Episode 4

#1

「に、逃げろ! は、早く、逃げろ!」


 直立している自分の横を、白衣を着た研究員達が必死の形相で駆け抜ける。


 目の前から得体のしれない何かがニタニタと笑みながら距離を詰めてくる。


「ひっ」


 あまりの不気味さから一歩後退ると、ぐにゃりと足元が捻れてバランスを崩した。そのまま尻餅をつくと、手にぬるりと生温かい何かが触れた。


 掌を目の前まで持ってくると、表面がべったりと赤黒く染まっていた。


「あ、あぁ、うわあぁああ!」


 気付けば血の池が自分の周りを囲んでいた。正に死屍累々。


 首、腕、斜めに切れた胴体、下半身──人間を構成するための部位が散々と辺りに転がっている。



どん どん どん!



 壁に重たい何かが激突する音が絶えることなく、少しずつ近付いてくる。


 音が止むと、目の端に白い何かがちらりと写った。


 ゆっくりと顔を上げる。


 ぎょろりとした真っ黒な眼のようなものが付いた白い棒がこちらを見下していた。ニタニタと目の付近まで裂けた口元は、その身体に似つかわしくない赤色で染まっている。その手には臓器を撒き散らす研究員の胴体。


 思考が停止し、呆然とそれを眺めていると、もう片方の手がすごい勢いでこちらに伸びてきた。


「やめ、が、ごぼっ……」


 白い腕が喉元を貫通する。いちど漏れ出た液体は、壊れた蛇口から溢れるように止まらない。


 目の前が霧がかかったように霞む。次第に意識が途切れ、電池が切れたように息絶えた。


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