第3話 ようこそ
助手、今頃どうしていますか...?
私は奇妙な縁で“川宮結人”というヒトの家にやって来たのですが...
かばんと違い少し変わったヒトで、
少々考え方に相違があったりと、戸惑うこともあります。しかし、彼は私を気遣ってくれる、優しいヒトです。
しばらくは帰れる方法がわかるまで、
彼の家に居候することにします。
助手、とにかく私は無事ですので、安心してください。きついこと言って、ごめんなのです。
心の中で、その声が届く様にと願った。
一方の結人は自身のベッドを博士に譲り、自分はリビングのソファーで寝ていた。
夜行性の博士は眠くなかったが、布団が思ったよりふわふわだったので、眠たくなってきた。
(こんなのに毎日寝ているのですか...
羨ましいのです...)
なんて、思ってると自然に目が閉じた。
「やっほー、博士!」
どこかから声が聞こえた。
聞き覚えの無い声だ。
姿は見えない。
「私があんたの願いを叶えてやったんだ。流星の降る頃にお願いしたからね」
こちらから尋ねることができない。
一方的に聞かざる負えない。
「あんな願いをする奴は初めてだったから、私気に入っちゃった。だから、
今回は特別大サービス!」
この声の主は何をするつもりなんだろう。
「フレンズの能力を失くす代わりに、
アンタを“ヒト”にしてあげる!」
ええっ?
「ふふっ、目覚めたらあんたがどんな顔するか、楽しみ!
あー、もしジャパリパークへ戻りたかったら、こっちの世界で緑の光を放つ流星が流れるから、そん時まで待っててね」
本当にこの主は何をしたいのだろうか?
「ふふふっ、願い事を叶えることにハマった星の精霊とでも言っておこうかな〜?単なる暇つぶしだよ。
暇 つ ぶ し 」
出来れば早く帰って助手に会いたい...
「とか言ってるけど、アンタ、あの
人間のことちょっと気になってんじゃない?」
ぐうの音も出なかった。
気になっていないと言えばウソになるかもしれない。
「まあ人間の世界を楽しみな〜」
一方的に話を進められた挙句、勝手に人間の姿になるなんて、信じられない。
やめてほしい。
しかし、私の願いは届かない。
姿も見えなければ、意見できないのだから。
「きゃっ!?」
鋭い刃物のような波形の声が聞こえて、
目が覚めた。
薄目を開けると、結人の母が驚いた顔を
している。
「ちょっと!結人来なさい!」
慌てた様子で結人を呼んだ。
何がどうなってるのか全くわからない。
結人が眠そうに目を擦りながら、部屋に来た。
「どうしたんだよ、母さん...
今朝5時じゃん...」
「あの子は誰なの?」
「えっ?」
思わず博士と母の顔を2度見した。
「えっ、アレが見えるの?」
「見えるも何も、白い服着た女の子が
寝てるじゃない!」
「ええええっ!?」
早朝に大きな声を出してしまった。
近所迷惑だ。
「何なのです...」
その声で私も意識がハッキリしてきた。
「...ん?」
起き上がった姿を見て違和を感じた。
「ちょっと、いいかな?」
結人は手招きして、博士を呼びつけた。
洗面所に向った。
水で顔を洗ってから、鏡を見た。
頭が何かスッキリしたような感じがする。ああ、そうか。羽が無いんだ。
・・・羽が無い?
「ええええええっ!?」
こっちも大きな声を出した。
「どういうことなんだよ!?」
結人の声で脳裏にあの夢の内容がフラッシュバックした。
「たしか...、ヒトにさせると...
言っていたのです...」
「はぁ?」
そういえば尻尾もない。
完全に“ヒト”になってしまった。
ジャパリパークから別の世界に来た挙句、ヒトになるとは、まさに泣きっ面に蜂である。
その後、私も含め、結人とその両親とで
家族会議が朝っぱらから始まった。
休日という事で議論は1時間にも及んだ。
1番の問題はフィクションの世界から
博士は来たということ。
これを説明し、納得してもらうまで20分は掛かった。
「とにかく、朝飯を食べてない」
父親の一言で議論は中断された。
いきなり得体の知れないヤツにヒトに変えられて憤りを感じてましたが...
ヒトの作った料理を食べられるのは
とても良かったのです。
「なあ、意外と食欲旺盛なんだな...」
父はテーブルから身を乗り出し、俺に耳打ちした。
「ああ、小柄なのに胃袋はブラックホールだ」
「何か言いましたか?」
口を咀嚼させながら、右の結人の方を向いた。
「いや...」
都合の悪い事から逃げる様に、
味噌汁を啜った。
「おかわりをよこすのです」
置いた茶碗に結人が手を伸ばした。
「俺が持ってくるよ...」
(食事すると、何かスイッチが切り替わるんだな…)
立ち上がり、キッチンへ向かった。
「結人のお母さんは料理が上手いですね
こんなに美味しいものを毎日食べれるなんて、結人が羨ましいのです」
「あ、あぁ、そう?」
苦笑いしながら、そう言った。
食事が終わると会議が再開された。
先程よりはある程度落ち着いている。
「戻ることは出来るのかい?」
父が尋ねた。
「緑の光を放つ流星が降る頃願えば戻してやると...、胡散臭い話ではありますがね」
その話を横で聞いていた結人には、
それについて知っていそうな人物に心当たりがあった。
(流星か...。星に詳しい奴がいたな…
あの人に聞いてみるか...)
「という事はしばらくの間家にいるってことね」
母は投げやりな感じで言う。
「まあ...、事情が事情だ。真実は小説より奇なりって言うだろ?
それで...、コノハちゃん。
まだ自己紹介してなかったね。
川宮実(みのる)だ。よろしく。父さんって言ってくれて構わないからな」
父さんは仕事柄、誰に対してもすぐに打ち解けられる。俺も少しは見習いたい。
「えっと...、私は川宮紗香(さやか)
よろしくね」
初々しい感じの母さんだが、実を言と30後半だ。年齢家族であっても教えたくないらしい。
潔癖症で散らかしているとすぐ怒る。
そのせいで家はいつも綺麗で、髪の毛1本も落ちてない。母は調理師を目指していたので、その腕前はピカイチだ。
現在は調理師専門学校の講師をしている。
「これからお世話になるのです...
お父さん、お母さん」
改まった口調で挨拶した。
一応礼儀は知っていて良かった。
向こうじゃお前だの命令口調で、少し小皇帝みたいな印象が強かったけど...
(そういえば、小さい頃、弟が欲しいって思ってたっけ...)
博士の横顔を見て、そんなことを思い出す。
幼稚園の頃の友達はみんな兄弟がいた。それを羨ましく思っていたのだ。
“まるで、妹が出来たみたい”よくあるセリフを引用すると今の気持ちはそうなる。
「結人、こっちの事色々教えるんだぞ」
「ああ...、うん...」
父さんにそう言われた。
確かに監督責任は俺にある。
ちゃんと面倒見なきゃな…
「あっ、そうだわ。コノハちゃん、後でゆうくんに私の部屋に連れて来て貰って」
「ん?何すんの?」
すると母さんは、わざわざ立ち上がり俺の耳元で、
「コノハちゃんも女の子なんだから、お洒落ぐらいしないとダメでしょ?」
と小さく言った。
「はいはい...」
「じゃあ、改めてお願いしますね。
結人。私に色々教えるのです」
やはり根はそんな変わってなかった。
俺は本物と出会えて嬉しい反面、
面倒の種を持ち込んでしまったと若干後悔していた。
その頃パークでは...
「...ということなのです」
助手はかばんとサーバルに博士が居なくなってしまった旨を伝えた。
「このパークは広いですからね...
ただ闇雲に探すだけじゃ無理でしょう。心当たりのある場所や他のフレンズさんに聞き込みをしながら、探りましょう。助手さんはここで待っていてください」
「わかりました...」
「さ!行こ行こ!かばんちゃん!」
「うん」
(あの二人なら...、大丈夫でしょうか?
博士...、早く戻って来てください...)
二人の後ろ姿を眺めながらそう願った。
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