#3

 それにしても、先程のあの気配は何だったのだろうか? 確実に何かがいた。それは確証がある。走り出す際に後方から『アッ、マッ』と声のようなものが聞こえたからだ。ただ、実態が全く把握できなかったことに夏海は不気味さを感じずには居られなかった。


 一通り呼吸を整えた夏海は、座り込んだまま辺りを見回した。


「ここは……どこだろう?」


 むせ返りそうなほど埃が充満しているのは、今しがた夏海がここへ駆け込んだからであろう。


 ぱっと見たところ、そこは病院の診察室のような場所であった。横に3メートル、奥行きは5メートルといったところだろうか。机、ベッド、エコーらしきものが配置されている。


 夏海は机の側へ寄ると、徐に引き出しを漁りだした。そして、全部で4段ある引き出しの上から3段目に、夏海が探しているものが入っていた。館内の見取り図である。


 夏海は先程入ってきた入り口の前まで移動すると、そっと扉を開けた。ぎぃと軋む扉をゆっくりと押すと、隙間から顔を覗かせ廊下の様子を確認した。


 廊下側は依然として冷たい空気が充満しており、隙間を介して部屋へと流れ込んでくる。


 右側の壁側面にある部屋プレートを見ようとしたのだが、文字が掠れていて読めそうにない。廊下沿いの部屋プレートにも光を当ててみたが、同様に掠れており、読み取る事は叶わなかった。


 夏海はそっと顔を引っ込め扉を閉めると、先程の机の前まで移動した。机に見取り図を広げると、懐中電灯で端からなぞるようにして照らした。いくら滅茶苦茶に走ったからといえど、だいたいの位置は把握できるだろう。


 夏海は走っていた時の記憶を順々に手繰り寄せ慮った。そして、ここかなと自分の現在地に見当をつけた。1104と見取り図に書かれたその部屋は、離れからそう遠くは無いようだ。夏海は頭に見取り図を叩き込むと、リュックサックにそれを仕舞った。


 その刹那──どん! と大きな衝撃が部屋全体を駆け巡り、天井から砂埃がさらさらと降ってきた。コンクリートの唸り声が耳の奥底に曳く。


「きゃっ」


 突然の出来事に夏海は小さく悲鳴を上げた。一体何が起きたというのだろうか。


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