第2話 おふろ

よくよく結人の話を聞くと、私はどうやら、“アニメ”の中の

存在だという事です。そのアニメをよく知っていたから、

私の事を一発でわかったのだとか。


だから何と言った感じなんですが・・・。


その後、私は結人に、ここに来るまでの話をしました。


「突然ねぇ・・・」


結人は困ったように髪をかき上げた。


「助手に謝りたいのです...。今頃どうしているのか...」


「気持ちはわかるよ。けど、元に戻る手段がわからないしさ...」


「というと、暫くここにいる事になるのですかね」


「そういう事に・・・、あっ」


突拍子も無く、声を上げた。


「どうしたのですか?」


「よくよく考えたら、博士は動物なんだよな」


腕を組んで、気難しそうにした。


「それが・・・、何か問題でも?」


「親だよ。俺の両親

さっき、冷たくあしらわれたって言ってたよな?」


「ああ、声を掛けたら、無視されて・・・」


「もしかしたら、他の人には野生の姿に見えるんじゃないのか?」


私も腕を組んで考えたら、そうかもしれないと思った。


「フレンズの姿は結人だけに見えて、それ以外は野生の姿に見える・・・?」


「わかんないけど・・・。

このマンション事体はペットは大丈夫だけど、

母さんが生き物系苦手っていうか・・・

ちょっと、協力してくれないかな」


「ええ、まあ、カレーもご馳走になりましたし、大丈夫ですよ...」


数十分後、母が帰宅した。


「ただいま」


「おかえり、母さん。あのちょっと話があるんだけど・・・」


「なに?」


買い物袋をキッチンに置く。


「帰り道にさ、ちょっと動物を拾ったんだよね...」


「えっ?」


カウンター越しに、難しそうな顔を向ける。


「何ていうか・・・、その、大人しい鳥なんだけど

弱ってそうだったから・・・」


「今どこにいるの?」


「俺の部屋だよ」


扉を開けて来たのは結人の母親だった。

大人しく、ベッドの上に座ってろと言われていた。

そして、気怠そうな雰囲気を出せと。


賢いのでそれくらいの演技は得意なのです。


「母さん?」


絶句しているようだった。


「ちょっと、鳥なんてどうするのよ!?

何考えてるかわからないじゃない...!

勝手に動き回られて汚されたらどうすんの?」


「いや、そこらへんは俺が何とかするからさ、

ちょっとの間だけだって!」

(母さんは潔癖症だからなぁ...、何とか言いくるめられれば...)


「あんなもの獣医か保健所に預けた方がいいわよ。

野生なんでしょ?病原菌を持ってるかもしれないじゃない」


確かに母のいう事は一理ある。

しかし、目の前に居るのは、アニメのキャラクター。

だが、母の目に居るのは野生のオオコノハズクだ。


「そうだけど、そのレベルじゃないって!」


「あなた獣医じゃないでしょ?」


「・・・」


「取りあえずあの鳥は逃がすか、獣医に連れて行くとかなんとかさせなさい」


「ちょっと待って。じゃあ、父さんに話させてよ。ね?」


すると、腕を組み、ハァと思い溜め息を吐いた。


「わかった。お父さんと一緒に話し合いましょう」


母はそう言って、キッチンへと戻った。

額には冷や汗が出ていた。


私はタイミングを見計らい、声を掛ける。


「・・・大丈夫ですか?」


「まぁ、取り敢えずはって所。」


結人は私の隣に腰を下ろした。


「・・・なんか、申し訳ないのです」


「いやいや、そっちが気にする話じゃないって...。

余計な事かもしれないけど、こっちで頼れるのは俺ぐらいしかいないかもしれないし...、

変な所には行けさせない。ハカセの事は俺が守るよ...」


彼の最後の一言が、なぜか私の心を強く掻き乱しました。

生まれて初めての...。何と言ったらよいのか、

賢い私でも、的確な形容が出来ませんでした。

逆に、私は性格の方が強く出てしまいました。


「ま、まぁ、私は賢いですから...

自分の身くらい自分で守れますけど...」


「ははっ...」


彼は何故か苦笑いをした。


「な、何ですか、その、小馬鹿にしたような笑いは...」


「馬鹿にはしてないよ。ただまんまの博士だなーって思って」


「やっぱり何か馬鹿にされてる気がするですっ!」


「してないって!」



そんな話をしている間に、夜になり、父親が戻って来た。

俺は先程母にした同様の説明を父にもした。


母は勿論、獣医か何処かにやるべきだと言った。


父は冷静な性格だ。


「まずは、その動物を見せろ」


俺は、再度部屋に戻り、父に博士を見せた。



「フクロウか?」


「アフリカオオコノハズクっていう種類の鳥」


内心ドキドキしながら父の対応を待つ。


「わかった」


父はそう短く言うと、リビングに戻った。


閉じられた扉を見て、博士は重いため息を吐いた。


「ハァー・・・、他人に見られるというのは緊張するのです・・・」




ガチャッ


結人が部屋に入って来た。


「博士、良い知らせと悪い知らせがあるんだけど・・・」


口を開くなり唐突に二者択一を申し出て来た。


「良い知らせと言うのは・・・」


「ここで住めるよ」


少し、肩の荷が降りた。


「それで、悪い知らせは何なのですか?」


「父さんたちには博士は普通の鳥に見えてる。

普通の鳥に。人間の世界の食べ物は食べれない事になる

でもまぁ、俺が何とかするから、対して悪い知らせじゃない」


「焦らさずに教えるです...」


「父さんに、あの鳥を洗って来いって言われた」


「はぁ?」


意味がわからなかった。


「つまり・・・」


結人からその意味を聞かされた。


「・・・ということなんだ」


「つまり、風呂に入れという事ですか」


「・・・うん」


「それの何処が問題なのです?私は賢いの一人で出来ますよ」


「いや...、その...、シャワーとかできるのかなって」


「やり方を先に教えればいいじゃないですか」


「ああ!ああ、その手があったか。ああ、なるほどね・・・」


私はこの時ふと思ったのです。

怪しむ目をして、尋ねました。


「・・・何でそれが悪い知らせなのですか?」


「いや、だって...、博士...、い、一応...

女子だしさ...、し、知らなかったら、責任者俺...、あー、男子だから...

その、モラル的な問題で...」


なんとも馬鹿馬鹿しいコトで、思い悩んでいた。


「私ぐらいそれぐらい知ってますよ・・・。賢いですから

けど、よく考えてみてください。元は動物なのですよ?

それの何処に魅力があるのか・・・」


「いや、俺にはフレンズの姿で見えるから問題なんだろ?」


「本当に問題なのですか」


「わからないかもしれないけど、ここでは問題だよ」


「取り敢えず、風呂場に連れて行くのです」


久しぶりに命令口調でしゃべった気がする。

これこそ、自分らしい語り口だ。


「わかったよ。そこで考えよう」


「だから言ったじゃないですか!そのやり方さえ教えればいいって」


「じゃあさっきの質問は何なんだよ・・・」


「それは、そんな事気にするに値しないと言いたかったのです

私の裸を見て恥ずかしがるなんて、あほらしいと」


「アホらしいって、何だよ...、どうしてほしいんだよ」


「“普通の鳥”として接すればいいじゃないですか

親には普通の鳥に見えるんでしょう?」


「だから、俺にはフレンズに見えるから・・・」


しょーも無いような口論は外にも漏れて聞こえていた。






「あの子大丈夫かしら...?さっきから独り言みたいなのが聞こえるけど・・・」


「気のせいだろ・・・」


心配している母を他所に、父は缶ビールを飲んだ。






「何をもたついているのですか!早く入るのです!」


「何で入る必要があるんだよ!教えたじゃないか、やり方は!」


「私は“普通の鳥”ですっ!」


「喋ってる時点で普通じゃねえよ!」


変なプライドのせいで言い争いになっていた。


(私は普通に接してほしいだけなのです・・・)


(あの島には、女子しかいないから、そんなに抵抗感ないんだろうけど...

いや、家の中であっても色んな意味でマズイだろ・・・)


(仕方ないのです...、こうなったら...)


「頼みます...、やっぱり一人は...、少し怖いのです...」


「・・・」


きっとジャパリパークは女子しかいないから、

あまり恥ずかしさとか無いのかもしれない。


俺は直視しない様に慎重に湯船に入った。


「こ、これっきりだかんな・・・」


「皆同じ様に扱うのが島の掟なのです」


(いや...、しかし可笑しな状況だ。

鳥と一緒に風呂に入るなんてな・・・

鳥だけに鳩胸とかいうけど意外と無いんだな・・・)


「・・・って、ああああっ!!!!」


慌てて風呂場から出た。


「・・・やっぱり変なヤツなのです...」



(いやいやいや!!今のはアウトだろ...、アニメに対しての夢が壊れる!

落ち着け...、落ち着け...。今のは錯覚だ...、もう寝よ...)



「寝る時は俺のベッド使っていいから!」


そう言い残した。

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