127

 シュテファンお手製のタルトを美味しく食べた後、何だかんだで居座ったままのヴェルナーも含めて雑談をしているワタシたちです。……いや、食べてすぐ動くのはね、お腹に良くないよね。休憩も大事。

 ヴェルナーは随分とへき易しているらしく、綺麗な顔をしかめっ面にしている。止めてほしい。自分の顔面偏差値を理解してほしいものだ。イケメンの不愉快そうな顔は圧がすごいんだもん。特に綺麗系は余計に。

 それにしても、何でこんなことになってるんだろうなぁ。というか、何かが引っかかったんだけど。とりあえず、タルト食べるのを優先して考えるのを放置してたけども。

 何の前触れもなくいきなりモテ期になるなんて、どういうことだろうか。普段からそれなりにモテてるのは知ってるけど、いきなりそれが爆発するのは変な感じだ。ヴェルナーも理由がわからないから苛立ってるんだろう。わかってたら対処できるもんね。

 そういえば、何か似たような状況を知ってる気がするなぁ。いきなりのモテ期にイライラするヴェルナー。物凄く既視感がある。さっきはタルトの誘惑に負けて考えるのを放置したけど、ちょっと考えてみようか。


「それにしても、いきなり言い寄る相手が増えるというのも妙な話だな」

「妙どころじゃない。やってられるか」

「その本性を知れば離れていくと思うが」

「やかましい」


 ……皇帝陛下に対してやかましいって言える神父様ってのもアレだよね。公式の場ではそれなりの対応をするんだろうけど、プライベートだと完全にタメ口だもんなぁ、この男。

 え?お前が言うな?いえ、ワタシは悪友枠なので。でもヴェルナーは一応覇王様の部下なんですよ。部下。まぁ、アーダルベルトはそれが気楽で良いとか言い出すので、構わないんだろうけども。

 本性を出さないのはヴェルナーなりの処世術だから仕方ないよね。神父様という立場を考慮して、それに合わせて猫被りをしているだけだから。……まぁ、その猫がこう、特大というか、何十匹被ってんの?みたいな感じだけども。

 とりあえず、その猫被り上等な神父様の異常なモテ期。記憶を探って、ふっと思い出した事象が一つ。


「……あ、ラウラだ」


 ポツリと呟いたら、すごい勢いで視線が飛んできた。やだ、聞こえてたの。流石ウサギ。耳が良い。でもとりあえず真顔は止めてほしい。


「あのババアがどうした」

「……えーっと、きっかけの、一つ?」

「…………ほぉ?」


 えへ?と可愛く笑って誤魔化すみたいに言ってみたけど、ご機嫌ナナメな腹黒眼鏡には通用しませんでした。圧がすごい。待って、ちょっと落ち着いてほしい。

 そもそも、きっかけの一つではあるけれど、元凶ではない。そこは声を大にして言いたい。確かにいつもいつもアレコレやらかす困った外見幼女ロリババアだけども、今回はあいつは悪くないです!

 胡乱げな顔で見てくる皆に、ワタシは必死にそれだけは訴えておいた。濡れ衣よくない。……いやまぁ、普段の言動がアレだから、こういうときに疑われるんだろうけども。


「ラウラはただ、本気ならきちんとアピールしたらどうかって言っただけ。それをきっかけに女子たちが動いたのと、同時にあの、何か変な術……?みたいなのが絡んでるとかそういうの」

「ミュー、変な術とはどういうことだ」

「えーっと、好意を増幅するとか、歯止めをなくすとか、何かそういう感じの……」


 ざっくりとしか説明できないのは許してほしい。ちゃんとした名称は知らないし、そもそもサブイベント内でもきちんとその辺の細かい説明はなかったんだもん。

 そう、コレ、サブイベントだった。おちゃらけ系というか、わちゃわちゃして大騒ぎするだけで終わる感じのサブイベント。危ないことも真面目な話もなかったもんだから、割とさくっと各所を巡って会話イベントをこなすだけで終わるやつ。

 そういうさっくりしたサブイベントだったから、あまり印象に残っていなかったのだ。普段飄々としているヴェルナーが、やたらと振り回されているのが面白いねって感じのやつ。丁度今の状況ですね。いや、経験したくはなかったな。

 だって、目の前でめっちゃ不機嫌そうな顔をしているヴェルナーの圧が、すごい。止めて。ワタシが元凶ではない。ラウラも元凶ではない。何かこう、不幸な事故が重なって色々とアレコレ起きただけだと思うの。多分誰も悪くない。

 ちなみに、イベントの概要はこんな感じ。

 元々ヴェルナーは猫被りの甲斐あってか、女性人気がとても高い。顔面良し、能力良し、家柄良し(これは実際は養子だけど、表向きは名家の末子だし)で、オマケに猫被りのおかげで性格も良いと思われてる。つまりは超絶優良物件なのだ。

 そんなわけで彼は万年モテ期。当人は全然興味がないので紳士的に対応してスルーしてるんだけども、それが追いつかないぐらいに女子たちがぐいぐい来るようになっちゃうのがこのイベントだ。我先にとヴェルナーにアタックをしてくる女子たちをかいくぐり、何でこんな騒動が起きているのかを調べるという話。

 ラウラはマジで世間話をしただけなので、きっかけの一つになってしまっただけの不幸な事故だ。あいつは悪くない。今回は。

 そんでもって、謎の術に関しても別に誰も悪くなかった。教会所属の皆様の大半は、お人好しだ。善良だ。そんな彼らは、教会に来た人々が悪感情を癒やされて健やかに過ごせれば良いと術を発動させた。

 その術自体は特に大きなものじゃない。こう、心が穏やかになるとか、そういうやつ。ところがどっこいそこに、恋する乙女たちのおまじないとか祈りとか何か色んなもんがぐちゃっと混ざった。らしい。タイミングが悪かったやつ。

 そんでもってその結果、何かヴェルナーへの好意を増幅させられた挙げ句にブレーキの外れた女子が増えた。増えた結果、ぐいぐいとアタックしてくるようになってしまったという、何かそういうの。

 ……何ですが、コレ、説明すんのすごく面倒だな……?だって、ヴェルナーのことだから、術を発動させた面々含めて全部にお礼参りしそうなんだもん。いや、猫被りなので正面切っては何もしないだろうけども。

 いやでも、説明しないとワタシは解放されないんだな……。ヴェルナーの視線がとても痛い。ざっくりの説明で理解してくれることを祈ろう……。


「えっとね、まず、ラウラは悪くない。単純に、世間話の一つで、本気ならわかるようにアプローチした方が良いんじゃないかって言っただけ」

「……」

「で、女子たちは女子たちでやる気を出して、お祈りとかおまじないとかそういう感じで一生懸命だったの」

「……」

「そこに加えて、ほら、教会で気分を落ち着ける術みたいなの使ったりするじゃん?その辺が混ざって妙な変化を起こして今の状況になってるような感じ」

「……あぁ゛?」

「ワタシに怒らないで!!」


 ちゃんと説明したのに、すごい顔で睨まれた。ドスの利いた声を出さないでほしい。ワタシは悪くない!ワタシは何一つ悪くないんだ!!

 ワタシは無実だ!と必死に訴えると、一応そこのところは理解してくれたのか、ひとまず殺気は減った。あくまで減った、である。消えてくれなかった。ヒドい。


「仮にそうだとして、解決策はあるんだろうな?」

「解決策っていうか、ぐちゃった術の核?みたいになってる人がいるから、その人にかかってる術をラウラに解除してもらったらどうにかなる、筈……?」

「おい陛下!あのババアをすぐに呼べ!」

「……ライナー、使いを出せ」

「承知しました」


 流れるように覇王様をこき使うヴェルナー。お前それでえぇんか?なぁ、一応皇帝陛下にお仕えする立場ちゃうの?あ、今、旅の仲間モードだからか。そしてアーダルベルトもそれを察したから文句言うの止めたのか。

 でも、自分がラウラを迎えに行かないってあたり、あの外見幼女ロリババアの性格分かってるよなぁ……。普段特に近寄りもしないヴェルナーが行った瞬間、何か面白いことが起こったと察しておちょくるだろうから。何かそういうところあるんだよね。長命種ゆえに退屈を持て余すんだろうか。傍迷惑。

 まぁ、アーダルベルトの使いが向かったなら、興味を引かれて大人しくやってくるだろう。多分。アレで一応皇帝陛下の言うことは聞くっぽいから。一応だけど。気に入らなかったらスルーするらしいけど。

 それが許されちゃうのが、元パーティーメンバーの強みだよなぁ……。覇王様至上主義のエーレンフリートが、旅の仲間の皆様の多少のじゃれ合いや失礼は見逃すんだもんな。ワタシの失礼は見逃してくれないのにな!ヒドいや!

 ちなみに、ライナーさんに何でワタシは見逃してもらえないのか、彼らは見逃されるのかと愚痴ったら、爽やかな笑顔で「彼らには陛下を守りお支えしたという実績がありますので」って言われたんだよね。そうね!ワタシ守られてばっかりのただの無駄飯喰らいだもんね!ちくせう!

 まぁでも、とりあえずこれで何か片付くんじゃないかな。頑張れー。


「小娘」

「……はい?」

「最後まできちんと付き合えよ」

「……了解であります」


 後のことはそっちで頑張ってね☆ってやろうとしたら、逃がしてもらえなかったワタシである。圧がすごい。止めてくれ。何でそんなに怖いんだ。ラウラ来たら術の解除してもらえば良いだけじゃん。ワタシ関係ない。


「詳細を把握しているのは貴様だけだろうが。付き合え」

「……あぅー……」


 不機嫌な腹黒眼鏡と一緒に行動なんてしたくないのにぃ。助けを求めてアーダルベルトを見たら、ひらひらと手を振られた。おのれ!行ってこいオーラ出してんじゃねぇわ!


「仕方ないだろう。俺は政務があるんだ」

「待って。政務がなかったら付いてくる気だったの?」

「うん?」


 楽しげに首を傾げる覇王様。アカン。こいつ、マジで仕事の手が空いてたらこっちに合流してサブイベント観覧する気満々だった。お前が出てきたら大事になるんだよ、おバカ!

 それに関しては同意だったのか、ワタシの隣でヴェルナーが偉そうに言い放った。


「陛下が来ると周りが騒いで邪魔だから大人しく仕事してろ」


 その言い方もどうかと思うんですよ、腹黒眼鏡。言いたいことは分かるけども。

 そんな風に思ったワタシの目の前で、元パーティーメンバーの二人は何やかんやと軽口の応酬を続けているのでありました。旅の仲間はやっぱり仲良しなんだなぁ。




 ……とりあえず、早く解放されたいのでラウラとっとと来て。サブイベント終わらせないとこの男の不機嫌収まりそうにないから……。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る