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「で?」
顔だけはにこやかな微笑みを浮かべる腹黒眼鏡、ロップイヤーの神父ヴェルナーから発される威圧が半端無いです。超怖い。めっちゃ不機嫌でした。ちょっと、確かに説明不足だったかも知れないけれど、そもそも、こいつが直接ぶっ込まれてくるのワタシは知らなかったわけだし、説明責任はお前にあるんじゃないの、アーダルベルト!?何でワタシが怒られてるのか解せぬ!
「まぁ、総責任者はお前だろ」
「そういう問題か、この野郎」
「だが、俺も詳しい状況は知らんしな」
「だからって、こいつを送り込んできたのお前なんだから、前情報ぐらい渡しておけよ」
「面倒だった」
「それが本音か、てめぇ!」
「……貴様ら、じゃれてる暇があるなら、とっとと説明しろ?」
お互いに責任のなすりつけをしていたワタシとアーダルベルトに対して、ヴェルナーがビュッと何かを投げつけて微笑んだ。……止めろ、止めろそこのロップイヤー。お前の武器が鞭だっていう事実を思い出させるな。しれっと神父服のベルトに鞭くっつけて歩いてるという事実を、思い出させるんじゃない。鞭は当たったら痛いんだからね!?
「えーっとですねぇ、まぁ、端的に言うと、アディの死亡フラグをへし折るため?」
「死亡フラグというのは何だ」
「あー、うん。……ワタシの知ってる限り、皇帝アーダルベルトは病死するんだよね?んで、治療法が確立されてない病気なので、その対策に、
「……病死?」
ワタシの説明に、ヴェルナーは何か変なものを呑み込んだみたいな顔をした。うん、気持ちはわかる。この、頑丈が服を着て歩いているような覇王様が、健康優良児としか言えないアーダルベルトが、もっと言えば、バケモノ体力を誇っているこの男が、病死するとか言われても、信じられないよね?しかも今まで一度も病気してないとかしれっと宣ってたしな。信憑性めっちゃ低いなー。これ、ワタシ以外が言い出したら、鼻で笑われるんじゃね?って案件ですよ。
とはいえ、言っているのはワタシなので。そう、このワタシ、なので。覇王様の親友にして、未来を《予言》せしめる参謀様なので、発言に信憑性はある。少なくとも、ユリウスさんが信じてくれる程度には、ワタシが話す未来のことは、皆が耳を傾けてくれるのだ。今まで、外したことが無いので。
「うん。
「なんだその予定は!」
「だから、その予定を覆したくて、真綾さんに援護を頼もうと思ったの!」
凄い勢いで噛み付いてきたヴェルナーに、ワタシは必死に訴えた。あーもう!こいつも何だかんだで覇王様大好きだから、いつもの余裕綽々の態度とか、慇懃無礼な態度とか消えてるでやんの!……いやまぁ、ワタシの前では、腹黒というかガラの悪いモードが通常運転ですけど、こやつ。
お前もちっとは説明手伝えよ、と視線を向けた先の覇王様は、何故か真綾さんとのほほんと会話をしていた。自分がそんな切り札扱いだと思っていなかったらしい真綾さんと、彼女に色々お願いしている覇王様という構図。待て、お前、ワタシに面倒な説明を丸投げして、真綾さんとほのぼのしてんな!
「……つまり、彼女の身柄を確保する意味は、陛下の命を守るためなのか?」
「うん」
「病気だと?」
「うん」
「アレがか?」
「……止めて、ヴェルナー。アンタ美形なんだから、その顔で真顔で聞いてこないで。言いたいことは本当に良く解るけど、マジで病死だったんだよ」
美形のシリアス真顔は本当に怖いので、勘弁して欲しい。怖かったので、ライナーさんの腕を引っ張って盾にしつつお返事をしておいた。ライナーさんはワタシからの盾扱いにも怒らずに、いつもの優しい微笑みでヴェルナーと相対していた。……まぁ、何だかんだでここも付き合い長いしな。
でもまぁ、とりあえず、事情はさくっとだけど説明出来た。説明出来たんだから、これで良いよね?ワタシが怒られるの、もう終わりで良いよね?相変わらずヴェルナーはワタシを睨んでるけど、そんなの知らないよ?
「小娘」
「……何だよぉ。ちゃんと説明したじゃんかー。アンタの仕事は、来たる日まで真綾さんを保護して、彼女の知識の強化と、薬の作成に必要だろう薬草類の確保だよー」
相変わらず不機嫌そうなヴェルナーに、ワタシはぼやいた。そう、ワタシの担当は終わったのだ。真綾さんをどこに配属するかとか、誰が彼女の師匠になるかとか、そういう面倒くさい内容はワタシの管轄では無い。ヴェルナーに説明が終わったのなら、後は覇王様の仕事だ。……つーわけだからアーダルベルト!お前いつまでも真綾さんとのほほんしてねぇで、自分の部下に説明しろや!
「呼んだか?」
「割とさっきから呼んでるよね?何でアンタ、ワタシに全部投げてんだよ。仕事しろよ。そもそもヴェルナー巻き込んだのお前だよね?」
「しかし、そもそも俺は、俺が病死するなどと言われても信じられんしなぁ」
「うっせー。それはワタシも同じだったわい!」
げしげしとアーダルベルトの足を蹴りながらツッコミを入れるワタシ。そのワタシの頭をいつものようにわしゃわしゃするアーダルベルト。お前ら何やってんだという顔をしているヴェルナー。笑顔のライナーさんと真綾さん。呆れ顔の遼くん。
……んでもって安定の、「貴様殺すぞ?」と言いたげな殺気バリバリの顔をしているエーレンフリート。なお、アーダルベルトが視線を向けた瞬間に耳がぺたんってなりました。いつもの!
「まぁ、とりあえず彼女の保護を頼む」
「端的だな、陛下」
「彼女の能力の見極めも頼みたい」
「……面倒くさいことは嫌いなんだが」
「なら、お前が信用出来る相手にふってくれ」
「……信用出来る相手?」
何だそれは?と言いたげなヴェルナーの発言から、奴が教会内部をどういう風に見ているのかが非常に良く解りました。きっと、マトモで真面目な神父様とかもいっぱいいるだろうに、この腹黒ロップイヤーめ。役に立たないとかいう理由で、交友関係切り捨ててそうだな。困った男だ。
何だかんだでやりとりを開始している覇王様と腹黒眼鏡を放置して、ワタシは相変わらずにこにこ笑ったままの真綾さんと、疲れたようにため息をついている遼くんに歩み寄った。真綾さんは天然だから会話通じない部分あるけど、遼くんは割としっかり者だから、色々考えちゃっているのではないだろうか。
でも、安心してくれ、遼くん。真綾さんの確保はこちらにとっても大事なことなので、きっちり保護するから!主に、ワタシの同郷人というのでゴリ押しして!
「何でそれのゴリ押しでどうにかなると思ってんだよ、ねーちゃん!」
「なるよ。大丈夫だよ。基本、アディがそれで推すよ!」
「何で!?」
「そんなの、真綾さんの能力は隠しておいた方が安全だからに決まってるじゃーん」
にへっと笑ったワタシに、遼くんは目から鱗が落ちたみたいな顔をしていた。……何故だ、少年よ。その、ワタシが色々考えているのが信じられないみたいな顔は!失礼だぞ、思いっきり!ワタシ、これでも考えてるからね!?君がいなくなる分も、ワタシが真綾さんを守らなければと思ってるのは事実なんだよ!打算とか下心とかは確かにあるけど、それを差し引きしたって、同郷人の真綾さんに好意的になるの当然じゃんか!
「ねーちゃんがそういうの考えてるとは思わなかった」
「思いっきり失礼だよね!?」
「いや、ねーちゃんっていわゆるアホの子かと思って」
「遼くぅうんんんん!?」
何が悲しくて小学生にそこまで言われにゃならんのだ!ひどい!理不尽!解せぬ!
べしべしべしと遼くんの頭を叩くワタシと、叩くなと逃げようとする遼くんのやりとりを、真綾さんとライナーさんは相変わらずの微笑みで見ていました。……待って、ライナーさん?何か貴方の微笑みが、生温く見えるのワタシだけですか?真綾さんは天然パワー炸裂の通常運転だと思うけど!
「仲がよろしいなと思っただけですよ?」
「それでその顔?」
「えぇ。……相変わらずミュー様は愛らしいなと思っただけです」
「アウトぉおおおお!」
にこにこと微笑みながら告げられた言葉だけれど、カテゴリーが間違ってた。ライナーさんの「愛らしい」を、言葉通りに受け取ってはいけない。彼の中でワタシは、相変わらず
「遼くん、どう思うよ!?成人女子のワタシに対して、子供相手のようなあの態度!」
「概ね同意する」
「ひでぇ!」
隣の小学生はあっさりワタシを裏切った。何てひどいお子様だ。この野郎。ぐりぐりの刑にしちゃる。遼くんの頭をぐりぐりするワタシと、嫌がる遼くんと、それを微笑ましく見つめるライナーさんと真綾さんというカオスが形成されておりますが、もう気にしません。どちくしょうめ。
「何をやっているんだ?」
「あ、アディ聞いてよ!ライナーさんがいつまでもワタシを子供扱いする!」
「ガキっぽいからだろ」
「一刀両断した!親友のくせに!」
「親友だから、誰よりもきっぱり言ってやらねばならんのだろうが」
何故か妙に自信満々な覇王様と、それに同調する周囲に敗北するワタシでございました。おのれ、ひどい奴らめ!
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