#10

 鼓動はゆっくりと減速し、心地よいリズムになると、静かになった。


「ねぇ、これってもしかして、赤ちゃん、できちゃったかな?」


 まだ息が荒い海奈は途切れ途切れにそう言った。


「かもしれないな」


「責任、ちゃんと取ってくださいね」


「……あぁ、幸せにするよ」


 全ての記憶は既に戻っていた。彼女に触れられ、触れる度、鮮明に蘇ってくる過去は、どうしようもなく残酷なものだった。

 これから起こる事を悟ると、自分の弱さに涙を浮かべた。


 それを見ていた彼女に、どうして泣いてるのか訊かれたが、何も答えることができなかった。


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