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「余計な説明も言い訳も無用。結論だけ説明しろ。ワタシが新年会に参加するってどういうことだ」
「目が据わってるぞ、ミュー。食事が不味くなる」
「じゃかましいわ!ワタシにとっては重要事項だ、アホ!さっさと説明しろ!」
だんっ!とテーブルを叩いて叫ぶワタシに対して、アーダルベルトはいつも通りだった。ワタシが怒っている理由はわかっているだろうに、平然と食事を続けようとするんじゃない!
……なお、近衛兵ズは慎ましく控えてるし、ユリアーネちゃんは出来る侍女として給仕に徹している。そして、エレオノーラ嬢は我関せずと言いたげに淑女スマイルで食事を続けていた。おのれ、全員いつものことで流してやがる……!
睨み続けていると、面倒くささが勝ったのかアーダルベルトが食器を置いた。そして、とりあえず座れとワタシに促してくる。どうやら向こうが話すモードに入ったらしいとわかったので、大人しく座る。早よ説明しろ。
「言っておくが、前回と同じく、今回もお前の自業自得だぞ」
「何でさ!ワタシ何もしてないもん!もう出なくて良いって言ったじゃん!」
「俺だってお前を出すつもりなんぞなかったわ。お前が悪い」
「どこが!」
言うに事欠いてワタシの自業自得だとか、ワタシが悪いだとか言い出す覇王様。周囲は誰一人として口を挟まない。……いや、誰か一人ぐらいは援護射撃しようよ!ワタシ、新年会に呼ばれるようなこと何もしてないから!
「だから、お前の自業自得だ。お前、今年自分が何をしたのか振り返ってみろ」
「今年……?」
ジト目で言われた言葉に、とりあえず記憶を探ってみる。今年、ねぇ?新年会のアレコレ突破した後だろ?
えーっと、まず、新年会からしばらくして起きたイベントは、ヤンくんが城の中庭に友達である山の主のグライフと一緒に現れたことだよね。そんで、そのままトルファイ村に出かけたら秘宝の指輪が行方不明で、うっかり口滑らせたせいでオクタビオのおっさんにウォール王国まで連行された。指輪は無事に見つけたから問題ない。
その次は、キャラベル共和国との戦争。一応向こうが攻めてくるのを前もって伝えておいたから、こっちも準備万端で迎え撃つことが出来たんだっけ。あ、そういやそのときに初めて魔導具ぶっ放したなー。いやー、アレは楽しかった。
次は、ワタシの偽物が現れてるとオクタビオのおっさんとセバスティアンさんがやってきて教えられて、それが原因のウォール王国のお家騒動の解決に一枚噛んだ。これは、ここでウォール王国に恩を売っておいたら後々こっちに味方してもらえるかもしれないという理由で。一応感謝はされたし、成功したと思う。
そんでもって、平和にのほほんとしてたらアホの大司教のせいで死にかけた。手先にされたお兄さんは無事に情状酌量されたので良かったと思う。お腹刺されて夢の世界をさまよってたとか、今思うと割と普通にヤバかったな。今後はいのちだいじにでやっていきたい。
その次にやったことというと、推しカプの成立を助けたことかな!コーラシュ王国のリヒャルト王子と、その幼馴染みで護衛騎士のフェルディナントさん(血筋的な特徴で無性体として育った男装の美人)をくっつけただけである。だ、だって、ゲームの本筋では悲恋だけど、今なら介入可能だと思ったら、くっつけちゃうでしょ!推しカプの成立見たいと思って何が悪い!感謝されたから良いと思う!
次はというと、
そんで一番直近は、覇王様の妹殿下二人と知り合って、学園都市ケリティスに行ったことかな。会いたくもなかった理事長様、すなわちかつてのラスボス魔王様とエンカウントしたり、何か知らんけど気に入られたりというイレギュラーはあったけれど、覇王様の死亡原因であるイゾラ熱の情報は手に入ったからよしとしよう。
うん、こんな感じだな。今年も何だかんだと怒濤の1年だったね!何でこんなに忙しいんだ、ワタシ?平和に過ごしたいのに。
「で、自分がやらかしてきたことは理解したか?」
「やらかした言うな」
「やらかしとるだろうが。で、それを踏まえて俺の言った自業自得の意味がわかるか?」
「わからん」
「そこはわかれ」
「わからんもんはわからん!」
確かに、アレコレ色々やったなぁとは思うよ?でも、だからって何で新年会に参加しないとダメなのさ。国内の貴族さんたちには今年の新年会で釘刺してるし、そもそもワタシの知名度もう安定してるだろ。予言の参謀様の存在は国内で普通に知れ渡ってるんだから、今更顔見せいらないだろ。
それで何で自業自得になるんだよ!
「お前はアホか。それだけ他国に影響を与えておいて、何で勅使が年始の挨拶に来ないと思ったんだ?」
「いや、一般庶民の感覚しか備えてない平民のワタシに、そんなことわかるわけないよね!?」
覇王様の言い分に、思わずワタシは噛みついた。あのな、それが偉い人の常識とか言われても、ワタシ、ただの庶民!少なくとも、一般庶民としてしか育ってないの!ここでアレコレ変な立場に置かれてたとしても、そういうこと学んでないんだからわかるわけないだろ!
……っていうか、待って?それってつまり、誰かがワタシに会うために新年会にやってくるって明言してるってこと?何でだ!
「……とりあえず聞くけど、誰が来ようとしてんの……?」
「ウォール王国の聖騎士団長と、コーラシュ王国の護衛騎士殿」
「あの二人かぁあああああ……!」
がっでむ。何が困るって、その二人は別に訪ねてこられてワタシが逃げ回るような相手じゃないところだ。拒否する理由が存在しない。オクタビオのおっさんはノリが良くて面白いし、フェルディナントさんは普通に会話の通じる美人で目の保養で好きです。まさかの面会希望がその二人だったとは……!
……っていうか、待って?その二人、自分のところの新年会とか参加しなくて良いの?聖騎士団長様と、王子殿下の恋人になった公爵家の嫡子殿ですよ?ねぇ、どう考えても自分の国の新年会に参加しないと駄目な人たちだと思うんだけど、違うの?
「外交に関係する場合は、自国の新年会に参加できなくても咎めはないな。うちも余所に出かける者たちはいる」
「マジかよ」
外交の常識とか政治の常識とかワタシにはわからないけど、どうやら普通に許されていることらしい。自国の重要人物が他国で新年会迎えても良いのかよ。知らなかった。
っていうか、そんな重要人物さんたちに面会希望されてるワタシって、どうよ。新年会出たくない。それ、絶対新年会に連行されて、公衆の面前で何か堅苦しい挨拶されて相手しないとダメってことですよね?裏でのほほんと「やっほー!新年あけおめー!」ってやるのとは意味が違うってことよね?どう考えても苦行!ただの無理ゲー!!
「とりあえず、正式に他国の勅使としてお前を目当てにやってくる相手がいるんだから、新年会の会場で出迎えろ」
「理不尽!」
「どこが理不尽だ。安心しろ、ダンスはやらんで良いようにしてやる」
「むしろそれなら、裏で会えば良いだけにしてくれれば良いのに!」
「向こうから正式にお前に挨拶したいとか言われてるのに、出来るわけないだろうが。諦めろ」
「ひどい!」
行儀悪いとわかりつつ、だんだんとテーブルを叩いた。だってあまりにも理不尽じゃないですか。別に彼ら、ワタシと公式の場で大仰な挨拶を交わしたいとか絶対に思ってないんですよ!覇王様相手に手紙を出すから、それなりに体裁の整ったのにしてるだけで、少なくともおっさんは絶対そんなこと考えてない!裏でお茶飲んで雑談するレベルの方があのおっさんは気楽とか言う!絶対!
……フェルディナントさんは、うん、……公式の場で礼節を尽くした挨拶とか考えてる可能性があるけども。あの人、生真面目だからなぁ。ワタシのちゃらんぽらんな部分も見せてるのに、何か知らんけど勘違いが無双してワタシの評価をずいぶんと上げてるんだよねぇ、あの人。何でだろう。解せぬわぁ。
うぅ、新年会とか出たくない。お貴族様の視線にさらされたくない。うっかり
「とりあえず、諦めろ」
「お前、投げやり過ぎない?」
「肉が冷める。お前も美味い間に食えよ」
「確かにそうだけども!」
そうだけどそうじゃないと思うんだけどな!相変わらずワタシに対する扱いが本当にアレだよな、この覇王様!知ってるけど!
とりあえず、ワタシだって夕飯は美味しいまま食べたいと思うので、大人しく食事に戻りました。叫びまくって喉が渇いたので、とりあえず水を一気飲み。すかさずユリアーネちゃんが追加してくれました。着実に出来る侍女になってます。流石。
今日の夕飯は、……何か、焼き色着いてるのにふんわり焼き上げた肉に、ベリーっぽいソースがかかってるステーキみたいな何か!ワタシに小難しい料理名などわからん!でも美味しいから良いです。
付け合わせのサラダとか、スープとか、焼きたてふわふわのパンとかも、普通に美味しいですね。何かコース料理みたいな感じの真面目な献立です。美味しいんだけど、料理名を聞きたくない感じのアレだ。聞いても長い名前で覚えるの面倒くさくなるやつ。
美味しいのは良いのだけれど、シルバー使って食べなきゃいけないのがちょっと面倒で……。いやあの、ワタシそこまでナイフとフォークの扱い上手じゃないんだもん。ワタシの知識は、「並べられてるシルバーは外側から順番に使う」ってことぐらいだよ。だって日本の庶民はお箸使ってご飯食べるからね!
普段はお箸で食べるんだけども、たまにこうやってシルバーで食べるのを強制される。最近気づいたけど、エレオノーラ嬢がいると高確率でこういう真面目な献立で、シルバーが並んでるんだ。多分、皇妹殿下のためにそうなっているのだと思われる。
……大丈夫。ゆっくりでも頑張れば食べられるし。ご飯美味しいし。
そんな風に、合間合間にアーダルベルトと軽口を叩きながら食事をしていたワタシの耳に、鈴を転がしたような綺麗な声が滑り込む。なお、声は綺麗で可憐で素敵だが、言ってる内容は爆弾だった。またしても爆弾ぶん投げてきたのはエレオノーラ嬢である。
「ミュー様、新年会のご衣装はどうされるのですか?」
参加決定の方向で話が進んでるからって、笑顔でその話題を振ってくるこの妹殿下の精神構造がちょっとわからない。マイペースなんだろうなとは思うんだけど。図太いよね、エレオノーラ嬢も大概。
「どうするも何も、正装なら持ってるよ?」
「確かにあの衣装は素敵ですけれど、今年と同じ衣装だなんてそんなのはいけませんわ」
「え」
とんでもない!と腹の底から言っているらしいエレオノーラ嬢に、ワタシは目を点にした。何を言っているんだ、このお姫様わ。ワタシ、ちゃんと正装持ってるって言ったじゃん?今年の新年会に合わせてアーダルベルトとお揃いで作った赤色の
何で?と視線を向けたら、アーダルベルトもエレオノーラ嬢に同意するように頷いていた。え、何故?味方を求めて視線を向けても、近衛兵ズも頷いていた。ユリアーネちゃんは視線が合わないようにそっと目を伏せていた。何で!
意味がわからなくて視線をあっちこっちへうろうろさせるワタシに、アーダルベルトが言葉を投げてきた。割と容赦なく。
「新年会で同じ衣装を着れるわけがないだろうが」
「何でだよ!礼服とか正装ってのは、一つ仕立てたらそれを来てれば良いだろ!?」
「バカを言うな。続けて同じ衣装で出るなんぞ、非礼扱いされるわ」
「何でそうなるんだよ!」
嘘だろ?正装とか礼服ってのは、一つあればそれで十分じゃないの?え?毎年作るの?下手したら、大きなパーティーの度に作ったりするの?バカなの!?無駄遣いも良いところじゃん!
「それが嗜みであり礼儀だ。と、言うわけだ。近日中にデザイナー呼ぶからな」
「どんな衣装になるのか楽しみですわね」
「何でそうなったぁあああああ!」
容赦のない覇王様の言葉と、純粋に楽しみにしているだろう皇妹殿下の言葉。それはどっちもワタシには理不尽極まりないものだった。何で、またお金かけてデザイナーさんに特注の服作って貰うの……?税金の無駄遣い良くない……!
しかし、ワタシの主張は一切認められず、結局何か衣装を仕立てられることになるのでした。せめて、せめてドレスとヒールは回避してやるぅうううう!
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