Episode 2

#1

 『あの場所』と呼ばれ、畏怖いふされ続けているここ……もとい『ガルダ』を目にするのは、実に半年ぶりだ。


 その禍々しい雰囲気を醸し出す病院のような施設は、つたやそこらから生える葉で7割型表面が覆われている。人はおろか動物の気配が全くしないその場所は、他の廃墟とは違う、独特な不気味さを充満させていた。


 青木あおき博信ひろのぶは黒いTシャツにジーンズといったラフな服装をして、目の前にある建築物を見上げていた。今年で37を迎える博信は、現在の高校教師に就く前、ここで働いていたのである。


 病院だと比喩したその場所は元々、国が戦時から保有する実験施設だった。そして博信はその施設の遺伝子工学の最前線を研究する職員の一人だったのだ。当時26歳だった博信は、若くしてその才能を認められ、個人的な実験部屋が設けられるまで、それほど時間は掛からなかった──


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