第61話 付和Ride On(1)
それから3日間、香川警備保障について調べた。総従業員数、勤務形態、香川義信の1日の動向など。
総従業員数は126名、そのうち特殊SPが12名、一般SPが34名、一般家庭及び一般企業向けの警備員が54名、 営業部が18名、他は事務員と秘書が2人、わりと小規模な組織だが、香川の警察OBのツテで大きな仕事を受けることもある会社だった。この他にも50名ほどの下請け警備会社が3社ある。
勤務形態はSP、警備員に関してはシフト制で、他は午前9時から午後6時までの定時。一般企業駐在の警備員が28名、あとの6名が交代制で、自社の警備及び契約している一般家庭の呼び出しの待機員が4名いることになっている。
「なんだ、その特殊SPって」
眠そうな顔でダンゴムシが聞くと、ロイホが作ったiPadの資料を見ながら、ロイホの代わりにミントが答える。ロイホは、この3日間、車椅子を購入し、アゲハのために改造することに熱中していた。
「公にはSP46名となっていますが、この特殊SPは、6名ずつの2班に分かれています。この12名はSP46名中、生え抜かれたエリートです」
iPadの画面には2人の男の顔が拡大された。
「こちらが、その特殊SPの班長、右が根津博久、41歳、元ボクサーで引退した後、香川警備保障に入社。そして左が木村良治、34歳、元自衛官で下士官への執拗なパワハラでクビになっています」
「どちらにしても腐れ外道だな。じゃあ、この2人が香川の側近って感じか」
「おそらく。この2人と、その追従者である班員10名が、今回の実働隊と考えられないでしょうか」
「ほかのSPたちは、普通に勤務している一般の従業員だな。一般の従業員のシフトでは、何人出勤になってる?」
「著名人などの要人の護衛の場合だと別ですが、基本2日出て1日休みのシフトのようです。1日22〜23人といったところでしょうか」
会話は、ダンゴムシとミントだけで進んでいく。俺たちは、それを黙って聞いていた。古谷夫妻も部屋の隅のソファに座り、一緒に聞いていた。
ランボーが頭の悪そうな顔をして、そのエリートの12人はいつ休んでんだ?と口を挟んで、全員から睨まれた。
「香川はだいたい、午前11時くらいに出社し、ほぼ1日社長室にこもっています。社長室を自由に出入りできるのは、この根津と木村の2人と秘書の2人だけです」
その秘書って女か?とランボーがまた頭の悪そうな質問をし、ダンゴムシに軽い頭突きを食らわされた。
ダンゴムシとミントが意見を出し合っているのを、澤村は腕を組んで俯いて聞いている。ジバンシイは麻酔銃を分解し、手入れをしていた。しかし、考えがまとまらず手を動かしていたいだけで、銃の手入れのための分解も、3度目に突入していた。
相手の人数が多すぎるのだ。今まで相手にしてきたのは1人から多くて3人。それに復讐する対象者と違い、SPや警備員などの訓練を受けている者たちが相手だ。
部屋の中に鉛の焦げる匂いが充満してきた。ロイホがハンダゴテで何かを接着していた。ロイホは軍手を外しながら、部屋の窓を開けて言った。
「それで、アゲハさんと楓さんにトラックで突っ込んだ男なんですが、その木村の遠縁にあたる人間で800万ほど闇金から借金してたみたいです」
「その借金を肩代わりする代わりに、この事故を起こしたってことか」
「あり得ますね」
ガタン、と勢いよく部屋の扉が開いた。
「そりゃあ、マジか!」
迷彩のワークパンツに黒いタンクトップを着たアゲハが、手動の車椅子に乗って現れた。車椅子を押してきたのはドクターだ。まだ顔にも腕にも包帯がしてあったが、右肩のアゲハ蝶のタトゥーが見えている。楓も松葉杖をついて、横に立っていた。楓は俺と目が合うと、小さく手を振ってきた。
「そいつ、ぶっ殺す!!」
アゲハはiPadの木村の写真をもの凄い目付きで睨んだ。大丈夫なのか、とダンゴムシが聞くと、大丈夫じゃねえ、両足全然ダメだ、と自分の太腿を拳で叩いた。
アゲハはロイホの車椅子を作っているところを覗きこんで、あれこれ注文をつけていた。楓は松葉杖でフラフラ歩いてこちらに向かってきたので、手を貸して俺の隣に座らせた。
足、大丈夫か、と聞こうか、この間は怒鳴ってすまなかった、と言おうか、里穂は実家のメロン飽きちゃったんだって、と話を晒そうか迷っていると、
「ごめん。本当にごめん。全部ごめん!」
と手を合わせて頭を下げられてしまい、何も言うことを失ってしまい、俺は楓の肩に手を置いて、俺もごめん、と言った。
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