Episode13 明かされる秘密

オリヘン……それが存在した瞬間、世界が創造され、あらゆる命が生まれたと言われる。

それが存在する場所こそが世界の中心だと、人々は考えていた。


だが、オリヘンの前にひとりの男が現れる。男がオリヘンに触れると、それは目をそむけるほどの眩い光を解き放ったのち、砕け散ると世界に闇が存在した。


闇は世界を瞬く間に飲み込んだ。光を失った世界は悪を生み出した。

人々は互いに殺し合い、終焉への階段を登りはじめる。そんな中で、砕け散ったオリヘンを探すものが現れる。広い世界へと消えたオリヘンの欠片を見つけ出すには何年にも及ぶ時を必要とした。それを見つけ、守る者を人々はシュッツヘルと呼んだ。


しかし、光に影があるように、それに敵対する者も現れる。その者達はアルパガスと呼ばれた。シュッツヘルは、オリヘンの力を知りそれを奪おうとするアルパガスと幾年の時を争いで血に染めた。

世界に散ったオリヘンの欠片は13存在すると言われた。そのうちの半数はアルパガスの手に渡る。


光と影を作り出したオリヘンは、現在に至ってもなお、その力を失っていない。


それを語るアルバノスの目は怒りと悲しみが入り混じったようだった。

「リズは俺たちと同じ、シュッツヘルだった。だが…オリヘンに近づき過ぎたリズは、命を奪われてしまった…」


「奪われたって…オリヘンに殺されたっていうの…?」カトリーネは震える口で言うと、その場に呆然と立ち尽くす。


「オリヘンは、命を与え、奪いもする。その力は世界そのものだ…」肩をすくめながらオリヘンを見る目は、恐怖を感じているように震えていた。


「オリヘンが無くなると、この世界も消えるのか…?」私はオリヘンを見つめながら言った。


「それは分からない。世界が終わるのか……なにかが起きるのか。馬鹿げた話だろう、大切な友の命まで奪ったこの岩を、今でもこうして守っているんだ」


「そんなこと言わないで。母は命をなげうってまでこの岩を守ったんでしょ? それを無駄にしたくない」


パチパチパチパチ……


「泣けるな。母の意思を継ぐか?」


両手を叩きながらオリヘンの陰からジャヌが姿を見せる。

「オリヘンの真実を知った今、お前たちはどうする?」挑発するような笑みを浮かべオリヘンに手を付けるジャヌにアルバノスは唸った。

「貴様は何者だ…。アルパ…」


「アルパガスアルパガスうるさいんだよ。俺をそんなゴミみたいな奴らと一緒にするな」


アルバノスはジャヌの言葉に眉間にしわを寄せ、立ち上がる。


「なんの用だ?」

私の言葉にジャヌは残念そうな表情を浮かべる。

「お前はいつもそうだ。俺が会いに来るたび、何の用だ? ここで何をしている? それは口癖なのか。もっと歓迎してくれてもいいだろう」


「ジャヌ…」カトリーネはなにか言いたげな表情をしていたが、言葉は出さなかった。

「知り合いなのか?」アルバノスは私とカトリーネの顔を交互に見た。


私はこれまでの経緯を説明した。


「信じられん…」

常識では考えられない話に不信な目で私たちを見る。


「何も知らずにオリヘンを馬鹿みたいに守っているお前に嫌気がさすがな」

ジャヌは呆れた目でアルバノスに言った。


「オリヘンのことは俺たちシュッツヘルが良く知っている」牙を向くその姿に、ジャヌは更なる呆れ顔で答える。

「お前らが持つオリヘンへの考え方が間違っているとは思わなかったのか?」


ジャヌと、アルバノスのどちらが正しいのか。オリヘンのこと理解していない私たちには、当然その答えを出すことが出来ない。

そのもどかしさにカトリーネは苛立っているように見えた。

オリヘン、シュッツヘル、アルパガス…色々なものが同時に頭の中を駆け回る。

それはまるで、私の行く道を邪魔しているようだ。


―こんな夢…無くなってしまえばいい。


完全に私の常識の範囲を超えている出来事に自暴自棄な思いが頭をよぎる。

一つ謎を解けば二つ、三つと謎が増える。現実でもごくありふれたことだが、それがこの世界では不愉快で仕方がなかった。

私はなんの答えを求めてこの世界を旅しているのか、時々分からなくなる時がある。

この世界は私の過去。それ以外の目的はあるのだろうかと思ってしまう。


―俺の存在を確かなものに……。


ジャヌは最後に何を求めているのか。そして、その目的が果たされた時、何が起こるのか。

想像すらもできない。


カトリーネは私に「大丈夫か」と言わんばかりの視線を送る。難しいことは考えずに今起きていることを見よう。


「ジャヌ、お前はいつもなんの前触れもなく現れるが、俺たちを助けているのか?」


「理由もなく、俺がお前らに会いに来ているとでも思ってたのか?」

その挑戦的な言葉に負けてたまるものかと言い返す。

「お前が俺たちの前に姿を見せる理由なんて分かるはずがないだろう。そもそも、敵か味方かもわからないやつを信じろと言うほうが難しい」

ジャヌの口からは「どちらでもない」と言葉が出るだけで、はっきりとしたことは言われない。その時点で怪しすぎるのだ。今まではあまり気にせずにいたが、さすがにジャヌがどういった立場に属するのか明らかにしたい。

私は目を鋭くし強い口調で言葉を投げかける。


「お前は敵なのか、味方なのか」


いつもの達者な口を閉じ、片手でオリヘンを子供でもあやすようにさすりながら、もう片方の手を自分の懐に忍ばせる。

獲物を槍で刺すような視線をこちらに送る。その目は感情など感じさせない。

懐から小さな袋を取り出すと私へと放り投げた。

袋を拾い上げ、中身を取り出す私を黙って見守る三人。


「なんなの?」カトリーネが私に歩み寄る。

「鍵だ。ただの鍵の束だよ」使い道の分からない錆びだらけの鍵束を見つめる私たちに、ジャヌはゆっくりと近づいてくる。


「その鍵をただの錆びた鉄の塊だと思っているなら、それは大間違いだ。そこの大男になら使い身が分かるんじゃないか?」ジャヌの挑発的な言葉に遂にアルバノスは激怒した。

「黙って聞いていれば! 突然現れたお貴様など信用できるものか! それに貴様もだマレウス! この世界が貴様の夢だと? ふざけるな!」暴れる獅子のように辺り構わず怒鳴り散らすアルバノスに私は声を張り上げた。

「落ち着いてくれ! こんな所でわめき散らしてもなんの意味もないだろう!」

大声を上げたのはどれくらいぶりだろうか。争いごとを好かない私は、普段から声を荒げるはない。久しぶりに発した大声のおかげか、少しだけ気分が晴れた気がした。


「確かに、マレウスの言う通りよ。言い争っていてもどうしようもないわ」冷静さを保つカトリーネだが、内心は私たちと同じように何かを叫びたくてたまらないのだ。ジャヌが現れたかと思えば渡されたのは錆びた鍵束ひとつ。自分の身に起きたこと、母親のこと、これからのこと……なにをすべきか分からず、憤りを感じているのはカトリーネも同じだった。


「デカいの、エデシアにある地下牢は知ってるな」アルバノスはジャヌの問いにすぐには答えなかった。威嚇するようにジャヌを睨みつける。

「俺の声が聞こえないのか?」ジャヌは迫る口調で言葉を吐く。

「……知っている。ここから数日はかかる」


「なら、その鍵の使い道も分かるな。エデシアで会おう」


言葉にはしなかったものの、ジャヌの言動は、自分が敵ではないと証明してみせたように感じた。

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