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「……アンタ何してんの」


 城門でワタシ達を待ち構えていたらしい覇王様に向かって、思わずツッコミを入れてしまいました。忙しいはずの覇王様、何で出待ちしてらっしゃるんですか?お前仕事忙しいはずだろうが、アーダルベルト!何でここにおんねん!


「ユリアーネがラウラに面白い話を持ってきたらしくてな」

「それとお前がここにいることの関係性を述べよ」

「面白そうだからに決まってるだろう」

「この野郎」


 そうだと思っていたからワタシのツッコミもキレが弱いし、ライナーさんは明後日の方を見ているし、エーレンフリートも右に同じくって感じだ。初めて見る巨漢の獅子の獣人ベスティという圧倒的な存在感を持つ輩を眼前にして、真綾まあやさんとりょうくんはぽかんとしている。呆気に取られても仕方ないだろう。……ライナーさんとか宿屋のおっちゃんレベルなら良かったんだろうけど、こやつ、獅子だからなぁ……。しかも赤毛だし。目立つし。

 ひらひらと手を振ってみても、硬直している二人は反応してくれなかった。すまん。申し訳ない。空気読まずに現れた覇王様が悪いんで、どうかワタシを怒らないで欲しい。何でこいつが出てきてるのか、正直言ってワタシにも解らないから。


「と、いうわけだ。さっさとラウラの所に行くぞ」

「って、当たり前みたいに人を担ぐなぁあああ!」

「お前の足に合わせていたら遅い」

「てめぇ、この野郎ぉおお!」

 

 ひょいっと肩の上に担がれてしまうワタシ。遼くんも真綾さんもビックリしてんじゃねぇかよ!お前本当に、ワタシの移動手段にお前に担がれるがデフォになるの止めろよな?!ライナーさんも普通に受け入れないでよ!今更かもしれないけど、お客様の前で、城門でやることじゃねぇえええ!

 ……え?そもそも初っぱなこの状態で城門くぐった?そういう昔のことは良いの!今は、日本人二人の前でこの状況ってところが問題なの!ぼかぼか殴ってもダメージ一切通らないので、覇王様全然気にしてませんね。気にしろや!


「あぁ、そこの小僧」

「え?……あ、俺、ですか?」

「そうだ。貴様も運んでやろう。歩幅が違っては追うのも難しかろう」

「は?」

「あ、遼くん、色々諦めた方が良いよ。こいつ有言実行タイプだから」


 ぽかんとしている遼くんは、アーダルベルトにひょいっとつまみ上げられました。……そして、何故か彼は、覇王様の肩の上にちょこんと座らされております。ヲイ、待てやお前!何で遼くんは肩に座らせて、ワタシは担いだままなんじゃ!ワタシは荷物扱いか?!


「お前はうっかり落ちそうだからな。あぁ、小僧、落ちぬようにな」

「アディ、てめぇえええ!」

「は、はい」


 困惑している遼くんには悪いけれど、ワタシはとりあえず待遇改善を要求する!何でワタシは米俵みたいに担いだままなんだよ!遼くんみたいに肩の上に座らせるで良いじゃんか!何でそっちにシフトチェンジしてくれねぇの!?落ちるとか、お前がちゃんと支えてたら落ちないし!

 って、エーレンフリート!何でそんな「当たり前の事を言うな」みたいな顔してんだよ!お前の中で本当に覇王様の言動=正義すぎんだろ!どう考えたって、ワタシの主張間違ってないよ!ワタシは人間なんだよ!荷物違うわ!


「ライナー、そちらのご婦人はお前が案内しろ」

「承知しました」

「ライナーさん、あっさりワタシを見捨てないでぇえええ!」

「見捨ててなどいませんよ、ミュー様。ちゃんと追いかけますので」

「ちっがーう!」


 ぼかぼかと覇王様の背中を叩くワタシに向けられたライナーさんの笑顔は、それはそれは見事な、素晴らしい、美しい笑顔でした。ちくしょう!こんな状況じゃなかったら、イケメンの笑顔だーって堪能出来るぐらいに素敵な笑顔だよ!何でその笑顔でワタシのこと見捨てんの!?ひどくない!?

 そんなワタシをそっちのけで、ライナーさんは呆然としている真綾さんに声をかけている。とっとと歩き出している覇王様のせいでその会話はよく聞こえない。聞こえなかったんだけど、何言ってるのかは理解した。理由、ライナーさんが一礼した後に真綾さんを姫抱っこして、軽いダッシュで追いかけてきたから。……そうか、運ぶという選択肢にしたのか。てか、真綾さん照れてるな。そりゃ、ライナーさん美形だもん。


「姉ちゃん顔赤い」

「遼くん、お願い、突っ込まないで」

「申し訳ありません。あまり陛下やラウラ様をお待たせするわけにはいかないと思いましたから」

「アディ、アディ、ワタシもあっちの方が良い!その方が良い!」

「……別にしても良いが、お前、それすると脳内お花畑が煩いぞ」

「わかった。せめて肩に座らせろ」

「面倒くさい」

「この野郎!」


 人が代替案を出したってのに、一刀両断するんじゃねぇよ!どちくしょう!

 そんなわけで、一般人より歩幅が圧倒的に大きい覇王様の早歩きで運ばれるワタシと遼くん。片や肩に担がれて、片や肩に座らされてという変な構図なのは気にしないで欲しい。その後ろを、真綾さんをお姫様抱っこしたライナーさんと、手ぶらのエーレンフリートが追いかけるという、更にカオス。何だこのカオス。ヲイ、誰だ。ワタシが関わってるから全てカオスになるとか言ったの!この状況の元凶はアーダルベルトだよ!

 そんなこんなでワタシ達が辿り着いたのは、城に幾つもある応接室?客室?の一つだった。ソファとテーブルがあるから、応接室なんじゃないですかね?普段ワタシが立ち寄らないお部屋なので、よくわかりません。んで、その部屋では暢気に紅茶飲んでる外見幼女ロリババアがお待ち遊ばしておられました。

 あと、その傍らでぺこりとお辞儀をするユリアーネちゃん。ワタシ達に気づくと、人数分の紅茶を用意し始める出来た侍女です。……だけどね、ユーリちゃん。何でこの阿呆に見つかってんの……。ワタシが用事があったのは厨二病魔導士ラウラだけであって、覇王様は放置で良かったのよ?


「遅かったのぉ」

「これでも急いで来たよ」

「というか、お主、相変わらず陛下にそうやって運ばれておるのか……」

「それについてはワタシじゃなくて、アディに文句言って」


 呆れたような顔のラウラ。でもワタシ悪くないのです。肩から降ろされるワタシと遼くん。ライナーさんも、姫抱っこしていた真綾さんをそっと降ろしていた。遼くんや、面白がって真綾さんからかうの止めなさい。お姫様抱っこされるとか、日本にいたらよほどで無い限り経験しないことなんだから。

 とりあえずソファに全員着席して、ラウラに二人を紹介した。あ?アーダルベルトに紹介?そんなの後で結構です。本題はラウラだもん。つーか、何で覇王様ここにおるんよ。仕事に戻れや。


「お前、普段は仕事のしすぎだなんだと言うくせに、何で今日に限って追い払おうとするんだ」

「別にそういうわけじゃないけど、サボるのどうなん?って思っただけだし」

「急ぎの分は終わらせてある」

「さいですか」


 つまり、何を言っても戻るつもりはないようです。オッケー。もう今更だから、遼くん、ラウラに説明よろしく。あ、アーダルベルトのことは置物だと思っておいて大丈夫だから。


「いや、置物って、ねーちゃん……」

「置物で良いよ。で、説明」

「あぁ、うん。えーっと、ラウラ、さん?で良いのかな」

「うむ。堅苦しくなる必要はないぞ。送還に必要な術式を持っておるとのことじゃが?」


 にこやかに笑うラウラは、見た目だけなら七歳児ぐらいなのだ。お子様なのだ。幼女なのだ。それが妙に尊大な口調で話しているので、遼くんは困惑しているのだろう。真綾さんも混乱しているようだ。でも、一応ここに来るまでに説明はしておいた。ラウラは妖精族だから、見た目は幼女でも中身は三桁のババアだって。だから遼くんも、ちょっと口調がかしこまってたりする。

 ……ねぇ、遼くん。君、初対面の時、ワタシに対して割とフランクだった気がするのは、気のせいかな?気にしちゃ駄目なのかな?……うん、気にしないことにするわ。


「この紙に、術式が書いてあるそうです。俺にも姉ちゃんにも何のことかわかりません。ただ、召喚術の心得がある相手に見せれば、時を選んで送還して貰えると言ってました」

「ふむふむ。……ほほぉ。これはなかなか良い術式じゃ。安定しておる。これを用いて召喚したということか。……残念じゃ。是非とも生きている間に会いたかったのぉ」


 遼くんが渡した紙にびっちり書かれた術式を見て、ラウラは満足そうに笑った。どうやら、彼らを召喚したお爺さんは腕の良い召喚師だったらしい。こと魔法関係でラウラが誰かを褒めることは滅多に無い。それは、それだけラウラが凄腕だって事なんだけど。

 なお、蚊帳の外のワタシと覇王様は何をしているかと言えば、毎度お馴染みおやつ争奪戦でございます。てめぇ、その水ようかんはワタシのだって言ってんだろ!?今日は暑いから水ようかんって頼んだの、ワタシ!ワタシのー!


「この術式であれば、星の巡りが合わさればワシでも送還出来よう。それまでは城に滞在するが良い」

「……本当に?」

「うむ。ワシは嘘はつかぬよ。それで、お主ら二人を送り返せば良いのか?……この術式は、小童、お主だけに対応しておるようじゃが」

「え?」


 ラウラの言葉に、ワタシは思わずぽかんとして声を上げてしまった。遼くんも真綾さんも涼しい顔をしている。え?待って?だってそれ、二人を送還する為の術式じゃないの?真綾さんは日本に戻らないの?何で?


「ねーちゃん、日本に戻るのは俺だけだ。姉ちゃんは、こっちでやりたいことがあるんだと」

「は?!マジで?!ワタシずっと、二人とも戻るんだと思ってたんだけど!?」

「ねーちゃんの勘違いだろ。俺はちゃんと言ったぜ?「俺が、元の世界に戻るために」って。俺達とは一言も言ってない」

「……ソウデスネ」


 自分の記憶を辿ってみたら、まさにその通りでした。マジかよ、遼くん。てか、マジですか、真綾さん。こんな危険が溢れている世界で、何をしたいんですか。日本の方が安全だし、娯楽も溢れてるのに。何でや。


「せっかく貰った能力だから、こちらで生かしてみたいと思ったの」


 のほほんと笑う真綾さん。いや確かに、材料があったら薬を簡単に作れる能力とかお買い得だけど。それだけで異世界に住み着くことを決定しちゃうとか、真綾さん強すぎない?ワタシ?ワタシの場合は、そもそも帰る手段が存在しなかったし、覇王様に捕縛されてましたからね!国の最高権力者に捕縛されてんのに、逃げられるかい!

 

「ラウラ」

「何じゃ、陛下」

「その星の巡りが整うまで、どれほどかかる?」

「一週間ほどは必要じゃな」

「解った。ならばそれまで二人は正式に我が城の客人としてもてなそう。ミュー」

「あいあい。了解」


 すちゃっとお遊び敬礼をしたワタシに、覇王様は満足そうに頷いていた。お客様のお相手は任されましたよ、覇王様。っていうか、ワタシも、日本人な二人と色々故郷の話とかしたいしね。うんうん。

 は!?なら、真綾さんの客室にワタシもお泊まりとか可能かな?同じ城の中なんだし、大丈夫だよね?お泊まり会しよう、真綾さん!ユリアーネちゃんも一緒に女子会しよう!遼くん入れての日本人三人でお泊まり会でも良い!


「その辺は女官長と相談しろ」

「ユーリちゃん、さっそくツェリさんにアポ取ってきて!」

「承知しました」


 出来る侍女は、ワタシの無茶ぶりにもすぐさま反応してくれました。いやん。流石ユーリちゃん。大好きだよ!……あ、真綾さん、細かいこと気にしないで良いからね?遼くんも。宿代浮いたぐらいに思ってれば良いよ!


「思えるか!」

「思えないわよ!?」




 えー……?超美味しいご飯の出てくる、超安全なお宿なのに。何でそんなに力一杯否定されるのか、ワタシには全然わからないですー。

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