#5

「……変な青木さん。それはそうと、コード186は順調に事が進んでいるので心配しないで下さいね?」


 それでは、と女性は軽く会釈をすると、部屋の奥へと姿を消した。


「コード186だと? 185の連番だとすると、ここはlevel2域内だと捉えるべきか。クソッ、情報があまりにも少な過ぎる」


 博信は周辺を見回した。


 部屋は白が基本調となっており、棚、椅子ベッドとあまり道具が置かれていない殺風景な場所であった。──休憩所、もしくは仮眠室だろう。


 博信はのっそりとした挙動でうろうろと部屋を一通り歩いて回った。情報源になりそうなめぼしい物は特に無く、博信は部屋を出る事にした。


 横開きの扉を開くと、そこは先程の部屋より三周り程大きな部屋であった。点々と丸いテーブルがあり、中央には少し大きめの円形のテーブル。それを囲うようにしてソファが並んでいた。観葉植物が隅に置かれており、それを除くとやはり白で統一されている。


「精神病棟か、ここは」と博信が呟く。


「もう大丈夫なんですか? あ、皆さんならもうお帰りになられましたよ」


 先程の美人がテーブル越しに言う。


「薄情甚だしいですよね全く! 博信さんが倒れたのに『脈がある、呼吸も安定しているから大丈夫だろう』って言って仕事が終わったらとっとと帰っちゃうんですもの!」


 失礼しちゃうわ! と美人。


 博信は少々迷ったが、美人の横まで移動すると、ゆっくりと腰を下ろした。ソファのふかふかとした感触が堪らなく落ち着く。


「あら、隣に来るなんて珍しく積極的なんですね博信さん。今日はここに泊まってっちゃいます?」


「えと、あの、な、名前……」


 今まで研究一筋だった博信は、女性と事務的にしか会話した事がなく、意図せずどもる。


「名前ですか? 今さっきまではここに中島さんと大野木さんが居ましたから。別に今仕事している訳でもないですし……。駄目ですか?」


 上目遣いでそう言われ「いや、じゃ、ないですすみません」と思わず謝る。


 目を合わせる事ができず、あちこちに視線を泳がせていると、女性の胸元にネームプレートがかかっている事に気が付いた。


「か、やま?」


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