第4話 なまえ
「あー・・・、だりいなぁ・・・。明日学校かよ・・・」
ベッドに横たわりながら嫌々に言った。
「学校・・・!」
これも本で読んだことがあるのです。
ヒトは学校という所に行って勉強をすると・・・
知識を得る為には、もってこい・・・!
「ユイト!私も学校に行きたいのです!」
「はぁ!?」
そう言うと無理矢理布団を剥がされた様に飛び起きる。
「ヒトは学校に行って沢山勉強するんですよね。
長たるもの、知識を身に着けるのは当たり前のことなのです。
ここの世界の学校なら、図書館よりもっと知識を得られるのです」
「学校なんて楽しくないよ...。そう思うのは幻想だって・・・」
つまらなそうに言った。
「ユイトがそう思ってるだけじゃないですか」
回転する椅子の背もたれの上に両腕を置いて結人の方を向いた。
「つか、学校行っても、中学校だし・・・、
漢字とか計算とか、わからなく・・・、ない?」
「確かに、それは言えてるのです。
かばんにはそれほど教わりませんでしたから。
でも、知らなければ学べばいいのです、そうでしょう?」
「た、確かに・・・、そうだけど・・・
でも、中学校に行くの?」
「ユイトと一緒がいいのです」
「・・・」
(確かに、知り合いも居ないもんな・・・)
「本当に行きたいの?」
「行きたいのです」
(父さんに相談してみるか・・・)
俺の学校は中高一貫で少し変わっている。
そう簡単に出来るかどうか・・・
「いつ学校へ行ってもいいように、勉強するのです!」
勉強するのは良いんだけど・・・
俺の父さん、川宮実(かわみやみのる)は、
市職員から市議会議員になった。そこそこ名は通っている。
そのお陰で俺は今の学校に入れた。
夕食後、俺は父さんに要件を伝えた。
「・・・なるほどな」
「本人はやる気みたいなんだけど」
目を何度か擦った。
「ま、彼女もお前と同じ位に見えるしな。
人としてやってくなら、学校くらいは行く必要があるかもしれないな」
「いや、でも、流石の父さんでも・・・」
「まあ、手を打とうと思えば出来る」
「ウソっ!?」
俺は思わず声を上げてしまった。
「ははっ、大げさだな結人は。
市長の座を狙う人物のコネを甘く見てもらっちゃ困るな」
冗談めかしく、そう口にした。
その会話から、数週間が経った。
「ユイト!しょーがっこーで習う漢字と計算を覚えたのです!
どうです?ま、私は賢いですからね。当たり前のことですけど」
と、自慢してきた。
九九を言えるかと尋ねた所、スラスラと1の段から言い始めた。
時計の読み方、漢字の書き方...、全て完璧だった。
「すげえ・・・」
「私が元々賢いのもありますが、ユイトのお父さんが
教えてくれたのです。とても、わかりやすかったですよ」
(父さんが?)
結構忙しいのに、そんな時間あったのか?
そう思った。
「それで、来月から学校に行っても良いって言ってたのです!
楽しみなのです!てすと?っていうのするんですよね。
私の賢さがどの程あるのか、見るのが楽しみなのです」
楽しそうで良かったが、上手く馴染めるのか・・・
元は動物だし・・・、でも、俺と出会って結構経って、
色々教えてあげたし・・・。後は・・・
「そう言えば、名前はどうするの?
流石に、アフリカオオコノハズクの博士は・・・」
「名前?ああ、考えてませんでしたね
自分の名前・・・、何か思いつきますか?」
「えっ、俺?」
まさか、自分で名前を決める事を他人に委任するとは思ってなかった。
まあ、取りあえず言われたからには振り絞ってみるか。
(コノハは入れたいよな・・・)
ふと、ある事を思い出し、棚を探した。
「おっ、あったあった」
俺が取り出したのは、電車の“時刻表”
路線図のページを捲り、開いた。
「その本は何なのですか?図書館でも見たことないのです」
「ああ、ジャパリパークは電車走ってないからね。
時刻表って言って、全国の電車が何時に来るか全部書いてあるんだよ」
「それと、私のこの世界での名前がどう関係するのです?」
「まあまあ、少し待っててよ」
暫く結人は、路線図のページを見つめていた。
名前のヒントでもあるのか。
「こういうのはどうかな?」
結人は机からペンと紙を取り出し、スラスラと書いた。
それを、私に見せてくれた。
“水俣 木葉”
「みなまたこのは、って読むんだけど、どう?」
「ほう...」
それから結人は、理由を話し始めた。
「川宮だと、学校行った時に少し事情が込入って大変になるから、
変えるとして、人の世界じゃ下の名前を呼ぶから、コノハは下に持ってきた。
この水俣っていうのは、熊本県にある地名なんだけど、
木葉っていうのも同じ熊本県にあるんだ」
と、時刻表の路線図を見せて来た。
指でその場所を示した。
「それに、水俣って場所は山も海もあって綺麗な場所だし、熊本には火山もある。
おまけにキョウシュウのモデルになった九州だしね。苗字にはいいんじゃないかな」
「ユイトは・・・、凄い詳しいですね。意外なのです」
「意外って・・・、地理が好きなだけだよ」
苦笑いを浮かべた。
「博士にも時間あったら教えてあげるよ。
ところで、その名前はどうかな?」
「まあ、人の世界の事は良く知らないのですが...
パークに似た所がこの現実にもあるんですね。
そこの名前なら、長の名としても相応しいですね」
「納得って事で...、良い?」
「良いですよ。じゃあ、名前を書く練習をしないとですね」
(勉強熱心だなぁ・・・、俺も見習わないと・・・)
博士は机に向かって、俺の提案した名前を書いた紙を見ながら、
シャーペンを使い、父が勝ってきたノートに必死に書き写している。
母と一緒に買い物に行き、俺が選んだ薄着の水色のパジャマを着て、銀色の髪が
人間化した時の影響か、すこし肩に掛かっている。
前髪の黄色と黒っぽい所がフレンズだった時を彷彿とさせる。
(ハカセを受け入れてくれるかな・・・)
俺にはそんな不安があった。
自分は髪を一度も染めた事が無い。生まれながらにし、黒い髪。
寝癖が付きやすい髪質だけど、特に気にせず学校に行ってしまう。
いやいや、自分の髪はどうでもいい。
ただ、彼女はアニメのキャラクターだから、少し周りと違う。
だから、イジメ的な物を危惧していた。
(まあ、俺のクラスはそんなことするような人はいないし・・・
考えすぎかな・・・)
軽く息を吐いた。
(ヒトの中身は割ってみないとわからないからな・・・
進学したばっかでまだ6月の上旬・・・。
俺はもう慣れたけど...)
もし、彼女に何かあったら。
(俺が守ってやらないとな・・・)
少し自分の感情に違和を感じた。
(・・・・、な、何だ。
責任持つのは当たり前のことじゃん・・・
俺が見つけたんだし・・・。)
「・・・ユイト?」
博士の声でハッと我に返った。
「顔が赤いのです...、寝不足なんじゃないですか...?」
「えっ!?あっ、いや・・・、わかんねえ、ちょっと顔洗って来る!」
そう言って、部屋を飛び出した。
(そう言えば私が来てから結人は、ずっとリビングで寝てるのです・・・。
・・・あのベッドは寝心地がいいですからね。
そうです、一緒に寝ればいいじゃないですか。美味しい物は分け合え、
そうすれば良いのです!でも・・・、結人は何故かすぐに部屋を出ちゃうんですよね・・・)
「反感を買うかもしれませんけど・・・、ユイトのためなのです」
顔を洗って戻ってくると、博士はベッドに座っていた。
「もう寝る?」
そう尋ねると、いきなり立ち上がった。
改めて見ると、俺より身長は下だ。
確か、俺は166センチくらいだ。
パッと見、158、7くらいか?
いや、なんで身長を測ってるんだよ。
と、心中でセルフ突っ込みを入れる。
すると、いきなり腕を掴まれた。
「えっ?」
黙ったまま、ゆっくりとベッドの方へと引っ張る。
まるで月が地球の衛星になる時みたいだ。
「な、なに?」
「今日は一緒に寝るのです」
「は?」
「・・・、私が来てからユイトは大変そうなのです。
それは、ゆっくり休めてないからだと思うのです。
だから、このベッドを分け合って使うのです」
「いや、別にそんな気を使わなくても・・・」
「私は長ですよ。命令に従うのです」
「ええっ...」
俺が躊躇ってると、博士は本音とも取れる言葉を口にした。
「...ハァ
ユイトは私がこの世界で初めて会ったヒトなのです...。だから、
サーバルたちの様に、私と助手の様に...、親友になりたいのです。
友達を気遣うのは当たり前のことなのです。私のせいでどこかを
悪くしては、元も子もありません...」
「・・・わかったよ」
彼女の気持ちを分かってやることも・・・、大切なことかもしれない。
少し安心した表情を見て、こちらも安心した。
“フレンズ”としてなら、やっていける。
元が鳥だった為か、暖かかった。
本当に、ただの親友だからな...?
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