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 皆様こんにちは。新年明けましておめでとうございます。実に素晴らしい快晴で初日の出が拝めたりした、とても素晴らしい年の始まりです。

 ……ですが、ワタシにとっては地獄の宴再びでしかない……!何で……!何でワタシは、今年も覇王様と一緒に入場という、どう考えても目立つイベントへの参加が強制されているのですか!

 いーやーだー!お腹痛い、お腹痛い、お腹痛い。胃痛が痛い。何コレ、お腹がキリキリ痛いんですけど……!ストレスマッハぁあああああ!


「ミュー、ジタバタするな。衣装が乱れるぞ」

「やかましいわ!お前は何で毎度毎度ワタシを巻き込もうとするんだよ!一人で入場しろよ……!」

「……?」

「何でそこで『お前は何を意味のわからないことを言っているんだ?』っていう顔になるんだよ!その反応はワタシがするべきなんだよ!」


 相変わらず話が通じないな、この男わ!どうしてワタシは目立つ状態に強制連行なんですか。くそう!

 しかも、去年はうっかりスルーしてましたけど、今目の前にある扉、皇族の皆さんが入場するときに使う扉らしいんですよね……!ついさっき、目の前でエレオノーラ嬢がとても素敵なドレス姿で拍手に迎えられて入場していったんですけど……!

 ガッデム!何で気づかなかった、去年のワタシ!覇王様が使う扉が普通の扉なわけがなかった!しかも今年も引き続きそこから入場とか、マジ勘弁してほしい!

 第一、今回のワタシの服装は、一応仮にもドレス……!シルエットでスカートに見えるというだけで実際はパンツスタイルなんだけども、そんなことはどうでも良い。問題は、客観的に見てワタシが赤色ドレスを身に纏っているように見えるということだ。その状態でアーダルベルトと並んで入場とか、色んな意味で頭が痛い。胃も痛い。キリキリする。辛い。


「何をうだうだ言っているんだ?」

「煩い!ワタシは美しき刺客ご令嬢たちの餌食になりたくねぇんだよ!」


 思いっきり他人事な覇王様に思わず怒鳴るワタシ。……あ、勿論扉の向こう側に聞こえないように、適度に音量は落としています。落としていますが、それはそれとして叫びたかったのは事実。むしろ叫ばないとか選択肢にない。ワタシを待ち受ける恐ろしい未来を思えば、これぐらい普通だ。

 そんなワタシに、アーダルベルトは何か得心がいったように笑った。まるで悪戯が成功した子供みたいな顔だ。……ヲイ悪友、何だその笑みは。


「安心しろ。今年は妙な奴らは湧いてこん」

「何でそんな風に言い切れるんだよ」

「問題ない。事前に女官長と宰相が対処している」

「……は?」

「当事者と家の両方に釘を刺してあるからな。お前は何も心配しなくとも良い」

「……はぁあああああ!?」


 さらりと言われた言葉に、思わずアホみたいに大口開けて叫んでしまった。いやでも、ワタシ悪くないですよね?叫ぶよね?驚くよね?それで普通だよね、ユリアーネちゃんんん!

 縋るように視線を向けたワタシに対して、仕事に忠実で優しくて頼りになる可愛い侍女ちゃんは、労るような眼差しで深々と頭を下げてくれた。だよね!?どう考えてもワタシの反応が普通だよね!?覇王様も周囲の人たちも平然としてるけど、違うよね!?

 何やってんだこの人たち……?過保護とかそういうレベルじゃないよね?むしろ、当事者に釘刺したはまだわかるけど、家に釘を刺したとは、これいかに……?え?聞きたくない。怖い。


「ん?お前は俺の参謀だ。それに無意味な敵意を向ける意味がわからないような愚かな家は、いらんだろう?」

「普通に怖いわ!」

「お前はもう少し自分の身の安全に気を配れ」

「そういう問題じゃないよ!どんだけ脅したの!?どう考えてもワタシの扱いが地雷原になるじゃん!」


 確かに不必要に殺意とか殺気とか向けられるのは嫌だし、色々と重たいものを背負わされるのも御免被る。ワタシは一般庶民として育った常識の中でしか生きていないのだ。

 でも、だからって、過剰防衛みたいになってるのはそれはそれで嫌なんですけど!やーだー!もうこれ絶対、触るな危険みたいな扱いじゃないですかー!ワタシの平和な日常を返せー!


「何を言っている。平和と平穏を確保するために、宰相も女官長も動いただけだろう」

「やることがいちいち大袈裟なんだよ!アンタも、オトンもオカンも!」


 もうやだ、過保護集団怖い……!っていうか、何でユリウスさんもツェツィーリアさんもワタシ相手にそんな過保護なんですか……!国宝級の魔導具を特注で作らせるとかまでしちゃうし、あの人たち本当にワタシに対して過保護すぎるだろ……!

 しょんぼりと肩を落としているワタシの頭を、アーダルベルトはぽんぽんと叩いた。こら、いつもみたいに叩くな。今日はちゃんとヘアセットしてあるんだから!

 ……そう、今日のワタシは頭のてっぺんから爪先まで、やる気に満ちあふれた侍女や女官のお姉様たちによって磨き上げられているのである。……頼んでないのに。

 髪の毛は艶出しのワックスみたいな感じのを塗った上で、三つ編みを複数作ってねじねじして編み込んだみたいなゆるふわアップスタイルになっている。目立つ髪飾りは付けていないけれど、キラキラ光るチェーンっぽいものが編み込まれている。最初はクソ目立つ赤い宝石のついた簪っぽいのとかバレッタっぽいのとか差し出されたんですけど、全力で拒否しました。赤いドレスだけでも派手なんだから、せめて地味に仕上げてほしい……!

 お化粧は拝み倒してあんまり派手にならないようにしてもらいました。何であの人たち、人の目元弄るのうきうきするん……?目の周り弄るの、苦手なんですけども、ワタシ……。

 あと、爪も弄られたんですけど……。何か、めっちゃぴかぴかに磨かれた。爪が艶々キラキラしてて驚いている。普段マニキュアとか塗らないので、爪のお化粧って違和感あるなー。

 ……うん、まぁ、服装に合わせて周囲も調整したと言われたら、それまでなんだけど。お姉様たちの情熱が超怖かったです。何であの人たち、ワタシを磨き上げることに全力を尽くすんだろう。意味わからない。


「ミュー」

「何だよぅ」

「うだうだ考え込んでいるところ悪いが、入場の合図だ」

「……へいへい」


 はぁと思わず大きなため息が口をついて出た。仮に、アーダルベルトが言ったことが事実で今回は美しき刺客ご令嬢たちがやってこないとしても、めっちゃ注目されることに変わりはないのだ。そもそも、現時点で脳内お花畑のお姉様たちの期待と希望に満ちあふれた微笑みがくっそ重いです。お姉様方、それは未来永劫訪れない未来なんで、期待しないでください。

 とりあえず、盛大なファンファーレが鳴り響く中、覇王様と二人で扉をくぐるという苦行です。相変わらず凜としたユリウスさんの声で紹介されて、ファンファーレと拍手の中を会場へ。…………わぁ、やんごとない方々の正装ってやっぱり綺麗ですねー。


「何を現実逃避をしとるんだ」

「したくもなるわい」


 ゆっくりめの歩調で歩くアーダルベルトの隣を、ちょっと早歩きで進むワタシ。相変わらずこう、歩幅が全然違うので大変です。歩調合わせてくれてるからまだマシだけども。

 並んで二人でぺこりとお辞儀をすれば、拍手がさらに鳴り響く。えーん、ライナーさん、ワタシを助けてー。注目されるのもうヤダー。エレオノーラ嬢、助けてー。何でキラキラした顔でこっち見てんだよ、お姫様!ワタシ何も嬉しくないんだよ!?

 まぁでも、今回は最初にご挨拶したら、ユリウスさんたちのところへ避難して良いからな。前回みたいにダンス踊るとかないので、セーフ。超セーフ。衆人環視の中で踊るのもう嫌です。ついでに言うと、フェルディナントさんはともかく、オクタビオのおっさんの前で踊るのマジ勘弁!あのおっさん、絶対からかってくるに決まってるんだ!ワタシ知ってるもん。

 何か真面目に新年の挨拶を始めようとしているアーダルベルトの隣から、そそくさと移動するワタシです。ワタシたちが入ってきた扉の両脇に控えている近衛兵ズの片割れ、ライナーさんから生温い視線が届いていますが、気にしてたまるか!

 ……エーレンフリート?あいつは正装でバッチリ決めた覇王様を見て感無量って感じですよ。お仕事だから大人しくしてるけど。


「ミュー様、お疲れ様でございました」

「うぅ、ユリウスさん……。ワタシもう引っ込みたい」

「却下でございます」

「ぐふっ……」


 穏やかな微笑みで迎えてくれたイケオジナイスミドルエルフのユリウス宰相は、その優しい微笑みのままでワタシを一刀両断した。容赦がねぇな、本当に!

 いいもん、いいもん。とりあえず、何か小難しい挨拶とかが終わるまでの間は、ワタシここで大人しくしていれば良いだけだし。パーティーが本格的に始まったら、エレオノーラ嬢という最強の盾を活用するだけなんだから。


「ミュー様、お飲み物はいかがですか?」

「もらいますー。……あー、生き返るー」


 エレオノーラ嬢が給仕係に頼んでくれた、ウェルカムドリンクらしきグラスをぐいっと一口。喉ごしすっきりなシャンパン。多分、シャンパンで合ってるんじゃないかと思うんだけど。美味しいからいいや。あんまりアルコールって感じがしないから、すごく飲みやすい。

 扉の向こうで緊張してたから、喉がカラッカラだったんだよね……。シャンパンうんまい。流石お城の新年会である。良い酒使ってるわー。


「あ、おっちゃん発見」


 シャンパンをくぴくぴしながら視線をあちこちに向けていたら、発見しました、今回の諸悪の権化。隣国ウォール王国の聖騎士団長、オクタビオのおっさんです。本日も団長様としての正装なのか、勲章いっぱい付いた礼服着てらっしゃいますけども。似合うっちゃ似合うんだけども、どうにもなぁ……。生真面目な表情で立ってるのが、どう考えてもお仕事用というか外向き用で取り繕ってんだろうなと思うワタシである。

 ワタシ間違ってないよ?あのおっさんはこう、ワタシと同じテンポでじゃれてくれる感じのおっさんなんだ。年の功でそれなりにちゃんとした対応が出来てるだけで、本質はお貴族様の集まりとか蹴っ飛ばしてどっか行きそうなタイプだもんよ。

 今回は隣に眼鏡美人さんはいらっしゃらないので、一人で来たらしい。まぁ、宰相補佐様連れてこられても困るんだけども。セバスティアンさんはこう、生真面目さんだからな……。ワタシとおっさんがじゃれてると、おっさんのことめっちゃ睨む感じだから。ワタシたちは何一つ気にしていないのに。

 まぁ、良い。いるのは発見したから、後でお話しよう。一応何か挨拶に来たっていう名目があるらしいから。ついでに文句も言ってやるんだ。国相手に正式な手続きでうんちゃらとかしやがったせいで、ワタシがこうして見世物よろしく派手な衣装着せられてるんだから!

 え?八つ当たりじゃないですよ?正しく、おっさんのせいでしょ!フェルディナントさんとおっさんが、ワタシに挨拶したいとか言ってきたせいで、ワタシは今、ドレスアップしてここにいるんだから!

 そういや、そのフェルディナントさんはどこにいるんだ……?


「ミュー様、誰かをお捜しですか?」

「後で挨拶する予定の相手を探してるの」

「あぁ、そういうお話でしたわね」

「うん。オクタビオさんはいたから、……ノーラちゃん、めっちゃキリリとして恰好良い性別不明な感じの男装の麗人知らない?」

「物すごく個人的主観の入ったたとえですけれど、……見ました」

「通じた……」


 通じないかもしれないと思って口にしたのに通じてしまった。っていうか待て。やっぱり安定の男装なんかい、フェルディナントさん……。一応王子殿下の婚約者に昇格したって聞いてるんだけども、男装で来てるの、あの人……!?

 あちらです、と示された先には、ドレス姿のご令嬢に囲まれているすらりとした美人が一人。軍人の正装なんだろうか。オクタビオのおっさんみたいに礼服にじゃらじゃらと勲章その他が付いている服装だ。相変わらず男装が似合いすぎるほど似合っている。いやまぁ、生まれたからずっと男として育ってるんで、似合ってて当然なんですけども。

 よし、これでフェルディナントさんも発見したから、身動き取れるようになったらさっさと挨拶終わらせて引っ込もう。もしくは、隅っこでご飯食べていよう。そうしよう。

 ……だって、針の筵みたいな感じにはなってないけど、相変わらずビシバシ視線が飛んでくるんだもん……。敵意も悪意もないけれど、驚き半分興味半分みたいに見られているのだけはわかる。わかるけど、見ないでほしい。あと、赤いドレスを着ているのはワタシの趣味じゃねぇええええ!




 とりあえず、一刻も早くこの地獄の宴が終わりますようにと祈るワタシなのでありました。早く終わらせてご飯食べたい……。




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