第5話

大正3年の春の頃、京都河原町三条のキリスト教聖公会(聖ザビエル天主堂)の石段に3歳を過ぎたばかりの女の子が腰をおろしていた。一人ぼっちで友達もなく、守りらしい人もいない。

するとドアーが開き長い髭の牧師さんが現れ、その女の子のおかっぱの頭をなで白い紙包みを渡された。

女の子はニコッとして頭を下げ牧師さんを見上げ、紙包みを両手に受け取った。包みの中にはバナナの味がして柔らかいオレンジ色の洋菓子があった。


いい異人さん、好きな髭さんである。

ときどきふっと教会へ出掛けて行っては、何時も同じお菓子を貰っていた女の子は私であり、幼い思い出の其れこそ最初の1ページである。

酒屋を営む生家筋向かいに其の聖公会が建っていた。


(河原町三条は南側には二条城、西には京都御所、北側には平安神宮、東側には祇園や八坂神社のほぼ真ん中位置し、家の近くには京極や寺町の本能寺、天性寺があり其の境内や門前でも遊んでいたそうだ。聖ザビエル教会は、現在犬山市の明治村に保存展示されている)

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