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「よぉおおくわかった。ねーちゃん、アンタ本当に自覚無しの大バカなんだな?」

「……は?」


 真剣な顔をしてりょうくんがいきなり、めっちゃ失礼なことを言いやがりました。ちょっと待て、ナニソレ。ワタシ、確かにおバカで阿呆の子なのは認めるけど、自分の半分しか生きていない子供に大バカ呼ばわりされるのは解せぬ!っていうか、遼くん、普通に考えて失礼だろ!


「いきなり失礼!」

「失礼じゃねーよ。あーもう!姉ちゃんもぽけーっとしてるから心配だけど、アンタも大概アウトだろ!何だよこれ、ちょっとは安心して戻らせろよな!」

「だから、いきなり何言ってんのか全然わかんねーよ!」


 頭を抱えて唸っている遼くんですが、ワタシにはさっぱり何のことかわからない。ヴェルナーと仲良く?お話していた真綾まあやさんも不思議そうな顔をしている。……いやまぁ、真綾さんはちょっと浮き世離れした感じの天然さんなので、いつもこんな感じだけど。ワタシ?ワタシは天然じゃなくてマイペースなだけです。真綾さんのは天然だと思う。




「だから、いい加減、自分が一般人だとか普通だとか、そういう認識捨てろよ、アンタ!!!!」




 まるで、それが何より大切だと言いたげに遼くんが叫んだ言葉に、ワタシは首を捻った。何言ってるのかな、この子は?ワタシはただの一般人だし、非力で無力な普通の人だぞ?ちょっと人よりゲーマーで、この世界の知識があるだけですよ。何言ってるのかなー?


「ふむ。リョーと言ったな」

「……はい、そうです」

「お前の気持ちはありがたいが、コレは本当に、どうしようもないほどにその手の自覚は皆無でな」

「アディ!?」

「そうなんですよ、リョーくん。ミュー様にその手の自覚を植え付けるの、もう皆匙を投げてしまったぐらいなんですよ」

「ライナーさん!?」

「いい加減己は要人だと理解して、危機感を持てと何度言っても無駄だからな、この小娘」

「ヴェルナー!?」


 畳み掛けるような発言に、思わずそれぞれの名前を呼びましたが、何故かワタシに向けられたのは、色々と諦めたような笑顔でした。待って、何でそうなるの!?ワタシ、ただの一般人ですぅううう!

 しかも、何やら遼くんとライナーさんが細々とお話を続けている。待って、ライナーさん!待って、遼くん!ワタシはただの召喚者で、ただの一般人です!ゲーム知識以外にチート持ってない、ちょっと記憶力チート持ってるだけの、非力な小娘なの!要職に就いてるわけでもないんだからね!?


未結みゆちゃんは、一般人でいたいのよねぇ~」

「……え゛?」


 にこにこと微笑んで真綾さんが告げた言葉に、ワタシは固まった。え?ここで真綾さん会話に入ってくるの?天然っぽい真綾さんまで絡んでくるの?カオスの予感しかしないんだけど。

 ちらりと隣のアーダルベルトを見上げたら、ワタシと真綾さんを見比べた後に、こくりと頷いた。真綾さんに続きを促す態度だった。ひでぇ!何でそこでワタシを裏切るかな、このバカ!お前ワタシの悪友じゃなかったのかよ!見捨てた!めっちゃ見捨てた!!!


「遼くん、未結ちゃんの自意識は、日本にいたときのままなのよ。遼くんだって、いきなり、『お前は他国の重鎮だ!』なんて言われても、驚いちゃうでしょう?」

「……そりゃまぁそうだけど」

「待って、真綾さん、ワタシ重鎮違う!ただの小娘!」

「「ただの小娘は皇帝陛下の親友にはなりません」」

「二人でハモることなくない!?」


 まさかの、同郷人二人からの攻撃でした。なんてこったい。ヒドイよ、二人とも。ワタシは普通の、一般人の、ただの、ゲーオタ女子大生なんです。それだけなんです。……それだけだもん。

 ふてくされてげしげしと足下を蹴っていたら、ぽすぽすと頭を撫でられた。アーダルベルトだなと思って見上げたら、案の定覇王様はいつもの顔でワタシの頭をぽんぽんしていた。……手置きに丁度良い高さなんでしょうか、ワタシの頭。慰めてくれてるのか、単純に高さがぴったりなのか、いつも判断に悩むよ、アーダルベルト。


「……でもさ、ねーちゃん」

「……何だよぉ」

「要人とか重鎮とかいう難しいことは抜きにして、自分が、他人に影響与える存在だってのは、自覚してろよ」

「……へ?」


 ちょっと拗ねながら返事したら、遼くんが、ひどく真面目な顔でそんなことを言いました。……うん?他人に影響を与える存在?ワタシ、そんな大きな何か?いや、確かに《予言》は国の方向性に影響を与えてるかも知れないけれど、ワタシ個人はただの小娘じゃないかな?


「だから……、能力とかそんなん抜きにして、ねーちゃんは皇帝陛下の親友なんだろう?親友に何かあったら、心配するの普通だろ?そういう意味では、ねーちゃんはもう、この国で重要人物だって言ってんだよ!」

「…………うわぁ」


 苛立ったように叫んだ遼くんに、ワタシは面倒くさくなって視線を逸らした。それ、今言うかなぁ。言わないで欲しかったんだけどなぁ、ワタシ。……てか、アレか。自分だけ向こうに戻るから、真綾さん預ける相手であるワタシの云々について、言いたかったのか。ちっ、大人びた子供ってのはこれだから面倒くさい。

 そんなことねぇ、ワタシが自覚してないと思われてる方が、不思議だわ。……重要人物扱いされるのも、国の要人扱いされるのも面倒くさくて、「ワタシは一般人ですー!」って主張してきたけどね。自己防衛みたいなもんだよ。普通に日本で育った一般人の、アイデンティティを守るための防衛措置なだけだよ。

 ワタシが、この国に、少なくとも、隣の覇王様に、めっちゃ影響を及ぼしているのは、自覚している。しないわけないでしょうが。新年会で色違いお揃いペアルック第一礼装モーニングで大喜びしてたり、ワタシが襲撃されたと聞いて、執務机さんうっかり粉砕しちゃったり、ワタシを抱き枕にして安眠しちゃったり、諸々わっかりやすい覇王様見てて、何も気づかないワタシではありませんけど?

 ……だからって、自分から「ワタシは重要人物だ!」なんて言える性格してないんですよ。小市民なんですよ。引っ込んでいたいんですよ。隠れていたいんですよ。それが出来ないの解ってるけど、せめてそうやって、「昔と何も変わっていない自分」でいたいんですよ、ワタシ。そういうの、ダメなのかなぁ?


「……ダメ?」

「まぁ、お前はお前だから、それで良いんじゃないか?」

「ってことらしいから、遼くん、ワタシこのままで良いって!」

「全然良くないよな!?それ、護衛する側とか、他の人にめっちゃ迷惑だよ、ねーちゃん!」

「大丈夫だ!ライナーさんはもう、ワタシがこんなんだって諦めてる!」

「諦めてるって言い切るなよ!」


 覇王様にお伺いしたら、別に良いと言われたので、ワタシはこのままで突っ走ろうと思ったのに、遼くんは納得しないようです。そこは納得しようよー。良いじゃないか。覇王様が許してるんだから。この国の最強権力者様が、ワタシはこんなんだって認識してくれてるんだし、良いじゃん?

 ねぇ?と視線を向けた先で、ライナーさんはいつもの微笑みだった。「好きにして下さい」みたいな笑顔だった。その隣のエーレンフリートとヴェルナーが、「あぁ?お前いい加減にしとけや」みたいな凄みのある笑顔なのは、見なかったフリをしたいと思います。見なかったフリ!あいつらはワタシに対して厳しいから!


「俺は別に、お前はお前で良いと思うがなぁ」

「だよねぇ?」

「ヘタに、要人の自覚なんぞして、お前がお前らしくなくなるのは、それはそれでなぁ」

「だよねぇ?」


 ねー?と二人で顔を見合わせているワタシ達ですが、背後で盛大なため息が聞こえました。遼くん、聞こえてる。そのため息、めっちゃ聞こえてるから。あと、真綾さん、生ぬるーい微笑みを感じるのですが、何ですかその、慈愛に満ちた微笑み。お母さんか何かですか。ライナーさんも同じくなんですけど。……んでもって、エーレンフリートとヴェルナーの笑顔が怖いのは、見えなかったフリを続行です。二人とも顔が良いばっかりに、怖い笑顔がめっちゃ怖い。止めろ、ワタシみたいな非力な小娘に威圧をかけるな。

 ……まぁ、身の回りについては、これでも気をつけてるんだよ、遼くん。ワタシに何かあると、覇王様が大変だからねぇ。これで案外、こいつ過保護なのよ?ワタシ、めっちゃ怖いチートアイテムを装備させられてるぐらいには、甘やかされてるのよ。それが解ってないほど、おバカではないんだよ?


 ……何でそこで、信じられるか!みたいな目をするのだね、皆さん。


 くっ、ワタシに対する信頼度がめっちゃ低い件について!ワタシはワタシなりに、頑張っているのに!そりゃ、考え無しなのも、感情で動くのも相変わらずですけど!ワタシなりに頑張って、この世界に適応しようとしているのに!皆して、ヒドイ!


「ところで小娘、何で彼女をそこまで必死に国につなぎ止めようとしてるんだ」

「「あ」」

「ヲイ、陛下も含めてそこ四人、俺に彼女の後見人になれというなら、キリキリ事情を白状しやがれや?」



 うっかり説明を忘れていたワタシ達に対して、ヴェルナーは素敵な笑顔でお怒りなのでした。スマン!説明するから、怒らないでくれ、そこのロップイヤー!


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