#8

✽ ✽ ✽



 頬に柔らかい感触を受ける。


「ふふっ、相変わらず下手でしたね。結局私が上に乗って動くんですもの……あの体位、結構疲れるんですよ?」


 ぼそぼそと耳元で囁く声が鼓膜をくすぐる。


──どうして、どうしてこうなった。



 


 海奈と別れたあと、あちこちを探索していると、同じ階に【青木博信様】と書かれたプレートが掛かった部屋があったので、機械のナレーション通りに指紋認証と虹彩認証を済ませて中へ入たのだ。


 部屋の中は休憩所と同じくらい片付いていた。何かあるとすれば、デスクの上にデスクトップパソコンが置いてあるくらいだった。


 電源を入れると、デスクの右側に窪みができ、『窪みに掌を置いてください』とモニターに表示された。


 指示通りに掌を置くと、画面が切り替わり『password:』と表示された。縦棒がコロンの横で規則正しく点滅している。


 スマートフォンやパソコンは一台ずつパスワードを変えているのだが、なんとなく頭に浮かんだ文字を入力してみる。すると、『残り4回 ※認証回数が0回になると自動でデータを完全に削除します』と出力されて焦った。


 パスワードが判明するまでは無闇に触れないなと考えていると、後ろでドアの開く音がした。


 驚いて振り返ると、そこにはシャワーを浴びた直後なのか、頬の火照った海奈の姿があった。


 真っ白なTシャツ、真っ白な短パンといったラフな格好の海奈は、絵画に登場する天使を彷彿させた。

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