Episode12 守られる起源

大木に縛られた男を見下ろすカトリーネの姿。

私は立ち上がろうとするが、身体がいうことをきかない。

「気が付いたのね。さぁ」

カトリーネは私の肩に手をまわした。

「大丈夫?でもああしなかったらあなたはこの男を殺していたかもしれない」

私は男を殺していなかったことに安心感を抱いた。

人を殺さずに済んだ。それだけも救われた気がした。


「俺はなぜあんな…」

「人が変わったようだったよ。それに、殴ってる時のあなた、笑ってた」

脈打つたびに頭の奥に鈍痛が走る。

「俺はそんなつもりじゃなかった。君を助けようと…」

「分かってる。でも、怖かった」


笑いながら人を殴り続けるのを目の当たりにすれば、誰だって恐怖を覚えるだろう。

その時、縛られている男が目を覚ました。

先ほどまでの怒り狂っていた男の姿は消え、意識がもうろうとしているようである。

顔は大きく腫れあがり、痛々しい面持ちだった。


「貴様らは…ここでなにをしている…」力なく話す男に私は近づき言った。

「俺たちは旅をしていて、あの岩になにか手掛かりがないか調べていたんだ」

私の言葉に男は岩を一瞥すると、私に向かって口を開いた。

「お前はアルパガスではないのか…」

「アルパガス?」

男はため息をつきながら俯き、しばらくしてから顔を上げた。

「…すまなかった。お前はアルパガスだと思い込んでいた。オリヘンを奪いに来たのかと…」

男は縛られた身体に視線を送る。「これを解いてくれないか」

私とカトリーネは目を見合わせる。縄を解いた途端に襲い掛かってくるのではないかという不安を持っていた。だが、このまま男を縛り付けておく訳にもいかない。

「解いてもいいが…」

「なにもしないさ。」男はまっすぐに私たちを見つめる。

カトリーネは男の縄を解いた。


男はふらつく身体を支えるように大木に両手をつき、ゆっくりと立ち上がる。やはり大きい。このような巨体の男を殺しかけたとは信じられない。

人は実に脆いものだと、その時実感した。

男は巨体を動かし岩へと近づくと、ゆっくりとこちらに振り向いた。

「アルバノスだ」太い声で言った。

「カトリーネよ」

私はどの名を口にするか迷った。マレウスか、エルオーデか…。アルバノスは私が話すのを待っているようだった。


「マレウスだ。その…殴って悪かった」私は申し訳なさそうにアルバノスを見た。

「気にするな。俺が先に手を出したんだからな。それよりも…マレウス、会うのはこれで二回目だな」

カトリーネがぎょっとするような目で私を見た。

「古城へ行くように言われたんだ。だが、その時はそれ以上話さなかった」

「そうなんだ…。アルバノス、聞いてもいい?」

アルバノスは首を縦に振りながら返事をした。


なぜ襲ってきたのか、【アルパガス】と【オリヘン】とはなにかを聞いた。


オリヘンとは、この世界を存在させており、世界の基礎とも言われる物らしく、それを狙うのがアルパガスという存在らしい。

ニーデは世界を再構築するためにオリヘンの奪取を目的にしていると、アルバノスは言う。

そして、彼に伝言を頼んだ謎の人物に関しても教えてくれた。


この先に男がひとり立っている。その男に伝えれば、オリヘンは無事だと。

謎の人物はそれ以上話さず、姿を消した。

アルバノスはその人物とは初めて会ったと言った。

オリヘンは無事だと聞かされていたが、私たちがここに居るのを見てアルパガスと勘違いをし、襲ってきたと話した。


「普通の人間はオリヘンになど用がないからな」アルバノスは肩の力を抜きながら言った。


「あの岩が、オリヘンなのか?」

「そうだ。オリヘンは世界にとって欠かせないものだが、同時に、周りにある命を奪う」

周囲の植物が枯れていたのも、オリヘンの影響だった。

「ニーデは、世界の再構築の他に、オリヘンの持つ力も狙っている」険しい面持ちでアルバノスはオリヘンを見ながら話した。


「あなたはこのオリヘンを守っているの?」カトリーネの問いにアルバノスは頷く。

「俺たちは【シュッツヘル】と呼ばれている。オリヘンを守る人間のことだ」手で顔の傷を確認するように触りながらアルバノスは言った。

「シュッツヘル…聞いたことがある」カトリーネはシュッツヘルという言葉を聞くと、顔を曇らせ静かに言った。

「母が、シュッツヘルと言っているのを何回か聞いたわ。その時はなんの事だかさっぱりだったけど」

アルバノスはカトリーネが下げている首飾りを見ると、少しだけ目を見開いた。

「母親とは、リズ・バンシュタインのことか?」

私とカトリーネはその名を聞くなり、勢いよく言葉を発した。

「知ってるのか!?」

「母を知ってるの!?」


アルバノスはその場に座り込むと、私たちを見上げた。

「知っているとも。彼女はよき友であり、仲間だった」

驚きに満ちた私たちの顔をじっと眺めるアルバノス。


「どうやら…お前たちには話すべきことが多いようだ」

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