第23話 しゅらば

「真希...、ごめん」


俺は頭を下げ、詫びた。


「踏み躙られら私の気持ち...

わかってんの...?」


彼女の目は澱んでいた。


何故こうなったのか。理由は単純明快。

1枚の写真だった。


俺と博士が恋人の様に抱擁する写真。


出処が気になったが、それどころではない。俺がここで泥を被らなければ、博士にまた辛い思いをさせてしまう。

それは嫌だった。


「もう...、

この際だからハッキリ言う。俺は...」




「ユイト...?」


声のした方を見ると、立っていたのは

博士だった。


場が凍てついた。


オレンジ色の太陽の光が差し込む教室。

そして、沈黙。


自身の鼓動が鮮明に聞こえた。


この中学1年、13歳にして修羅場を迎えるとは、思ってもいなかった。




(ただ単に忘れ物を取りに来ただけなのに...、まずい状況に足を踏み入れましたね...)



「アンタも来なさいよ」


京ヶ瀬に言われ、ドキッとする。

背後から首筋に氷を当てられたみたいだ。


「...」


「来なさいよ」


彼女の声が響く。

逃れられないブラックホールに捕まってしまった。


(ここは...、長らしく腹を括るのです)


ゆっくりと2人に近付いた。


「それで?結人。

この際はっきり何を言うの?」


「あっ...、えっと...」


言葉が出てこない。

言っていいのか悪いのか。


「...答えないなら、こっちが聞くから。まず第一に、どっちが先にやり始めた事なの」


写真を印籠の様に掲げる。


博士が気賀と打ち合わせして撮った工作写真だ。


「...俺だ」


「わ、私です」


何をしているんだ。

両方同時に答えてしまった。


「...第二に、博士は誰かと付き合ってなかった?」


直前の質問を無視し、尋ねた。


「あ...、あれは...」


(何を怖気付いてるのですか...!

私は...、苦しい思いをした...

それを断ち切る為に...!)


「あれは...、2人を別れさせる為の偽装工作です...」


真希の目つきが冷ややかな物に変わる。


「全て...、演技だったのです。

その写真も...」


彼女は沈黙していた。


「自分から平気だと言って、平気じゃありませんでした...。私だって最初は、上手くいくって...。だけど、2人を見てると...、気持ち的に...」


博士が弁明しているのを見て、俺は耐えきれなくなった。


「俺も、真希を騙すような事して悪かった…。本当に、ごめんなさい」


頭を下げた。


「アンタ達」


舌打ちのような音が微かに聞こえた。


「...最低よ。最低最低最低最低!

ほんっ...とに最低!!」


怒りと悲しみが同時に込上がっていた。


「史上最悪だわ...」


「本当に申し訳ないと思ってる...。

殴るなら...俺を殴れ!」


「殴る...?

そんな事する訳ないじゃない」


「え...」


その声は涙声だった。


「2人でキスでもしてたら!?」


彼女は逃げるが如く乱暴な足音を立てながら立ち去って行った。


俺と博士は唖然とするしか無かった。


やっとスッキリしたと思ったのに、また大きな罪悪感がのしかかった。

それは、博士も同じだろう。


ただ、俺も俺だ。

どちらかを、泣かせなければいけない

そんな状況だった。


家に帰っても、本当にこれで良かったのかと言った疑問が拭えなかった。



「ユイト...、私たちは、アレで良かったんですかね」


「他に道が考えられなかった」


俺は天井を見つめて言った。


「博士は悪くない。

博士は真希を思ってのことだったんだろ?仕方ないよ...。もう、終わったんだ。過去のことに口出ししても、

何も変わらない。川を流れて行くしかないんだよ」


「誰かを愛するってこういうことなのですね。...助手の気持ちがわかりました。これから、どうするべきか...」


「パークに戻った時...」


「こうならないように、次からは、

正直に話します。助手なら、真剣に話せば...、わかってくれますよ」


「なあ、博士。話があるんだ」


「...なんですか」


「一つだけ...、いいか?」


黙って、頷いた。






もうすぐ、文化祭の日が近付いている。

博士にとっても、俺にとっても。

重要な日になる。

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