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 日本人三人でお泊まり会したいです!というお願いをしたところ、女官長のツェツィーリアさんは快く受け入れてくださいました。りょうくんと真綾まあやさんに宛がわれた客室じゃなくて、ワタシの部屋で行うことになったのは、その方が防犯上都合が良いとかナントカ?まぁ、細かいことはよくわからなかったけど、同郷の二人と一緒に部屋でごろごろしたいと訴えたワタシの願いは叶ったのであります。

 ……ぶっちゃけ、ベッドが無駄に大きいので、三人一緒にでも寝られるのですよね。寝られるに決まってるやん!?だって、あの巨躯のアーダルベルトが、ワタシを抱き枕にして寝ても、余裕過ぎるサイズなんだからな?!寝返りだって余裕で打てちゃう覇王様サイズのベッドとか、無駄すぎだったよ!

 

「お城に泊まるとか、ちょっとまだ状況について行けてないのだけれど…」

「姉ちゃん、俺も」

「何で?ここなら変なのに襲われたりもしないし、宿代もタダだよ?」

「「そういう問題じゃない」」

「えー……」


 真顔で言い切ってくれる二人でした。わからん。お城のベッドはお布団ふかふかだよ?今だって、三人で転がっても余裕で寝られるサイズなんだし。お泊まり会満喫しようよー。

 ちなみに、ワタシはいつものジャージをパジャマにしていますが、二人は違う。真綾さんは何かこう、ネグリジェみたいな感じの、ちょっとお洒落な寝間着。遼くんは柔らかい素材の被りのシャツとズボンだった。割と普通にパジャマっぽいね。……待って?ワタシがパジャマ要求したときは、ネグリジェ系のお腹冷えそうなやつオンリーだったんですけど。遼くんが着てるみたいなのだったら、ジャージ止めてそっち着るよ!?


「ねーちゃん、コレ、男性用」

「もう今更だよ!ワタシの普段の衣装ズボンだもん。そもそも、最初に渡されたのは侍従服だったからね?」

「ズボンは男性限定らしい世界なのに?」

「うん」

「……何で?」

「アディに聞いてくれ」

「聞けるか!」


 ワタシに侍従服を与えたのはアーダルベルトなので素直に答えたら、遼くんに目一杯ツッコミ入れられました。そんなに怒らなくても良いじゃないか……。だって、あいつに聞いてもマトモに答えないんだもん。未だに、何で女子だって宣言したのに侍従服渡してきたのかわからん。そりゃ、女官さんたちの服渡されても困ったけど。

 まぁ、そんなことは良いや。とりあえず、あえての日本人三人のみのお泊まり会を決行したのは、情報のすりあわせをしたかった部分がある。……いやほら、二人も『ブレイブ・ファンタジア』のことを知ってるのかどうかが、気になりましてね?


「ところで、二人は『ブレイブ・ファンタジア』ってゲーム知ってる?」

「名前だけ聞いたことあるな。やったことは無い。結構有名なRPGだろ?」

「遼くん正解。……真綾さんは?」

「私、ゲームはしないのよねぇ…」

「了解です」


 プレイをしたことが無いという遼くんと、存在を知らないという真綾さん。でもまぁ、とりあえず、この二人もワタシと同じ日本から来たってことで間違いはないのかな?少なくとも、遼くんはそうだと思う。いやほら、平行世界の別の日本とかの可能性もあるかなー?と思ったわけですよ。うんうん。違ったらしい。ちょっと嬉しい。


「で、そのゲームがどうしたんだよ」

「ここ、そのゲームの中」

「……は?」

「……え?」

「正確には、そのゲームと酷似した世界。……まぁ、去年からワタシがあれこれやらかしたせいで、筋道めっちゃ変わってると思うけどね」


 へらりと笑ったワタシの前で、遼くんと真綾さんは固まっていた。うん、まぁ、固まるよね?普通に考えて、異世界召喚だけでも非現実的なのに、それがゲームの中とか言われてもな。いや、正確にはゲームに酷似した世界なのかもしれないけど。どっちでも良いや。ここが『ブレイブ・ファンタジア』の法則やら情報やらが通じる世界であることは間違いないし。

 とはいえ、この二人がゲームのことを知らないということは、細かい説明をした方が良いのだろうか。それとも、別に異世界に来たレベルで放置しといて良いのだろうか?あ。何でワタシが参謀やってるのかを伝える必要はあるか。うん。


「実はワタシはそのゲームのヘビーユーザーでして」

「ねーちゃんオタクっぽいもんな」

「遼くん、黙らっしゃい」

「何だよ。本当のことじゃねーか」

「話の腰を折るんじゃありません、このガキんちょめ!」

「いてぇって!」


 げんこつでつむじをぐりぐりしてやったら、遼くんはジタバタと暴れる。うむ。弟とか従兄弟と遊んでた時みたいな感覚だな。懐かしい。うむうむ。

 あ、話が脱線した。戻さないと。まったく、困った少年だ。邪魔しないでおくれ。


「……俺が悪いのかよ」

「うっさい。……で、ワタシは誰に、何のために召喚されたのかは全然解らないんだけど、召喚三日目にして覇王様に捕獲されました」

「「捕獲?」」

「うん。捕獲。うっかり口滑らせて『この国五年後に滅ぶくね?』って言っちゃったんだよね。まさかそれが皇帝陛下のお耳に入るなんて誰が思うよ!で、御自らワタシの確認に出てきちゃった」

「「出てきちゃったんだ」」

「うん。出てきちゃったんだよ、あの覇王様。困った皇帝陛下だよ」


 呆気に取られている二人に、ワタシはしみじみと呟いた。今思い返してみても、普通に考えて、何で皇帝陛下御自ら出てきてんねん!というツッコミしか存在しないよねー。普通そういうのは部下にさせると思うんだけど、自分でやってくるのがアーダルベルトです。もう今更だから諦めよう。


「まぁ、何だかんだで気に入られて、未来を知ってるなら対策を立てられるだろうから教えろとか言われて、気づいたらワタシ、予言の参謀になってた」

「そんな流れなの!?」

未結みゆちゃん……」

「いやマジ、そんな流れですよ?初対面から米俵のように担がれたし、面白がって大笑いされたし、気づいたら予言の参謀として告知されたせいで外堀埋められてるし、あいつ何気にえげつないよ?」


 嘘じゃ無い。何一つ嘘じゃ無い。うっわーという顔を二人がしているが、事実なのだからしゃーない。……勿論、ワタシはアーダルベルトが好きだし、悪友として傍に居ることもやぶかさではない。ただ、初対面で米俵のように担がれたのも、現在進行形で運び方がそれなのも微妙に納得してないし、あいつがあちこちに吹聴したせいで逆風評被害に陥っているのも事実なので、ちょっと解せぬ。ちっ。


「まぁ、それでも衣食住保証されてるし、ワタシが何やっても許されてるしね。今はちゃんと、トモダチとしてあいつの死亡フラグへし折って、この国が存続するように頑張ろうと思ってる」

「ねーちゃん、それ、やって良いことなのか?」

「さぁ?少なくとも、この一年ほどワタシは好き放題やってきたけど、神の裁きとやらはないねぇ」


 へらりと笑うと、遼くんは若干心配そうにワタシを見ていた。何だかんだでこの子は子供なので、サブカルに馴染みがあるのだろう。真綾さんは良く解っていないので首を捻っていたが。本来のシナリオにワタシが介入することで何らかの反動があるのではないか、という疑念。それは別に、ワタシだって持たなかったわけじゃない。

 それが、己にかかるのではないかと、考えたことだってちゃんとある。……まぁ、ぶっちゃけ、考えてもどうにもならねーわー、と思ってスルーしたけどな。だって、神の裁きが降るかどうかすらわからんのに、怯えてもな。それより、目の前の助けたい誰かの為に何かをする方がワタシらしいでしょう。多分。


「そんなわけなので、ワタシ多分、この国ではそこそこ融通が利きます。……その上で聞きますけど、真綾さん、どうすんの?」

「私はね、この能力で薬師さんみたいなことが出来たら良いと思うのよ」

「簡単にお薬が作れる能力でしたっけ?」

「正確には、材料と水を瓶に入れて振ったら飲み薬が作れちゃう能力みたい」

「……は?」


 思わず目が点になった。待って?真綾さん、それ、どんなチート?え?つまり、薬の材料と水があれば、難しい工程全部すっ飛ばして、蓋をしてシェイクしただけで飲み薬が作れると?!はぁ?!どんな能力だよ!


「真綾さん、それ、チート!めっちゃチート!!!」

「ちーと?」

「ねーちゃん、姉ちゃんの能力はそれだけじゃねぇんだよ」

「え?どういうこと、遼くん。この上更にチートあるの!?」

「ある」


 きっぱりはっきり言い切った遼くん。な、なんだって?!ワタシにはゲーム知識以外は記憶力チートぐらいしか存在しないのに!真綾さんには、まだチートがあるだと?!ズルイ!ズルイ!カミサマ!依怙贔屓良くないです!ワタシにも、チートを、寄越せ!!


「姉ちゃんさ、この世界の病気も薬もその材料も、何も知らないんだよ」

「そりゃそうでしょ。異世界人だもん」

「だけど、病気や怪我の人を見たら、その人の治療に必要な薬の材料が解るらしい」

「……は?」

「目の前にね、その人の病気や怪我と、必要な薬の材料が見えちゃうのよ~」


 不思議よね~と微笑んでいる真綾さんであるが、ちょっと待て。めっちゃ待て。それどんなチートやねん!医者いらずー!!!!薬の材料さえきっちり揃えておけば、全てを真綾さん一人でどうにか出来そうなぐらいにチート!しかも作る方法は蓋の出来る容器に水と材料を入れて振るだけ!簡単!何そのチート!

 めっちゃズルイじゃないですか。卑怯じゃ無いですか。完璧にチートじゃ無いですか。どうすんのよ、この人。のほほんと笑ってるけど、野放しにしちゃ駄目なアレやん!?バランスブレイカーも良いところだよ!


「つーわけだからねーちゃん」

「はい?」

「姉ちゃんを、誰か信頼できる薬師の弟子にとか出来ないか?」

「遼くん?」

「真綾さんを、誰かの弟子に?」

「この通り、姉ちゃんはほわほわしてるけど、能力がチート過ぎる。それに、見ればわかるとは言え、逆に言えば、見ないとわからないんだ。学んでないから」

「あ」


 確かに、真綾さんが薬師として普通に仕事をするには、あまりにもちぐはぐだ。普通の人が知っている知識が一切無いのに、チート能力で薬だけは(材料があればだけど)完璧に作ることが出来る。それも三分クッキングも真っ青な早業で。……その上、当人はほわほわしたお姉さん。

 うん、物凄く危険な未来しか見えませんね。危険感知能力を持ってる遼くんが傍に居て本当に良かったって感じだ。


「じゃあ、真綾さんさえ良かったら、お城の薬師とかに話し通しましょうか?」

「あら、良いのかしら?」

「ワタシとしても、同郷の人間の危険フラグは見逃したくないです」

「危険なのかしら?」

「「危険だよ」」


 ほわほわしている真綾さんに、二人で思わず突っ込んだ。遼くんが脱力している。うむ、君、小学生のくせに色々と大変だね。お疲れさん。

 誰に話を通すのが早いかな?やっぱりココはユリウスさんだろうか。明日ちょっと聞いてみよう。直接アーダルベルトでも良いけどな。うん。


「とりあえず姉ちゃんは薬師として身を立てたいんだろう?」

「身を立てたいっていうか、せっかくの力だから、誰かのお役に立ちたいじゃない?」

「俺は誰かじゃなくて、家族の役に立ちたいから、戻るけど」

「遼くんはそれで良いのよ」


 楽しそうに会話をしている二人。仲良しだなぁと思いながら眺める。羨ましい限りである。ひとりぼっちで異世界に放り出されたワタシの哀しみを誰か理解して欲しい。いや、異世界生活楽しいけど。楽しいけど、戻らないのと戻れないのは別だと思う。マジで。

 それにしても、真綾さんマジでチートだなー。薬師としてお城で頑張って貰おう。そしてたまには日本のお話に付き合って貰おう。日本のこと話せる人がいるって楽しいなー。




 そんなことをぼんやりと思っていたワタシは、ふと、この人を逃がしてはいけないのだと、気づいてしまったのだった。


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