺れる音がした。
「やべぇ、敵か?」
「だっ誰か来るの?」
――やべぇよ、この髪型もう誰にも見られたくねぇのに……
――こんな姿、絶対笑われるから来ないで、見ないでよ……
音がした方向に体を向けながら、口では格好つけたヤドルとカナであったが、頭の中で考えていたのは非常に残念なことであった。
そうこうしている内に、草をかき分ける音はドンドン大きくなり、……そして、一人の少女が現れた。
「あっ、あの……もしかして、冒険者の方々で間違いないですか?」
「「えっ? あぁえぇと」」
「謙遜なんてしなくて大丈夫です。先ほどあなた方の会話が少しだけ聞こえてきたのです。もしかして、これからダンジョンに……あれ、その姿は、もしかしてダンジョンもう攻略しちゃった後の帰りでしたか?」
ヤドルとカナのことを『ギルド承認済み冒険者』だと勘違いしたその少女は、白を基調とし、所々に教会の文様が描かれたローブを身にまとい、杖を身に着けていた。
彼女はキラキラと目を輝かせながら、ヤドルたちのことを見つめている。尊敬の眼差しである。
そのような目を向けられる理由が全く分からないヤドルは、少女に質問を投げかけることにした。
「あの……俺たちに何か用かな?」
「そっその、無粋なお願いで悪いのかもしれませんが……その、私を……」
少女は自分の持つ小ぶりな杖を両手で持ち、小さく杖に向かって「自分なら大丈夫! きっとうまくいく!」と呟いて、ひと際大きく息を吸って吐くと、
「私を、あなた方のパーティメンバーにしていただけませんでしょうか!!」
* * * *
少女の名前は、フェイル・サクセス。
年はヤドルとカナよりも2歳年下の13歳。
ジョブ(冒険者の職業)は、回復魔法や支援魔法に長けたクレリックである。
そこそこ高レベルで、この森まで自身の片田舎からたった一人でたどり着くことができる程に強い。
少なくとも、ヤドルやカナよりもステータスで大きく差を付けているに違いない。
「(で、そんな少女が私たちのパーティーに入りたいと)」
「(……なぁ、俺たちってそもそもパーティーだったっけ?)」
「(なっ何よ。ここまで来て、私を仲間だと認めないとか言い出す訳?)」
「(違う違うって、そういうことじゃなく。俺たちって、そもそも『ギルド承認済み冒険者』じゃないだろ。だからパーティーとか、そういう言葉よりも、ただの……その何だ。あれだろ)」
取り合えずフェイルの簡単な自己紹介を受けた後、彼女を切り株に座らせ、少し離れた場所でひそひそ会議を始めるヤドルとカナ。
「(まぁ、そういうことなら、そういうことにしておきましょう)」
「(んで、本題なんだが……あいつ、どうやら俺たちのことを『ギルド承認済み冒険者』と勘違いしているようだろ)」
「(うん、それで私たちのパーティーに入ることで、自分も冒険者になれるんじゃないかって)」
フェイルは、田舎からギルドのある都会へと冒険者を目指して出てきたのはいいが、ヤドルたちと同じく人脈もお金も持っていなかった。
そのため、どこかの冒険者のパーティーに入れてもらい、そこで功績をあげることで、もしかしたら自分も実力が認められ、冒険者になれるのでは……と考えたそうだ。
冒険者のパーティーを探しているときに、ちょうどヤドルとカナに出くわした流れである。
「(そこで、さ。俺思うんだけど……)」
ヤドルはカナに自分の思いついた『作戦』を伝えた。
その『作戦』を聞いたカナは、目を細め引き気味に、
「(さっサイテーなこと考えるわね、あんた)」
「(でも、これしかないだろ)」
「(まぁ、良いことじゃないけど、……やるしかないわよね)」
ヤドルとカナが力強く頷きあったのをフェイルは、ほてっと首を傾げて見ていた。
そんなフェイルにヤドルが近づくと、フェイルは憧れの冒険者を目の前にして、ピクんと肩を揺らす。
すぅ、とヤドルは一息、空気を大きく吸い込み……
「そうだ。俺たちは冒険者だ。話を聞くと君も我々と同じ冒険者になりたいそうじゃないか。そこで一つ、ある試験を乗り越えてくれたら、俺たちがギルドに話を聞いてやらんでもない」
――おぉぉぉ! これでわたしも本当の冒険者に……!
ヤドルの言葉に興奮気味のフェイル。
クリクリした目を輝かせているフェイルの目にヤドルは自然と惹きつけられていた。
ヤドルとフェイルが自然に見つめ合う構図になり、カナは無性に腹が立ち始めていたが、ヤドルが知る由もない。
「そっその試験とは、何なのでしょうか」
「お前には、あるクエストをやってもらう。モンスター退治だ。できるか?」
ヤドルが考えた『作戦』。
それは、自分たちではロッククラブを倒すのは不可能なので、フェイルのことを騙し、ギルドに紹介することをエサにクエストを代わりにやってもらうという……端的に言って、最低な行為であった。
「はい、絶対に良いところ見せます! ギルドへの紹介よろしくお願いしますよ!!」
鼻息荒くしながら答えたフェイルに……
――やっべぇ、これバレたらマズそうだな。
ヤドルが嘘を付いている何て思いもしないフェイルの様子に、ヤドルの良心がちょっぴり傷んだ。
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