#2
今は脚を庇ってまともに動ける状態じゃない。でも、誰かいる。その誰かが私をここまで運んで、その上脚まで治してくれた。
夏海はふらつく頭を
少なくともその誰かは私の味方だと判断するのは軽率だろうか。いや、こんな状態では藁にも縋る思いだ。どうにかその誰かを探さないと。そう決意すると、夏海は周囲を見渡した。
脚にばかり気を取られていたので気が付かなかったが、この場所は牢獄のような雰囲気を醸し出していた。資料のような紙が辺りに散乱し、天井付近まで伸びた棚は無差別に開いている。まるで、慌てて何かを持ち去ったかのようだ。
泥棒が入ったらこんな感じなのかな。などと考えていた夏海は自分の乗っている台に視線を落とした。それは、まるで手術台に似た鉄製の机なのだが、転々と凹んでいる箇所がある。どういった力が作用すれば、こんな凹み方をするのだろうと思うような場所もあった。
ここに留まっていても、情報が何も無い。脚はまだ痛いけど、さっきより緩和してる気がする……少し散策しよう。
そこまで考えた夏海はある事に気が付く。
リュックサックが、無い。あの中には大事なものが二つも入っていたというのに。
ぶんぶん首を振って周囲を視認したが、やはりどこにも無い。
「そうだ。鉄骨に引っ掛けたままなんだ。ううん、資料どころかリュックサックの中身が全部、辺りに散らばってたじゃない」
ぶつぶつと自問自答する夏海の顔からはだんだんと血の気が引いていった。
まずい、振り出しに戻ったどころか、完全に迷宮入りだ。頭で現状を理解した頃には、顔面蒼白になっていた。
「とにかく、あれを探さないと」
自分に言い聞かせるように呟くと、左脚を庇いながら台から降りた。痛みが消えたわけではないが、幾分か軽減されているように感じた。
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